5五の龍
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/25 08:57 UTC 版)
誌上企画など
前述通り編集長が将棋好きという事もあり、単に将棋漫画を連載したのみではなく、将棋をテーマにした企画が多数掲載されていた。
- キング将棋講座 - 担当は前述の関根と大内。
- つのだ杯争奪小・中学生将棋大会 - 中学生部門で優勝したのは塚田泰明で、現在専門棋士である。愛蔵本にも推薦文を寄せている。
- 当時の人気棋士の生い立ちを1ページで紹介するミニ伝記
- 対女流棋士十番勝負 - 当時の女流棋士10人につのだが、全局平手により5五龍中飛車戦法で挑むという対局。結果はつのだ側の3勝7敗。対谷川戦は、本作中において桂が見せ槍銀戦法[33]で、駒形の5五龍中飛車戦法を破る一局の原型となった。山下女流名人にはあと一歩で勝つところまで行ったが、中原に「何度も必死を逃した。惜しいですね!」と高評価された。自戦記はキングに掲載された後、ヒットコミックス版では最終刊に収録されている。
- (※タイトル、段級位、氏名は当時)
- つのだが挿絵を担当した将棋入門書も登場した。
特記事項
- いわゆる羽生世代が小学生時の作品で、羽生も奨励会時代に5五龍中飛車を指してみたこともあったと言う。本作の影響か、奨励会受験者が毎年20人弱しかいなかったのが、翌年40人、翌々年60人と急増、やむをえず受験方法が変更された。
- 連載当時、現実に実施されていた奨励会入会試験が本作で公開されていたが、一部割愛されていた。ちなみに当時の将棋世界誌では全問公開されている[34]。
- 作中、竜らが参加した中学生将棋名人戦は第3回(1978年度)にあたる。作品世界では棒銀が優勝したが、現実世界では達正光が優勝している。
虹色四間
- 「近代将棋」1997年5月号〜1998年8月号)に全16回、毎回16頁で連載された。また97年発行分の同誌は表紙を同作のカラーイラスト(全8枚)で構成している。単行本化は行われていない。
- 新たな主人公の紺野水城が女流育成会に入会、プロ2級となるまでを描くが、駒形竜を初めとする「5五の龍」登場キャラクター数名が再登板するため前作の続編と見る事もできる[35]。
- 女流育成会が舞台の中心となるため若い女性のキャラクターが大半を占める事情もあり、つのだ氏名義の作品ではあるがアシスタントによるキャラクター作画が前作以上に多く、つのだ氏担当キャラとの乖離が大きくなっている。このため対局シーン等はさながら「異なる漫画家による合作マンガ」の如き様相を呈する。
- 作中の進行に伴った「次の手を予想する出題」は前作同様で、初心者からアマ2級くらいまでを対象。
「5五の龍」からの継続キャラクター
かつての登場キャラはいずれも、新規のメインキャラクターを支えるコーチ・先輩として登場する。
- 駒形 竜
- 棋界で最も厚い壁と言われる三段リーグを越えられず退会。しかし将棋の魅力を忘れられず、飛騨の山奥にこもり駒職人となった [36]。
- 虎斑 桂
- 同じく三段リーグにいたが、竜の退会後勝てなくなり[37]、関西棋士・柾目七段[38]のプロポーズを受け奨励会を退会、大阪に移住した[39]。
- 棒銀 三郎 八段
- 高段棋士になっている。登場の際は常に高美濃と一緒で、対局を観覧し(主に読者への)解説を担う。またAクラス昇級の真野が急死した際は、 高美濃と共に水城の実力を推して繰上げ昇級への道を開いた。
- 高美濃 弘 六段
- 同期の奨励会員で専門棋士として登場するのは、彼ら二人だけ。将棋会館近くに居を構え、早苗に将棋を教えた。
本作からの新規キャラクター
- 紺野 水城(こんの みずき)
- 主人公の女子高生、名前は虹の「青色」に由来。虎斑桂同様のロングヘアー、切り揃えた前髪にヘアバンド[40]が目印。連載当初は左頬にエクボが描かれた。服装は一貫して学校制服のブレザー[41]にルーズソックスと、当時のコギャルそのもの。97年8月号表紙のカラーイラストではリモンと共に水着姿を披露した。将棋とは無縁のコギャル生活を送っていたが、偶然知り合った「あやばぁ」の主張=「女流棋士を本気で目指せば、数年でトップクラスになる可能性が他の道より高い[42]」に感化され、女流育成会への入会を決意する。両親も将棋に無縁の一般家庭で、水城が将棋練習用のパソコンをねだっても「遊びのための余裕はない[43]」と一蹴された。
