保守 アメリカ合衆国

保守

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/24 08:16 UTC 版)

アメリカ合衆国

アメリカでは、コモン・ローの法思想が、ウィリアム・ブラックストンの『イギリス法釈義』を通じて、そのままアメリカの保守主義としてアレクサンダー・ハミルトンら「建国の父」たちによって継承された。そして、この法思想はアメリカの憲法思想となった。しかし、アメリカの保守主義は、イギリスの王室や日本の皇室などの保持を条件とせず、1930年代の大不況によって自由主義の原則がゆらいだ際に保守主義が登場したとされ、さらに1944年にイギリスで、1945年にアメリカで刊行されたフリードリヒ・ハイエクの『隷従への道』によってアメリカの保守主義は結集し、この本はアメリカの保守主義運動を最初に定義づけた著作とみなされている[25]。ただしハイエクは自らを保守主義でなく自由主義(リベラリズム、リベラル)と主張した[26]。ハイエクの自由主義では社会秩序を他人の自由を侵害しない限りで個人の自由な行為に委ねるもので、貧困や失業問題などを合理的に国家が管理することは否定される[27]

バークを重視するラッセル・カークは1953年に著作[28]を発表し、保守主義の定義として、(1)人間の良心と社会は神の意思によって創られたことを信じる、(2)伝統の多様性と神秘性に思いを寄せること、(3)文明社会には秩序と階級が必要で、平等とは道徳的な平等であり、政治介入による社会的平等は否定される、(4)私有財産の肯定と自由は不可分であること、(5)時効概念(バーク)を信頼し、空理空論を弄ぶ哲学屋や極端な合理主義を採用する計算屋への不信、(6)革新は人間を絶望へと誘い、真の変化はプロビデンスによる、とした[29]

2016年現在のアメリカは二大政党制であり、共和党が保守派、対する民主党がリベラル派の立場を採っている。共和党は伝統的には、自由主義小さな政府を掲げ、国際連合連邦政府による干渉の最小化(州権主義)、大企業への規制緩和や民営化を推進しており、国民皆保険制度も反対の立場をとっている。また、環境問題においても地球温暖化問題よりも経済効率を優先する傾向がある。外交政策においては反共主義の立場から強硬路線をとりパナマ、イラク、アフガニスタンなど各国の紛争への介入や戦争を行った。伝統的に中央政府に批判的で地域主義が強い背景には、開拓時代からの自主独立の精神や、相互不干渉のモンロー主義南北戦争進歩主義の北軍が勝者となり連邦政府となった事への反発などの歴史的経緯もある。

アメリカにおいては家族を基本的な価値として尊重し、政府は家族や私有財産を脅かす存在として警戒の対象になる反連邦主義の伝統がある。ロナルド・レーガンが所得税を減税しジョージ・H・W・ブッシュが遺産税の廃止を推進したのは、こうしたアメリカの保守思想に基づいてのことである。それゆえ、アメリカの保守は国家主義的な日本・フランス・ドイツ・イタリアなどの保守とは対極的な面がある(リバタリアニズムも参照)。ただし、日本やイギリスの保守派は軍事・外交・教育・治安維持では国家の役割を強調するものの、経済政策社会政策においては小さな政府を唱える傾向も強く、特に家族の価値を唱え、育児や介護の社会化には慎重、もしくは積極的に反対する。この面では欧州大陸諸国よりもリバタリアニズム的で、アメリカの保守との共通点が見られる。

文芸評論家のライオネル・トリリングはアメリカには保守主義はなく、保守の衝動[30]でしかないといい、またダニエル・ベル編集の『保守と反動 現代アメリカの右翼』でもアメリカにはエドムンド・バークのような真の保守主義は存在せず、ニューライト新右翼)にすぎないとした[31]

米国のシーモア・M・リプセットは米国のリベラルと保守は「しばしば平等や自由といった問題に関しては反対の立場を取るわけではない。そうではなく、両サイドは自由と平等のどちらかの核となる価値へ訴える。例えばリベラルは平等主義の卓越性や無制限の個人主義から生じる社会的不公平を強調するのに対して、保守は個人の自由という価値や流動性および努力による達成の社会的必要性という価値をリベラルな特効薬に含まれる集団主義によって『危険にさらされる』価値として大切にする、といった具合である。」という[32]




