国鉄EH10形電気機関車 改造

国鉄EH10形電気機関車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/12 14:58 UTC 版)

改造

PS22Bパンタグラフへの交換車(1978年8月9日、島田 - 金谷間)

東海道・山陽本線の列車速度向上に伴い、中・高速域での速度制御範囲を広げるため当初は並列段のみとなっていた弱め界磁を直並列段から使用できるよう機器を改造、主幹制御器に弱め界磁ハンドルを増設する試験が1962年(昭和37年)3月から4月に49号機を対象として行われ、1,200t列車牽引の試運転でも運転時分の短縮や電力消費に改善が見られたことから1965年(昭和40年)までに全車が同様に改造された[16][17]

本形式は当初旧型貨物用電気機関車の通例として1つの動輪に2個の砂箱を備えていたが、性能や運転に余裕があることから片側の砂箱は使用中止になり、1974年(昭和49年)以降は第1動輪と第8動輪内側の砂箱を撤去、他の砂箱も使用中止のものは砂撒管を外していった[9]

運用末期、オリジナルの菱形パンタグラフであるPS15形の部品不足により、1976年(昭和51年)2月に21号機が下枠交差式のPS22Bを装備したのを皮切りに、10両程がPS22Bへの載せ替えを行った。これは、捻出したPS15形によって予備部品を確保するという面もあった。

51号機と60号機は側面中央よりにあるエアフィルターが、変形鎧戸となっていた(60号機は一時的に変更した)。また、30号機はビニロックフィルタとなっていた。

運用

当初から東海道本線の高速貨物・重量貨物用として使われ、1956年の東海道本線全線電化後は主に急行貨物列車や1,200t列車を汐留 - 吹田操車場間で直通運転する運用に投入、1959年(昭和34年)11月から東海道本線・東京(汐留) - 大阪(梅田)間で運行開始された国鉄初のコンテナ特急貨物列車「たから号」の牽引に充当されるなど、その高出力を発揮して活躍した。

1960年(昭和35年)以降は山陽本線への入線も進められたが、同時期にはEF60形に始まる新世代の6軸電気機関車増備が進み、さらに昭和40年代になるとコンテナ列車等の高速化に対応できなかったことから、一部に急行貨物列車での運用は残ったものの多くは一般貨物列車用に転用され、東海道(美濃赤坂支線を含む)・山陽本線(岡山操車場以東)、宇野線岡多線岡崎 - 北野桝塚間)のみに限定される形で地味な運用に徹した[18]

山陽本線岡山以西への入線も検討され、1966年には糸崎機関区へ試運転や訓練用に51号機が貸し出されたこともあったが、瀬野八越えではその特性上、補助機関車のEF59形EF61形200番台との出力均衡が困難であること、三原までに区間を限定しての入線も運用が複雑になるとして実行には至らなかった[16][19]

1975年(昭和50年)以降、老朽化及び前述の通り他線区への転用が困難なことから廃車が開始された。

1981年(昭和56年)4月1日の宇野発吹田操車場行き3370列車を最後に運用を終了し、1982年(昭和57年)までに全車両が廃車された。

保存機

EH10 61 東淡路南公園・静態保存

保存機は61号機のみで、他はすべて解体された。完璧な籠の鳥状態で、状態も良くない。普段はフェンス越しから見学できるが、7月上旬フェンスを取り外し車内も見学できる日を設けている。


