AAC
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/15 07:54 UTC 版)
概要
MP3等のMPEG-1 Audioや、MPEG-2 Audio BC (Backward Compatible) を超える高音質・高圧縮を目的に標準化された方式である。
MPEG-2 Audio BCとは異なり、符号化アルゴリズムにおいてMPEG-1 Audioとの互換性はない。ファイルに格納した場合の拡張子は、「*.mov,*.mp4,*m2ts,*.m4a,*.m4b,*.m4p,*.3gp,*.3g2」または「*.aac」。なお、放送ではADTS (Audio Data Transport Stream) と呼ばれるヘッダ形式で伝送されることが多い。サンプリング周波数はMP3が最大48kHzまでだったのに対し、AACは最大96kHzまで対応している。また、ビットレートはMP3が最大320kbpsなのに対し、AACは最大((チャンネル数)×(サンプリングレート)×6[1])bpsである[2]。
種類
MPEG-2 AACとMPEG-4 AAC
AACにはMPEG-2 AAC (ISO/IEC 13818-7) とMPEG-4 AAC (ISO/IEC 14496-3, Subpart 4) とが存在する。MPEG-4 AACは、MPEG-2 AACにPNSやLTPといった追加技術を利用可能としたものであるが、基本的なアルゴリズム自体に違いはなく、追加技術を使用しなければヘッダの一部分が1ビット異なるだけであり、通常の使用では区別する必要はほとんどない。
- PNS (Perceptual Noise Substitution)
- PNSは、エンコード時に低減されたノイズを記録する追加技術である。
- LTP (Long Term Prediction/長期予測)
- LTPは、低周波帯域の波形を記録する追加技術である。
AACプロファイルと追加技術
プロファイル
AACにも拡張機能が使用可能かどうかによって幾つかの種類があるが、一般的に利用されているのはAAC-LC (AAC Low Complexity) と呼ばれる基本機能だけを用いるものである。
- MPEG-2/4 AAC-Main
- メインのAACとして開発された方式。AAC-LCと比べると、圧縮率は高いものの演算量が多く、再生負荷が大きい。
- WEBブラウザであるGoogle Chrome[3]が対応してるものの、Windows[4]、Android[5]、iOS[6]といったプラットフォームでは標準では対応しておらず(もしくはMainプロファイルについての情報が公開されていない)、あまり普及してるとは言えない。
- MPEG-2/4 AAC-LC (Low Complexity)
- AAC-Mainから後方予測 (backward prediction) の機能を除いた方式。AAC-Mainよりも音質は劣化するが、再生負荷が小さい。
- MPEG-2/4 AAC-SSR (Scalable Sample Rate)
- 周波数によって4つのブロックに分解し、それぞれを符号化する方式。
さらにMPEG-4 AAC-LTP(後述)をプロファイルに数える場合がある。
追加技術
MPEG-4 AAC v3においては、SBR (Spectral Band Replication) やパラメトリックステレオ (Parametric Stereo) 技術によって64 kbpsを下回るような超低ビットレートにおける品質を改善するHE-AAC (High-Efficiency AAC) が追加承認されている (AAC-LC, HE-AAC (aacPlus, AAC+SBR), HE-AAC Version 2 (aacPlus Version 2, Enhanced aacPlus, AAC+SBR+PS))。
- MPEG-2/4 HE-AAC (High-Efficiency AAC)
- AAC-LCにSBRの機能を追加したもの。SBRは高周波域の波形を補完するツールである。SBRを利用することで低ビットレートでも中~高音質の再生を可能としている。
- バージョン2が開発されて以降、区別のため、名前の後ろに”version 1”などを付ける場合がある。
- MPEG-2/4 HE-AAC v2 (High-Efficiency AAC version 2)
- AAC-LCにSBRとPSの機能を追加したもの。PS (Parametric Stereo) はモノラルの音声を擬似的にステレオに復元するツールであり、HE-AACよりもさらに低いビットレートで中 - 高音質の再生を行えるようにする。
- MPEG-4 xHE-AAC (eXtended High-Efficiency AAC)