- 馬場 綾(ばば あや)
- 将棋通には有名な老女で、通称「あやばぁ」。嘗ては飛騨の中飛車の妻だったが、「将棋の鬼」振りに嫌気がさし離縁、旧姓に戻した。自らも女流プロ有段者に匹敵する棋力を持ち、現在は新宿近辺で路上生活を営みつつ企業社長への将棋指導をしている。水城と知り合い女流棋士への道を薦めた縁で、数々の支援を施す[44]。竜に水城を託した後はしばらく大阪へ滞在していたが、帰京後は女流アマ女王戦に出場し虎斑桂と決勝を争う。さらに不振に喘ぐ緑川千草と出会い「現代ハメ手」を直伝する。
女流育成会のライバル達
水城を含む同期入会7人の名は虹の七色から命名されており、本編内でも「虹色の七人」と注目を浴びる。
- 萌 早苗(もえぎ さなえ)(黄緑)
- 7歳にして入会。外見が前作の平手香と非常によく似ている [45]。成績は概ね良く、水城に一期遅れてAクラスに昇級する。実家は将棋会館近くでラーメン屋「華珍軒」を営み、出前常連の高美濃から将棋を教わった。また「華珍軒」の2階は夜以外、将棋関係者に開放され研究会が常時行われており、男性の若手棋士たちや虎斑桂、リモン、チェリー等が集い、後に水城も通うようになる。
- リモン(里紋) アマリージョ 山吹(りもん あまりーじょ やまぶき)(黄)
- ブラジルから単身帰国した日系三世で、真中から分けて束ねた黒髪と褐色の肌が特徴。日本人の祖父に将棋を教わるも現地に対戦相手が無く[46]、もっぱらパソコンの将棋ソフト相手に上達した。そのため育成会が初の対人戦となる。旅費を出してくれた祖父をプロになって日本に呼ぶのが夢だが、祖父が病床に伏したため昇級を焦る一面も。居飛車穴熊(イビアナ)を得意とし成績は優秀で、Bクラス時は水城の「橙四間」を虎斑桂の指導により破り通算2位[47]でAクラスへ昇級、後のAクラスリーグ戦でも最終日まで優勝候補としてもつれ込む。
- 藤江 桔梗(ふじえ ききょう)(紫)
- 女子高生。奨励会にも所属しており、目的はあくまでも奨励会を突破しての初の女子プロ棋士であり、育成会から女流棋士への道は最悪時の保険と考えている。女流育成会では実力を考慮されAクラスに編入、水城のプロ昇級への最後の障壁となる。居飛車穴熊の名手でアマ四段以上の棋力を持つとされる実力者だが、二手指しやハメ手等で「信じられない星を落とす」悪癖がある。
- チェリー・スカーレット(赤)
- チェスのアメリカ高校チャンピオンで、将棋で金儲けの為に来日した。髪は黒系で、バスト100を越えるグラマラスな巨体の持ち主。アルバイトで水商売を深夜3時までしているため遅刻する事もしばしばあるが、成績は優良で早苗と同時にAクラスへ昇級する。一時、女子プロレスラーを目指していたとの噂もあり、本編ではヘッドロックとヒップドロップを披露。父もアマチュア五段の腕前で海外支部長。
- 緑川 千草(みどりかわ ちぐさ)(緑)
- 太めの中学2年、学校ではお笑い系の人気者。5七銀右戦法による急戦が持ち味だが、自信の無さから勝負手に迷い自分で敗けに行ってしまう傾向があり、「万年お客様」となって退会・自殺まで思い詰める。その後「あやばぁ」に出会い、序盤から圧倒的優勢に持ち込む「現代ハメ手」を直伝され再起する。
- 東雲 杏子(しののめ きょうこ)(橙)
- 眼鏡の女子大生。大学の研究と両立のため成績は低迷。
- 真野 理枝(まの りえ)
- Bクラス前回順位2位。髪をリボンで後ろに束ねた清楚な外見とは裏腹に強気な性格。今期の成績は独走状態で昇級確実と目されていたが、最終日にO157に感染し途中退席、そのまま死去する[48]。
- 木田 文子(きだ ふみこ)
- Bクラス前回順位1位、ポニーテールのスリムな女性。実力はあるがやや軽率な面があり、水城の「赤四間」に敗れる。繰上げ昇級した水城をやっかむ一面も。
