北海道方言
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/26 00:28 UTC 版)
文法
動詞の活用
北海道方言でも動詞の活用は五段活用・上一段活用・下一段活用・カ行変格活用(以下カ変)・サ行変格活用(以下サ変)の5種類であり、ほとんど共通語と同じ活用をするが、命令形と仮定形に北海道方言の特徴が現れる。
命令形
上一段・下一段・サ変活用動詞の命令形語尾には、五段活用動詞と同じ「れ」が用いられ、元々の命令形語尾「ろ」は威圧的・乱暴・高慢な命令口調とされる。「れ」で終わる命令形は内陸部・海岸部・都市部を問わず北海道全域で広く用いられ、方言と意識していない人も多い(むしろ「ろ」の方が方言的であると感じる人もいた[注釈 1])。現在では都市部の若年層を中心に共通語として「ろ」も用いるが、共通語に直そうとするあまり、五段活用動詞の命令形まで「ろ」(例:走れ→走ろ)にしてしまう現象も見られる[3]。海岸部方言では、サ変活用動詞で「せ」という命令形もある。
- 例:たべれ(食べろ)、ねれ(寝ろ)、すれ・しれ(しろ)
仮定形
カ変活用動詞「来る」の仮定形は、命令形「来い」と同じ「来いば」という形が聞かれる。例えば「たまに遊びに来いばいいっしょ」。海岸部の一部では「くば」や「こば」という形もある。また海岸部ではサ変動詞に関しても「せば」という形がある。
可能形の否定
一部の五段活用動詞の不可能表現に「未然形+れない」という活用が聞かれる。この「れ」はかつての日本語には一般的に存在していた形であるが、共通語では近代以降に可能動詞が現れ、一般化した。 例えば「書かれない」(書けない)、「行かれない」(行けない)、「飲まれない」(飲めない)。
自発的表現
五段活用動詞の「未然形+さる」、上一段・下一段活用動詞の「未然形+らさる」で、共通語には存在しない自発的表現となる。一部の特定の動詞で用いられることが多く、「進んでそうしようと思っているわけ[注釈 2]ではないが、状況が自動的にそうしてしまう」という心情を表せる。また、道具を主語に据えた際の道具そのものの性質・状態を表現するという意味では、中間構文としての性質もある。
- この本面白くて、どんどん読まさる。 - この本が面白いので、どんどん読んで(読めて)しまう。
- この塩辛旨くて、ご飯たくさん食べらさる。 - この塩辛が旨いので、ついご飯をたくさん食べてしまう。
この表現の否定形もよく使われる。正しい活用は「〜(ら)さらない」となるはずだが、こう言うことはまずなく、口語ではほぼ「〜(ら)さんない」と発音される。意味は逆になり「進んでそうしようと思っているのに、状況が悪いのでそうならない」心情を表す。
- 窓が開(あ)かさんない。 - (開けようとしているのに)(凍っているから)開けられない。
- このペン書かさんない。 - (書こうとしているのに)(インクが切れているから)書けない。
- このスイッチ押ささんない。 - (押そうとしているのに)(壊れているから)押せない。
共通語の「開けられない」「書けない」では、「しようとしているのに」の補足なしでは、「自分にはできない」という不可能の意味と同じになってしまうが、北海道方言の自発的表現「〜さらない」では「自分が悪いのではなく、対象物が悪い」の意味が内包されているため非常に便利であり、多くの場面にこの表現が当てはめられる。例えば、「この鉛筆、書かさらない」、「電気が消ささらない」。
またその逆に、人に向かって注意を喚起する際、この表現を用いれば「誰が悪いとは言わないが、対象物がそうなっている」という意味合いが出せるため、相手にあまり負担を感じさせずに言うことができる。「あの部屋、誰もいないのに、ストーブ焚かさってるよ。」「この値段、20%引かさってないんですけど。」
代表的な文末表現
- 「〜(っ)しょ」
- 「いいっしょ」=「いいでしょう、いいだろう」、「これしょ」=「これでしょ、これだろ」
- 「〜(っ)しょや」と「や」をつけると、強調的になる。「〜でしょうが」「〜でしょうよ」という感じ。
- 動詞・形容詞+「べ」、名詞+「だべ」
- 推量および勧誘の助動詞[4]
- 「遊ぶべ」=「遊ぼう(よ)」、「寒いべ」=「寒いだろうね」、「これだべ」=「これだろう?」
- 「〜(だ)べさ」(主に女性)、「〜(だ)べや」(主に男性)
- 「そうだべさ」=「そうでしょうよ」、「それくらい、いいべや」=「それくらい、いいじゃないか」
- ※「(だ)べや」はいかにも男性的な荒々しい印象
- 疑問形として、「〜だべ(さ)?」=「〜でしょう?、〜だろう?」、「あしたは雪だべな?」「うん、そうだべな。」
- 断定の意味にも「〜だべさ」を用いる。「お前が悪いんだべ(や)。」
- 「〜かい」【問いかけ、疑問、推測、ソフトな断定】
- 「これで合ってるかい」=「これで合ってる?」、「あんた風邪ひいたんでないかい」=「あんた風邪ひいたんじゃないの?」、「お父さん、そろそろ帰ってくるんでないかい」=「お父さん、そろそろ帰ってくるんじゃないかな?」、「飲まない方がいいんでないかい」=「飲まない方がいいんじゃない?」、「予定では明日じゃなかったかい」=「予定では明日じゃなかったっけ」
敬語
北海道では、尊敬・謙譲の表現に当たる方言が用いられることがなく、敬語を用いる場面では共通語の敬語表現を用いる。海岸部の一部には独特の敬語があり、また団体入植地では出身地の方言に由来する敬語が使われ続けている場合がある。
「おはようございました」(午前中の比較的遅い時間帯に用いる)、「お晩でした」(「こんばんは」)や、電話での応対時に「はい、○○(自分の名前)でした。」と表現し、挨拶等の表現に過去形が用いられる。これは東北地方などにも見られる。この表現は札幌圏では使用者は稀であったのだが、札幌オリンピック以降増えた道内各地からの移住者がブルーカラー業に従事することが多くなり、宅配業などで業界用語として使用されるようになっている。
また、主に接客業の応対の中で「〜でよろしかったでしょうか」「お決まりでしたか」などの過去形の用法がある。断定的になるのを避け、なるべくソフトに尋ねようと気遣う北海道独特の表現とされていたが、2000年前後より東京地方でもこの表現が増え、奇妙な日本語として頻繁に取り上げられるようになった(→バイト敬語の一部)。北海道方言研究会の会長である菅泰雄教授(日本語学)は「北海道に本部がある大手居酒屋チェーンつぼ八から“輸出”されたとする」説を90年代に唱えたが、同時期の名古屋都市圏の接客業でもこのような過去形表現が浸透していたこと、つぼ八のマニュアルには上記のような言葉を使用するような記述が無いこと、そもそもこの教授は北海道民が使う方言を片っ端から北海道起源とする傾向がある(例えば新潟に起源がある「なまら」を北海道起源と主張)ことなどから、この説は疑問視されている。
注釈
出典
固有名詞の分類
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