  1. ^ 保守、goo辞書
  2. ^ 保守主義、goo辞書
  3. ^ BBC: エドマンド・バーク (1729年 - 1797年)(英語)
  4. ^ The Scary Echo of the Intolerance of the French Revolution in America Today(英語)
  5. ^ a b モンテスキューの作品における法と正義 : 法制史と法理論の交差する読解
  6. ^ a b 杉本竜也「政治思想・政治哲学としての保守主義における価値 イギリス・アメリカの保守主義を中心に」日本大学政経研究 49(4),p523
  7. ^ 杉本竜也「政治思想・政治哲学としての保守主義における価値 イギリス・アメリカの保守主義を中心に」日本大学政経研究 49(4),p540
  8. ^ 杉本竜也「政治思想・政治哲学としての保守主義における価値 イギリス・アメリカの保守主義を中心に」日本大学政経研究 49(4),p542
  9. ^ : constant force
  10. ^ Viscount Hailsham. The Conservative Case. Middlesex: Penguin Books, 1959. (英語)
  11. ^ 原語では前者が固有名詞(大文字で始まる表記)、後者が普通名詞(小文字で始まる表記)となっている。ヒュー・セシル『保守主義とは何か』早稲田大学出版部
  12. ^ マイケル・オークショット「保守的であるということ」(『政治における合理主義』所収、石山文彦訳、勁草書房、1988年、200頁)
  13. ^ Huntington, S. 1957. Conservatism as an ideology. in American Political Science Review 51:454-73.
  14. ^ アンソニー・クイントン『不完全性の政治学』東信堂、p10-11
  15. ^ a b c 杉本竜也「政治思想・政治哲学としての保守主義における価値 イギリス・アメリカの保守主義を中心に」日本大学政経研究 49(4),p527-8
  16. ^ a b 杉本竜也「政治思想・政治哲学としての保守主義における価値 イギリス・アメリカの保守主義を中心に」日本大学政経研究 49(4),p529-530
  17. ^ Eccleshall, p. ix, 21
  18. ^ Eccleshall, p. 2
  19. ^ : Taxation No Tyranny
  20. ^ : Patriarcha or the Natural Power of Kings
  21. ^ Eccleshall, pp. 21-25
  22. ^ Eccleshall, p. 31
  23. ^ Eccleshall, p. 43
  24. ^ 二宮元「イギリスのニューライト : 新自由主義と新保守主義」2010年、一橋大学
  25. ^ 藤森かよこ「アメリカにおける保守主義の 誕生とアイン・ランドの交点」福山市立大学『都市経営』1号,2012年pp5-20
  26. ^ 藤森かよこ「衝動から思想へ-アメリカ保守主義の誕生とハイエク『隷属への道』」都市経営No.3(2013)pp.22
  27. ^ 落合仁司『保守主義の社会理論 ハイエク、ハート、オースティン』勁草書房1987,p141
  28. ^ : The conservative mind, from Burke to Santayana
  29. ^ 杉本竜也「政治思想・政治哲学としての保守主義における価値 イギリス・アメリカの保守主義を中心に」日本大学政経研究 49(4), p538, 2013
  30. ^ : conservative impulse
  31. ^ 藤森かよこ「衝動から思想へ-アメリカ保守主義の誕生とハイエク『隷属への道』」都市経営No.3(2013)pp.9-26
  32. ^ http://www.ppionline.org/documents/equality_lipset.pdf(英語)
  33. ^ 維新精神史研究 P.421 徳重淺吉 1934年
  34. ^ 維新精神史研究 P.423 徳重淺吉 1934年
  35. ^ 福沢諭吉 学問のすすめ 福沢諭吉
  36. ^ 明治憲政史 (上巻) P.321-322 工藤武重 1914年
  37. ^ 犬養木堂伝 上巻 P.208-209 鷲尾義直 1938年
  38. ^ a b 東京専門学校参考書 政治原論 桃浪書院蔵版 P.304-305 市島謙吉 1889年
  39. ^ 立憲政友会史 第壹巻 伊藤総裁時代 P.11-12 小林雄吾 1924年
  40. ^ 第四十囘帝国議会に於ける暴利取締令舌戦録. 上巻 P.8-9 益川保次郎 1918年
  41. ^ 第四十囘帝国議会に於ける暴利取締令舌戦録. 上巻 P.14 益川保次郎 1918年
  42. ^ 暴利取締令と違憲問題 神戸又新日報 1918年2月8日
  43. ^ 輸出組合 コトバンク
  44. ^ 日露条約成立と対露輸出組合計画 中外商業新報 1925年1月31日
  45. ^ 政府の了解を得て対露輸出組合進捗 時事新報 1926年2月3日
  46. ^ 社会主義サヴェート共和国同盟の現勢 P.71-72 山川均 1928年
  47. ^ a b c d 貿易政策論 P.220-222 浜田恒一 1934年
  48. ^ a b 貿易政策論 P.223 浜田恒一 1934年
  49. ^ 電力問題の背後 P.48-49 小林一三 1938年
  50. ^ 立党宣言・綱領 自民党
  51. ^ 林健太郎「現代における保守と自由と進歩」。「現代日本思想大系35 新保守主義」の解説
  52. ^ 批判的合理主義と自由主義/保守主義:林健太郎のポパー論」秋田大学教育文化学部研究紀要57巻 p 41 - 50、2002年
  53. ^ 「日本人の政治意識」『集』第3巻328ページ
  54. ^ 中村「占領下での「民主化」と日本の「従う政治文化」」(神戸学院法学第34巻第1号2004-4)
  55. ^ 平成22年(2010年)綱領 自民党
  56. ^ 米で人種・民族憎悪犯罪目立つ オバマ政権や不況影響か Archived 2009年6月23日, at the Wayback Machine.アサヒコム2009年6月21日







保守と同じ種類の言葉


品詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「保守」の関連用語

保守のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



保守のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの保守 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2021 Weblio RSS