- 田上 直美(たがみ なおみ)
- Bクラス前回順位3位。
- 小泉 栄子(こいずみ えいこ)
- Bクラス前回順位4位。
- ピカリン
- Aクラス所属、金髪のハデなツインテールをしており本名は明らかになっていない。水城が仕掛けた「現代ハメ手」に沈む。藤江桔梗と並び「つのだじろう感」から外れた極北のキャラクター。
その他のキャラクター
- 佐別(さべつ)七段
- 女流棋士に差別的意識を持つ高段棋士。チェリーがアルバイトしている店に客として入り、その発言からチェリーのプロレス技を喰らう。
- 泡手(あわて)理事
- 将棋会館に勤務。桂が「夕刊事件」記者と組んで出した記事の対応に大慌てする。
- テレモート
- 観光でブラジルから来日した、リモンの高校時代の友人。派手な金髪がトレードマーク。チェスは自称強いが、将棋は未体験。
- 田原 泰道(たはら たいどう)
- 将棋ファンの書道家で、棋士も書道を学ぶべきと主張する。彫り駒の書体を見てもらうべく、竜が通っている。
- 解説マスコット・と金ちゃん
- 前作の「先生とネコ」に相当する解説キャラクター。「と金」を胴体とした人形風で、お下げ髪を伸ばして矢印として用いる。
登場する戦法
戦法は四間飛車など振り飛車系が中心。 これは将棋未経験の水城に「あやばぁ」が「一つの戦法を徹底して覚えろ」とアドバイスした事に起因する。
- 虹色四間
- 竜が「あやばぁ」の要請により整理作成した、基本は四間飛車だが相手の出方で千変万化する戦法で、以下のバリエーションを持つ。順に水城に伝授されたが、いつまでも竜の工夫を頼りにせず実力で勝って行け、という桂の指摘を受け方針変更、「緑四間」以降は水城自身の研究・工夫で作り上げる事となった。
- 赤四間
- 「立石流」戦型の変化。木田、チェリー、真野に三連勝しAクラス昇級への望みを繋いだ。
- 橙四間
- 大山十五世名人が全盛期に活用し、升田名人が山田九段に指したが、現在は知られていないとされる戦法。「王飛接近すべからず」の悪型を逆用する。Aクラス昇級最終日に投入され「見たこともない手」と評した早苗、杏子を破るが、桂の指導を受けたリモンに山田九段の手順を再現され敗れる。
- 黄四間
- 前期Aクラス昇級戦終了後に、竜から手渡された棋譜より伝授。居飛車の「5筋位取り戦法」に対し、4筋から5筋へ飛車を振り直し、5筋から強く反発する作戦。
- 黄緑四間
- 超急戦変身向い飛車。Aクラス昇級後・緒戦の藤江に使用するが、通用しなかった。
- 緑四間
- 「華珍軒」の研究会で得た右四間戦法をベースに、水城が自ら完成させた戦法第1号。
- 青四間
- 竜から手渡された参考資料をサンプルとした戦法。「緑四間」を知る早苗に使用し快勝した。
- 紫四間
- 女流アマ女王戦・決勝戦で虎斑桂が披露した手順より着想を得た戦法。対居飛車穴熊に有効でリモンに勝利する。
- 虹色四間
- 右桂の活用を急いで攻撃の主導権を握る「藤井システム」を水城が自ら研究して物にした、「赤四間」〜「紫四間」の完成型。プロ昇級を賭けた最終日、水城はこれで戦うと決意した。
- 現代ハメ手(急戦向い飛車)
- 「あやばぁ」こと馬場綾が、緑川千草の再起のため授けた戦法。先手で向い飛車を指す際、敵陣整備の間隙を狙っての連続手順で、敵陣を壊滅に追い込める。今までのハメ手を改良工夫し序盤速攻で圧倒的優勢を握り、中盤で多少悪手が出ても勝ちに持ち込めるのが目的で、プロ間ではともかく育成会Bやアマ相手には十分通用するという。途中からの別変化は水城が対局中に披露している。
- 中飛車ハメ手
- 竜が「結構面白い」と評する、原始中飛車から始まるハメ手順。強い相手と指す場合、相手が知らない事に賭けて博打的に用いられる物だが、今回水城が最終局で桔梗に使用する[49]。
- ^ 連載当時五冠王時代の最盛期だった
- ^ もちろん実際に棋譜を並べれば、より本作の面白さを実感できる。
- ^ また飛車落ち定跡については、つのだじろう独自の研究も紹介している。
- ^ これは主人公の竜だけでなく、将棋の初心者全般の傾向でもある。
- ^ 実際その対局も1日では終わらず、日をまたいで勝負は続いている。
