一様空間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/02 03:01 UTC 版)
完備性と完備化
本節ではまず、位相空間における点列概念の2つの一般化であるネットとフィルターに対し、コーシー列の概念の一般化であるコーシーネットの概念とコーシーフィルターの概念を定義し、これらをベースにして一様空間の完備性を定義し、最後の一様空間の完備化を扱う。
コーシーネット・コーシーフィルター
定理・定義 (コーシーネット) ― を一様空間とし、DをX上の擬距離の集合でDが定める一様構造がと一致するものとし、さらにをX上のネットとする。このとき以下の条件は全て同値であり、以下の条件の少なくとも一つ(したがって全て)を満たすとき、ネットはコーシーネットであるという[41]:
- 任意の近縁に対し、あるλ0∈Λが存在し、を満たす全てのλ, τ∈Λに対し、
- 任意の近縁に対し、あるλ0∈Λが存在し、を満たす全てのλ∈Λに対し、
- 任意のd∈Dと任意のε>0に対し、あるλ0∈Λが存在し、を満たす全てのλ, τ∈Λに対し、
定理・定義 (コーシーフィルター) ― を一様空間とし、DをX上の擬距離の集合でDが定める一様構造がと一致するものとし、さらにをX上のフィルターとする。このとき以下の2条件は同値であり、以下の条件の少なくとも一つ(したがって両方)を満たすとき、フィルターはコーシーフィルターであるという[41]:
- 任意の近縁に対し、あるが存在し、
- 任意のd∈Dと任意のε>0に対し、あるが存在し、
完備性
定理・定義 (一様空間の完備性) ― 一様空間に対し以下の2条件は同値である。が以下の条件の少なくとも一方(したがって両方)を満たすとき、は完備であるという。
- X上の任意のコーシーネットは少なくとも1つ極限を持つ
- X上の任意のコーシーフィルターは少なくとも1つ極限を持つ
ここで収束はが定める位相における収束である。
上で「少なくとも1つ極限を持つ」という言い方をしているのは、が定める位相構造がハウスドルフでない限り、ネットやフィルターの収束の一意性は保証されないからである。なお擬距離空間においては完備性は「コーシー列(=点列でコーシーなもの)は少なくとも1つ極限を持つ」という事と同値であるが[42]、一般の一様空間の場合は必ずしも同値ではない[42]。
定理・定義 (一様空間の完備化) ― を一様空間とする。このとき完備な一様空間と単射が存在し、単射によりXをの部分集合とみなすと、がの部分一様構造になっているものが存在する[43]。この(との組)をXの完備化(英: completion)という。
さらにを上の擬距離の集合でが定める一様構造がと一致するものとするとし、Dをに属する擬距離をXに制限したものの集合とするとき、Dの定める一様構造はに一致する[43]。
上記の定理の条件を満たすは必ずしも一意ではない[注 6]。しかしXが定める位相がハウスドルフであれば一意である事が保証される[43]。
コーシー連続性
定理・定義 (コーシー連続性) ― を一様空間Xから一様空間Yへの写像とするとき、以下の2条件は同値である。以下の2条件の少なくとも1つ(したがって両方)を満たすとき、fはコーシー連続(英: Cauchy continuous)であるという[44]:
- X上の任意のコーシーネットのfによる像ははコーシーネットである。
- X上の任意のコーシーフィルターのfによる像ははコーシーフィルターである。
定理 ― を一様空間Xから一様空間Yへの写像とするとき、以下が成立する:
出典
- ^ a b c d “固有な作用の一様連続性について”. pp. 5-6. 2021年4月7日閲覧。
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- ^ #EoM
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- ^ a b #Schechter p.490.
- ^ #Kelly p.198.
- ^ #Schechter pp.505-506.
注釈
- ^ 関数解析では一様収束の位相を一様位相と呼ぶことがあるので注意。
- ^ 離散一様構造があるので、を含む一様構造は少なくとも1つ必ず存在する。しかしを含む一様構造の中で最小のものが存在するとは限らない。
- ^ a b Kellyは一様構造の基底、準基底という概念を定義しているが、これらはいずれも前一様構造とは別概念である。参考までに基底、準基底の定義を載せると以下の通りである:を一様空間とする。このときの部分集合がの基底[訳語疑問点](英: base)であるとは、任意のに対し、となるが存在する事をいう[1]。またの部分集合がの準基底[訳語疑問点](英: subbase)であるとは、の有限個の元の共通部分全体の集合がの基底になっている事をいう[1]。
- ^ 前一様構造である事は保証されるものの、一般には一様構造になると事は保証されない[12]。
- ^ すなわちが可算集合であり、しかも#Kelly p.177の意味での基底(英: base)[注 3]になっているという事。
- ^ 例えばを完備な擬距離空間とし、u0∈Xを任意の点とし、さらにu1をXに属さない任意の点とするとき、とし、上の距離を とする(すなわち、と定義し、それ以外は)と定義する)と、も完備となる。よってXの完備化はX自身ととで2つあることになる。
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