古エッダ 古エッダの概要

古エッダ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/03 04:46 UTC 版)

本来「エッダ」とは、スノッリ・ストゥルルソン著である『新エッダ』のことを指していたが、その中で言及されている古い詩の形式や、後に再発見されたそのような形式の詩を指す言葉としても用いられるようになったため、この2つを特に区別するために「古エッダ」と呼ばれるようになった。しかし現在では、王の写本自体はエッダよりも後に編纂されたとされている。

『(新)エッダ』が「散文のエッダ」と呼ばれるのに対して、古エッダは「詩のエッダ」「韻文のエッダ」「歌謡エッダ」と呼ばれることもある。また下記の経緯により「セームンド(セームンドル、サイムンドル)のエッダ」(Sæmundaredda) と呼ばれていたこともある。古エッダという呼称については「時代差を含意させる点で疑問視され、今ではこの呼び名は廃用となった」とする学者もいる[1]

王の写本

王の写本の発見者ブリュニョールヴル・スヴェインスソン

現存する最古の古エッダの写本は、1643年アイスランドスカールホルト司教ブリュニョールヴル・スヴェインスソン (Brynjólfur Sveinssonによって発見されたものである。この写本は1662年に彼により時のデンマーク王に贈られ、コペンハーゲンデンマーク王立図書館 (Danish Royal Libraryに所蔵されたため、「王の写本」と呼ばれている。写本は1971年にアイスランドへ返還された。この写本の返却は、「国のアイデンティティにかかわるものとして熱狂的に受け入れられ」た[2]

この王の写本には、スノッリの『エッダ』に引用という形で残されていた詩や、北欧神話を物語る詩が数多く含まれており、スノッリが自身の『エッダ』を著す際にその元とした本であろうと考えられ、「古エッダ」と呼ばれるようになった。しかし現在では、実際に成立したのは『エッダ』より遅く、1270年ごろに編纂されたものではないかと考えられている。

古エッダは、ブリュニョールヴルがこれを12世紀の僧セームンドル・シグフースソン (Sæmundr fróði(博識なセームンドル)の作だと考えていたことに倣い、また「スノッリのエッダ」に対応して、「セームンドルのエッダ」と呼ばれていたこともあった。しかし、このセームンドルが「古エッダ」の作者であるという説は、現在では否定されている[3]

スウェーデンの学者グスタヴ・リンドブラド (Gustav Lindbladは、この王の写本収録のエッダ詩が実は注意深く配列されているものであることを指摘し、また各詩の導入部に置かれている散文は王の写本の編者が詩の内容に注意を払っていたことを示唆し、収録されている詩群は1200年ごろから集められ始められたのではないかという仮説を唱えた[4]

エッダ詩

古エッダに収録されているような形式の詩をエッダ詩古ノルド語Eddukvæði)という。エッダ詩では通常古譚律fornyrðislag フォルニュルジスラグ、古韻律、語り韻律)と歌謡律ljóðaháttr リョーザハーットル、唱え韻律)が用いられ、また稀に談話律málaháttr マーラハーットル)が用いられる。古韻律では詩は8行(2つの短行が4組)からなり、各組の2短行はそれぞれ頭韻で結ばれる。また各行は4か5の音節を持ち、そのうち2音節に強勢が置かれる。歌謡律では詩は6行(古韻律の2組目と4組目がそれぞれ1つの短行に変わる)からなり、同じく頭韻が置かれる。

ケニングも用いられるが、通常スカルド詩ほど多くは用いられず、また複雑でもない。スカルド詩とは対照的に、エッダ詩はほとんどが作者不詳のものである。単に古代北欧の詩のうちスカルド詩ではないものを総称してエッダ詩と呼んでいることもある。


注釈

  1. ^ ただし、編者によっては含めないことがある。たとえば谷口訳『エッダ 古代北欧歌謡集』の底本となったネッケル・クーン編 Edda. Die Lieder des Codex regius nebst verwandten Denkmälern は『スヴィプダグルの言葉』を収録していない
  2. ^ 「解説」370頁によると『その2』の方。

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al 谷口訳『エッダ 古代北欧歌謡集』での題。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au av 伊藤訳「エッダ詩」での題。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 松谷訳『エッダ グレティルのサガ』での題。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 伊藤訳「原典資料」での題。
  5. ^ 菅原邦城シーグルズル・ノルダル『巫女の予言 エッダ詩校訂本』(東海大学出版会、1993年、ISBN 4-486-01225-9) 52頁の題。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Hollander, Old Norse Poems 中の英題。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w ホイスラー・ラーニッシュ編『小エッダ』中の独題。

出典

  1. ^ オートン(伊藤訳)「異教神話と宗教」151頁。
  2. ^ 川端裕人「オオウミガラスの聖地巡礼」(絶滅をめぐる物語―11)岩波書店『図書』2023年8月号、54-57頁、引用は55頁。
  3. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』285頁。
  4. ^ 「エッダ詩」122頁。
  5. ^ a b c d e マッキネル(伊藤訳)「原典資料」108頁。
  6. ^ 谷口『エッダ 古代北欧歌謡集』286頁および、グンネル(伊藤訳)「エッダ詩」130–131頁。
  7. ^ 谷口訳『エッダ 古代北欧歌謡集』295頁。


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