- ^ 宗桂寺の名称は、安土桃山時代の将棋初代名人大橋宗桂より。
- ^ これは虎斑の厚意ではなかった。彼は勝負が優勢であるのを見越して、実力が劣る中学生の竜に難なく勝つつもりであった。わざと際どく指して竜の再挑戦を誘い、竜馬にかわって今度は竜に「おとくいさん」(カモ)になってもらう算段であった。
- ^ 奨励会の最下部は7級であり、それでも勝てないと強制的に退会となる。
- ^ 将棋盤の中央を指す。
- ^ 事態の解決策として将棋大天狗は、特殊ルールの将棋「八方桂」「反射角」「獅子王」を二人に提案する。この勝負でも梅木は1勝1敗、3局目も明らかに優勢だった。しかし将棋大天狗の真意を理解し、最後は竜に勝ちを譲った。
- ^ その棋譜ファイルを後日読んだ駒形竜馬いわく、「変幻自在、まさに中飛車の鬼」
- ^ 飛田と竜の話を聞いた芦川は、噂をうのみにした自分を反省。稽古将棋ではなく真剣勝負として、改めて公開対局を申し込む。さらに「居飛車で対応する。」と戦型の限定も予告し、その場で竜の破門も取り消した。
- ^ この飛田vs芦川八段の戦いは、大内延介八段(連載当時)および田中寅彦四段(連載当時)の協力のもと、作中に第一手目から投了までの全棋譜が掲載されている。数ある「5五の龍」の将棋の対局の中で、もっともページ数を費やした名勝負であった。
- ^ 初対面の穴熊に「ゲタか将棋の駒みたいな顔した」と言われていた。
- ^ 関西の将棋界の隠語で「くすぶり」と言う。
- ^ 中学卒業までに奨励会の二級を突破すること。二級はプロ棋士(四段)に至るまでの中間地点に相当。
- ^ 林葉直子、1979年度入会
- ^ この話はフィクション化されてはいるが、奨励会で実際にあった有名な実話がモデルとなっている。
- ^ 駒落ち定跡の一つ
- ^ 架空のタイトル棋戦
- ^ 現在の順位戦B1組
- ^ 自殺騒動、と金道場の紹介、飛騨の中飛車の一件など
- ^ 名前の由来は早石田戦法より
- ^ 並八(なみはち)とは、並みの八段のこと。
- ^ 虎斑の名前は、将棋に使われる駒の木に出る模様に由来している。
- ^ 初期のヒットコミックスの単行本では「かおる」となっていた。
- ^ つまり、虎斑桂の妹弟子にあたる
- ^ 「私は思い焦がれています」と書くつもりが「私はおいもを焦がしています」と書いてしまった
- ^ 奨励会隠語で「簡単に勝ち星が取れる弱い奴」
- ^ 連載当時
- ^ 直前の保有タイトルは棋王のみ
- ^ 『奇襲大全』 湯川博士・著 森雞二・監修 毎日コミュニケーションズ ISBN 4-89563-536-8
- ^ これはつのだが勝手に命名した戦法名で、現実には「カニカニ銀」の名が定着している
- ^ つのだ曰く「連盟の意向による。全部知ろうなんてムシが良すぎるからネ!」
- ^ 一方で「5五の龍」を入門マンガとして登場させ水城もこれを読み基礎を覚えるため、メタフィクション的読み方もできる。
- ^ 銘は「五龍作 湖竜書」
- ^ 本人曰く「気が抜けた」
- ^ 前作に登場した端歩朝三の師匠と同一人物?
- ^ 竜がこの後聞いた「虎斑が柾目に変わった」という噂は、駒の材質に掛けている。
- ^ カラーイラストでは将棋駒の柄が施される
- ^ 胸のエンブレムに「龍学」
- ^ これは前作で高早高女子将棋部の訪問を受けた際の、竜の発想とも共通する。
- ^ 当時価格二、三十万
- ^ 四間飛車の基礎を伝授、中古パソコンを企業から都合、竜を飛騨から招聘など
- ^ 「香車」のチョッキも健在
- ^ 祖父は強すぎて手合い違い
- ^ 真野の急死により繰上1位
- ^ このため途中退会扱いとなり、通算3位で終了した水城が繰上げ昇級となった。
- ^ 水城は堂々と虹色四間で戦うつもりだったが萎縮してしまい、竜から借りた駒が光る手順を信じて追って行ったらこれになってしまった。桂は「ハメ手好きの竜の性格が駒に乗り移った」とからかい、竜は自嘲する。
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