宮島の鹿
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種
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すべてニホンジカ(Cervus nippon)になる[22]。分子遺伝学的研究により、宮島の鹿は対岸の広島と山口の個体群に近い宮島固有の歴史を持つ個体と裏付けられている[1][8]。つまり奈良や京都の個体とは関係がない。繁殖活動・出産・子育などは人為的な介入はなく自然状態で行われている[1]。人懐っこいため半野生状態とみなすものがいるが、住民自治体とも所有者ではなく飼育管理していない[1]。そのため「人為的な影響を受けた野生動物」と位置づけられている[1][8]。
協議会が管理計画の対象としているのは北東部の市街地周辺の個体のみ[16]。なお島全体が世界遺産のバッファーゾーン、かつ瀬戸内海国立公園内の鳥獣保護区[12]、更に国の天然記念物である弥山原始林を始めとして大部分が国有林[12]であり、安易な対応はできない。
2019年度協議会資料によると、市街地を中心とした島の北東部での推定個体数は約600頭と推定されている[23]。島の北東部の調査範囲面積で考えると、密度は約100頭/km2になる[23]。一般にシカの生息密度は10頭/km2程度でも植生や生態系に影響がでるため、市街地近辺の鹿は自然の環境収容能力を大きく超えていることになる[23]。うち、市街地内域には約200頭生息すると言われている[6]。
一般的な生息についてはニホンジカの項を参照。以下宮島の市街地を中心とした鹿の主な特徴を列挙する。
- 生息域は大きく分けて2つ、夜間を含めてほぼ山の中で過ごすもの、市街地に定着したもの、になる[1]。山の中にいる鹿は、人が近づくのを嫌がるものがいれば[2]、地元住民が「鹿の通勤」と呼ぶ朝に餌を求めて市街地へ降りて夜に山へ戻るものがいる[5]。ニホンジカは一夫多妻あるいは乱婚であり、生息区域や環境によって個体群構成が変わる[24]。宮島のものは、初めは森林内や林縁部で小さい群れを形成していたところへ、人為的な給餌によって市街地の低地部に集中しだしたと考えられている[24]。地元の伝承によると、かつて島の谷や原などそれぞれの生息域では「関」と呼ばれた群れを統率した老大鹿がいたという[5]。
- 一般にニホンジカはそれぞれ行動域を持ち、その外に出ることはあまりない[6]。市街地近辺では長年の給餌の影響によりオスが分散しなくなり定住性が高くなっている[24]。つまりオスが成長し繁殖時期をむかえても母・姉妹と同じ場所で生息するようになり、結果血縁関係のあるものが交尾する可能性が高くなっている[24]。
- 広大附属宮島自然植物実験所の2002年(平成14年)頃の報告によると、ニホンジカは基本的に草食であるが、宮島のものは生肉・生魚・海藻・海岸漂流物の野菜果物・その他人間が食べるものをすべて食べるという雑食性が確認されている[7]。観光客からの餌に頼っているものの中にはビニールを食べるものもおり、結果胃に蓄積したビニールが大きな塊となって十分に栄養が取れていないという[25][6]。食物繊維だからと紙を食べさせようとする観光客もいるという[6]。また市街地にある芝生はあくまで餌場の一つであり、実際には森林内の植物を始めとして多くの種類の植物を餌としている[26]。
- 体格の小型化・成長の遅延化
- ニホンジカは日本列島に広く生息しているが、南に行くにつれ体サイズが小さくなる傾向がある[27]。例えば成獣メス体重でみると、北海道で60kg以上、本州中部で50kg、奈良の鹿(奈良公園)で45kg、宮島の鹿と類似する遺伝的背景を持つ山口県の個体群で40kg、九州で30kg程度になる[27]。宮島の成獣メスは30~35kgぐらいであり、本土側のものより明らかに小型化・成長の遅延が現れている[27]。これは自然の環境収容力を超えた高密度状態が継続していることが影響していると考えられている[27][26]。
- 体格の小型化・成長の遅延化は繁殖開始の年齢にも影響している。栄養状態の良い一般的なニホンジカのメスは1歳で性成熟し2歳で出産するようになるが、宮島のものの多くは2歳~3歳で妊娠し3~4歳で初産することがわかっている[19]。かつては4歳で初産する個体が多かったが、最近では3歳初産の個体が増えている[19]。これは栄養状態の改善、つまり恒常的な給餌の増加が要因であると考えられている[19]。
- 一般的なニホンジカのオスの角は、1歳では枝のない角を持ち、4~5歳までに成長して4尖の枝角になる[28]。宮島のものは体格の小型化・成長の遅延化に伴い角が小さい[28]。ただ角の発達は個体によって大きなばらつきが見られる[28]。
- 市街地近辺での出現個体数は、夏から秋にかけては少なくなり、秋から早春にかけては増える、という季節変動が見られるようになった[18]。これは森林内の餌の変化量に関係があると推測されており、更にサシバエの存在が影響していることがわかっている[18]。
- 生息個体数は、2007年(平成19年)の鹿せんべい販売中止以降、2010年(平成22年)頃には個体数減少傾向が見られたが、2015年(平成27年)から2018年(平成28年)にかけて増加している[9]。
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i j k 資料2 2019, p. 2.
- ^ a b c d e f g h i 中村緑. “宮島----世界遺産の島------”. 広島大学総合科学部環境地形学研究室. 2020年9月2日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 淺野 2002, p. 198.
- ^ “宮島が神の島と呼ばれる理由とは・・・”. ホテル宮島別荘 (2016年10月13日). 2020年9月2日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i “11.シカの通勤 薄らぐ野生 餌求め下山”. 中国新聞 (2006年1月15日). 2020年9月2日閲覧。
- ^ a b c d e f g “しか・たぬき”. 宮島観光協会. 2020年9月2日閲覧。
- ^ a b c d “宮島のシカの食害”. 広島大学附属宮島自然植物実験所. 2020年9月2日閲覧。
- ^ a b c 管理計画 2019, p. 7.
- ^ a b c 生息状況 2019, p. 4.
- ^ a b c d e f g h i j 管理計画 2019, p. 1.
- ^ 管理計画 2019, p. 19.
- ^ a b c d e 淺野 2002, p. 200.
- ^ 植物のこころ. 岩波新書. (2001年5月8日)
- ^ a b c d e f g h i j k “宮島地域のシカについて”. 広島県 (2013年9月4日). 2020年9月2日閲覧。
- ^ 生息状況 2019, p. 5.
- ^ a b c d 管理計画 2019, p. 2.
- ^ 管理計画 2019, p. 4.
- ^ a b c 生息状況 2019, p. 3.
- ^ a b c d 生息状況 2019, p. 9.
- ^ a b 管理計画 2019, p. 13.
- ^ “カキ養殖の光と影――海岸に拡がるプラスチックの「雪」。広島の市民はどう動いているのか”. ハフポスト (2015年7月4日). 2020年9月2日閲覧。
- ^ 管理計画 2019, p. 3.
- ^ a b c 生息状況 2019, p. 1.
- ^ a b c d 生息状況 2019, p. 18.
- ^ “宮島のシカの生態”. 山口大学農学部細井研究室. 2020年9月2日閲覧。
- ^ a b 管理計画 2019, p. 8.
- ^ a b c d 生息状況 2019, p. 7.
- ^ a b c 生息状況 2019, p. 10.
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