注釈

  1. ^ 8軸の機関車はEH500形が登場するまで、国鉄・JRグループでは本機が唯一の存在であった。私鉄では黒部峡谷鉄道EH形電気機関車も存在するが、これは実質的に片運転台D型機関車2両を常時重連の固定編成として運用しているものである(性格としてはDD50形に近い)。
  2. ^ 新鶴見 - 吹田間の直通貨物列車で所要時間を17時間前後から12時間台に短縮、列車本数の多さや待避線の不足から旅客列車が貨物列車に合わせた低速運転を行っていた平塚 - 沼津間のダイヤを改善して20本から30本の列車増発余力を確保できると考えられていた。
  3. ^ 限りある構内有効長の中で、機関車が占用する長さが大きくなると、その分だけ貨車の連結両数が減る。
  4. ^ 鉄道貨物輸送で国鉄と関係が深かった日本通運がトラックなどに使用していた黄色を取り入れたものであるという。また、1960年代前半まで急行貨物列車に多用されたワキ1形ワキ1000形などの有蓋貨車も黒色に黄色の帯と急行標記を配した塗装であった。なお、貨車の黄帯塗装が65km/h制限車を指すものになったのは1968年10月ダイヤ改正に際しての対応であり、同時期には貨車自体の高速化や特急貨物列車の登場もあって急行貨物用としての黄帯や標記を施した有蓋貨車は消滅していた。

出典

  1. ^ 山崎良夫「EH10形電気機関車」『日立評論』 36巻、11号、日立製作所、1954年11月、49-68頁。doi:10.11501/3285545https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1954/11/1954_11_06.pdf 
  2. ^ 『鉄道ピクトリアル』1967年6月号 p4 - p5
  3. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p32 - p34
  4. ^ 1.車両 1-5 EH形電機機関車の要望」『交通技術』 8巻、6(82号)、交通協力会、1953年6月、206-207頁。doi:10.11501/2248431https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248431/7 
  5. ^ 西尾源太郎「EH形電氣機關車について」『交通技術』 8巻、3(79号)、交通協力会、1953年3月、20-23頁。doi:10.11501/2248428https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248428/14 
  6. ^ 1.車両 1-5 EH10形電機機関車」『交通技術』 9巻、6(94号)、交通協力会、1954年6月、209-210頁。doi:10.11501/2248443https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248443/7 
  7. ^ EH10形電気機関車」『鉄道辞典 上巻』日本国有鉄道、1958年、37-39頁。doi:10.11501/2486209https://transport.or.jp/tetsudoujiten/HTML/1958_%E9%89%84%E9%81%93%E8%BE%9E%E5%85%B8_%E4%B8%8A%E5%B7%BB_P0037.html 
  8. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』1967年6月号 p31 - p34
  9. ^ a b 『鉄道ファン』1976年6月号 p18
  10. ^ 森佐一郎;荻原勝次郎;斎藤貞喜;伊藤幸成「EH1015電気機関車」『東芝レビュー』 11巻、1(72号)、東芝技術企画部、1956年1月、3-24頁。doi:10.11501/3253763https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3253763/4 
  11. ^ C.調査研究 I.本社の部 5.列車の高速度運転試験」『保線年報 1955年』日本保線協会、1956年、26-27頁。doi:10.11501/2479320https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2479320/14  試験はEH1015,スハフ42,ナハ108,ナハ104,オヤ19820,マヤ3851 で実施。実験目的は"EH50形の設計資料を得るために"とある
  12. ^ 国鉄時代32号 P110. ネコ・パブリッシング. (2013年2月1日) 
  13. ^ 内田昇「高速度試験列車電磁直通ブレーキ裝置」『車両と電気』 7巻、5(77号)、車両電気協会、1956年5月、9-11頁。doi:10.11501/2322745https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2322745/6 
  14. ^ 依田盛武「高速度試験列車用電磁直通ブレーキ装置について」『車輛工学』 26巻、9(275号)、車輛工学社、1957年9月、34-37頁。doi:10.11501/3270671https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3270671/19 
  15. ^ 入江則公「電気車両及び主電動機定格出力の表わし方の一提案」『交通技術』 12巻、5(132号)、交通協力会、1957年5月、29頁。doi:10.11501/2248481https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2248481/19 "第1表b 機関車定格出力の比較"にEH50 が掲載されている
  16. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』1967年6月号 p28 - p29
  17. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p17
  18. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p21 - p23
  19. ^ 『鉄道ファン』1976年6月号 p21






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