- AAC-LCにSBRとPS、USACの機能を追加したもの。USAC (Unified Speech and Audio Coding) は声と音楽のどちらの音質にも重きが置かれるよう作られたツールであり、HE-AAC v2より低いビットレートでもある程度の音質が確保される。
- MPEG-4 AAC-LTP
- AACにLTPの機能を追加したもの。LTPはすべてのMPEG-4 AACに付加することが可能である。
- MPEG-4 AAC-LD (Low Delay)
- エンコードなどによる延滞時間を減少させたAAC。テレビ電話などで使用することを目的としている。
- MPEG-4 AAC-ELD (Enhanced Low Delay)
- MPEG-4 AAC-ELD v2 (version 2)
- AAC-LDを改良した方式。
- MPEG-4 SLS (Scalable Lossless Coding)
- MPEG-4の可逆圧縮の一種。AACと組み合わせたものをHD-AACと呼ぶ場合がある。
利用状況
MPEG-2 AACは主に日本のBS/110度CS 2Kデジタル放送と地上デジタル波放送のISDB規格やSD-AudioのAACフォーマット、ヨーロッパ圏のDVDなどで利用できる。北米や日本のDVDでは、AACではなくAC-3やDTSが採用されている。
MPEG-4 AACはiPodなどのデジタルオーディオプレーヤー、PlayStation PortableやDSiなどのゲーム機、日本のBS/110度CS 4K/8Kデジタル放送、携帯電話等、多くの機器やソフトウェアがサポートしている。また、第三世代携帯電話用の動画フォーマットである3GPPや3GPP2の音声圧縮方式としても採用されている。
音楽配信サービスでは、パソコン、iPod向けのiTunes Storeや携帯電話向けの着うたでAACが採用されている。ただし、これらのファイルの一部にはDRMが導入され、同じAACであるが互換性がないものがある[7]。デジタルオーディオプレーヤーの代表格であるiPodおよびiTunes(標準でAACを使用する)がAACに対応していることもあり、以前はAACに対応していなかったソニーやパナソニック、ケンウッド(現・JVCケンウッド)などのデジタルオーディオプレーヤーも現在ではAACに対応している。
またアップルでは前述のiTunesでの音楽配信のほか、ワイヤレスイヤホンマイクAirPods・スマートスピーカーHomePodや、FaceTime(AAC-ELD系)[8]などで使用している。
- ^ AACの仕様では1024サンプル当たり最大6144bpsと決められているので、1サンプル当たり6144÷1024=6bpsという計算になる。
- ^ 例えばCD音質の場合、最大2×44100×6=529200bps=529.2kbpsである。
- ^ “Audio/Video - The Chromium Projects”. www.chromium.org. 2021年5月29日閲覧。
- ^ “Supported Media Formats in Media Foundation, AAC Decoder”. Microsoft. 2021年5月29日閲覧。
- ^ “サポートされているメディア形式 | Android デベロッパー”. Android Developers. 2021年5月29日閲覧。
- ^ “[iPhone/iPad]再生できる音楽ファイル形式を教えてください。 | よくあるご質問(FAQ) | サポート”. ソフトバンク. 2021年5月29日閲覧。
- ^ 例えばiTunes Storeでは以前、拡張子が .m4p のAACが配信フォーマットとして用いられていたが、これにはiTunes Store独自のFairPlayというDRMが付加されていたため携帯電話で再生することができなかった。2009年にはiTunes Storeにおいて大半の曲がDRMフリーでリリースされた。ただし一部のメタ情報やデータコンテナの相違から、そのままのオーディオファイルを使用する場合に非互換性が残る場合がある。
- ^ 海上忍「いまさら聞けないiPhoneのなぜ 格安SIMでもFaceTimeオーディオは快適に使える?」『マイナビニュース』 マイナビ、2016年1月25日
- ^ “米Dolby、音声圧縮技術「MPEG-4 AAC」特許の一括ライセンスプログラムを開始”. 2002年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2002年3月27日閲覧。
固有名詞の分類
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