93式空対艦誘導弾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/21 06:16 UTC 版)
種類 | 対地、対艦ミサイル |
---|---|
製造国 | 日本 |
設計 | 技術研究本部・三菱重工業 |
性能諸元 | |
ミサイル直径 | 35.0cm[1] |
ミサイル全長 | 4.0m |
ミサイル全幅 | 1.2m |
ミサイル重量 | 530kg |
弾頭 | HE |
射程 | 推定144キロメートル (78 nmi)以上[2]もしくは推定170キロメートル (92 nmi)[3] |
推進方式 | TJM2 ターボジェットエンジン[1][2] |
誘導方式 |
慣性誘導(中間) 赤外線イメージ誘導(終末) (B型では中間誘導にGPSも使用) |
飛翔速度 | 1,150km/h |
概要
日本は、その四周を海に囲まれている地勢から、防衛兵器としての対艦ミサイルの開発に熱心である。1980年代には増勢するソビエト太平洋艦隊の着上陸能力に対処するために80式空対艦誘導弾(ASM-1)を独自開発し実戦配備した。
ASM-2は、ASM-1を補完するために新たに開発された国産空対艦ミサイルである。ASM-1と異なり、終端誘導は赤外線イメージ誘導を用いている[1]。航空自衛隊では、誘導方式が異なる2種のミサイルを保有・運用することが対妨害性確保に有用と判断している[4][5]。
なお、制式要綱上は本誘導弾の用途として、「93式空対艦誘導弾は,戦闘機に搭載し,主として侵攻する戦闘艦艇を攻撃し,その防空能力を無力化するために使用するものである。」としており、主に相手のエリア防空艦などを目標とし、艦隊の防空能力を排除することを重視していることが確認できる[6]。
開発・運用
開発は防衛庁(現 防衛省)の技術研究本部と三菱重工業が中心となって行われた。1986年に部内研究が開始され、1988年より試作に入っている[1]。ASM-1からのファミリー開発であり、88式地対艦誘導弾(SSM-1)開発の成果も取り入れられている。開発経費は約118億円[7]。
開発の重点は、長射程化と敵の妨害への対処能力の強化、重要目標へ命中させるための目標選択アルゴリズムの強化である。ASM-1ではエンジンがロケットであったが、射程の延伸を図るために、ASM-2では、エンジンがSSM-1で実用化されたTJM2ターボジェットエンジンに変更された[2]。空中発射方式のため、ロケットブースターは有さないが、カートリッジスタータが設けられている[1]。飛翔の中間段階までは慣性誘導が行われるが、最終段階では赤外線画像イメージによる誘導が行われる[1][2]。フレア判定などの対妨害能力も有する。
赤外線イメージ誘導は、気象条件の影響を受けやすいが、電波妨害の影響を受けないほか、ASM-2では艦の種別判別による目標選択が可能となっている[2]。また、艦船形状判定より、ミサイル命中点を指定することができ、艦橋への直撃など、より撃破効率を高めることができる[4]。ミサイルは発射後、シースキマー飛翔を行う[1]。また、目標再捜索モードやBOL発射モード(方位のみの設定による発射)など、各種捜索モードも備えている[1]。弾頭部もASM-1より改良され、遅延信管を用い、LOVA性に優れたPBX系炸薬に焼夷材を加えたものとなっている[1][2]。
外形はASM-1とほぼ同様であり、魚雷型の胴体中央部に主翼となる小型の4枚のフィンがついており、胴体後部に4枚の操舵翼がある[1]。これら翼部品には、電波吸収材を用いたステルス翼も用意されている[1][2]。また、エンジンのジェット化により、下面に空気取り入れ口が追加されている[1]。
搭載可能な機体はF-4EJ改およびF-2戦闘機であり、航空自衛隊では、F-2戦闘機を有する戦闘機部隊で運用している。F-4EJ改は2発、F-2はASM-2を4発搭載できる。F-1(2006年退役)にも2発搭載可能[1]であったが、運用期間のほか、レーダー・FCSの問題によりASM-2の長射程を生かすことはできず、搭載事例は少なかった[2]。
なお、中間誘導用にGPS誘導方式を追加して誘導精度を高めた改良型の93式空対艦誘導弾(B)(ASM-2B)の開発が2000年から2002年にかけて行われ[4]、調達がなされている[8]。
開発計画
技術開発項目名: 新空対艦ミサイル(XASM-2)
項目/年度 | 1984 | 1985 | 1986 | 1986 | 1987 | 1988 | 1989 | 1990 | 1991 | 1992 | 1993 |
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部内研究 | ■ | ■ | ■ | ■ | ■ | ||||||
試作(その1) | ■ | ■ | ■ | ||||||||
試作(その2) | ■ | ■ | ■ | ||||||||
技術試験 | ■ | ■ | ■ | ||||||||
実用試験 | ■ | ■ | |||||||||
装備審議会 | ■ |
技術的課題
- 誘導総合性能
- 母機適合性
- LOVA型性能向上型弾頭性能
- 信頼性及び貯蔵性
- 赤外線画像誘導技術
- システム仕様
区分 | 採用する方式 | 代替え方式 | 採用理由 |
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誘導方式 | 赤外線画像誘導方式 | 赤外線誘導方式 | 目標識別能力の付与 命中点指定能力の付与 |
推進方式 | ターボジェットエンジン | 固体ロケット | 長射程化 |
翼材料 | 電波吸収構造材 | 金属材 | 残存性の向上 |
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 技術研究本部50年史 P196-198
- ^ a b c d e f g h 「F-1の誘導兵器とFCS」,川前久和,世界の傑作機No117 三菱F-1,P42-47,文林堂,2006年
- ^ 図解 戦闘機の戦い方,毒島刀也,遊タイム出版,2014年,P186,ISBN 978-4860103491
- ^ a b c d 新空対艦誘導弾“ASM-3”,宮脇俊幸,「軍事研究」,2013年6月号,P38-50,株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー
- ^ 政策評価書(本文)(事前の事業評価)事業名 新空対艦誘導弾(XASM-3)平成14年
- ^ a b 制式要綱 93式空対艦誘導弾
- ^ 誘導武器の開発・調達の現状 平成23年5月 防衛省経理装備局システム装備課
- ^ 平成23年版 日本の防衛 資料18 誘導弾の性能諸元、平成23年度 防衛白書
- ^ 防衛庁技術研究本部 編『技術研究本部50年史 2 技術開発官(航空機担当)』防衛省、2002年11月、117-120頁。
- ^ “ASM-2B改善弾の実射試験時の様子”. Twitter. 2021年1月19日閲覧。
- 1 93式空対艦誘導弾とは
- 2 93式空対艦誘導弾の概要
- 3 主要構造(制式要綱に基づく)
- 4 登場作品
- 5 脚注
固有名詞の分類
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