ロシア語アルファベット 発声しない文字

ロシア語アルファベット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/28 01:49 UTC 版)

発声しない文字

  • 子音の後に挿入して強勢を表す (⟨ъ⟩) は続く口蓋化した母音と子音を分離する役割を果たし、/j/の音価を持つ。今日では主に接頭辞と続く音を分離するために用いれている。1400年ごろには失われたとされる原音では、非常に短い中間シュワーのような音であったとされ、音価は/ŭ/だが[ə][ɯ]のように発音したとされる。
  • 弱い (⟨ь⟩) は前の子音が硬口蓋化されていることを示す役割を果たす。これはロシア語発音の硬口蓋化という点で重要である。例えば、брат [brat](兄弟)とбрать [bratʲ] (to take)の違いである。原音は1400年頃に失われ、非常に短い弱化母音/ĭ/もしくは[ɪ][jɪ]のように発音したとされる。現代ロシア語でもこの音の名残が見られ、МарьяМария (Mary) のように、意味は同じだが発音が異なる名前が共存している。

母音

母音の ⟨е, ё, и, ю, я⟩ においては前の子音が硬口蓋化するが、⟨и⟩ では口蓋化し、語頭に来る場合や後ろに別の母音が続く場合は/j/)となる。19世紀には口蓋化されるようになった。上で示したIPA母音はガイドラインに過ぎず、実際には異なる発音がなされる場合もあり、とくに強勢の有無において異なる事が多い。しかし、⟨е⟩ は外来語に対し硬口蓋化されることなく使用され、/e/の音で発音される。どの語がこの規則に当てはまるのかについては実際の例で学習する必要があり(一般的に子音の後ろで⟨э⟩ を用いることは少ない)、⟨я⟩ は弱い子音の間ではмяч(ボール)のように、しばしば[æ]と発音される。

ы⟩は古スラヴ祖語では緊張中間母音であり、他のスラヴ語派の言語よりも現代のロシア語において発音の原型が残っていると考えられている。この文字は元々は特定の位置において発音を鼻員化させる役割を果たしていた(例: камы [ˈka.mɨ̃]; камень [ˈka.mʲɪnʲ](岩))。この文字は以下のように合字で表記されるようになったものである。⟨ъ⟩ + ⟨і⟩ → ⟨ъı⟩ → ⟨ы⟩

э⟩は硬口蓋化していない/e/と硬口蓋化しているものを区別するために1708年に導入された。元々の使用法では⟨е⟩は/e/が非口蓋化したもので、⟨ѥ⟩もしくは⟨ѣ⟩が口蓋化した発音を表していたが、⟨ѥ⟩は16世紀までに使用が廃止された。ロシア人が話すロシア語においては⟨э⟩は単に語頭でのみ見られる文字だが、外国人の名前やアエロフロート (Аэрофлοт) など外国語を起源とするブランド名などの単語を表記する際はこの限りでない。

ё⟩は1797年にニコライ・カラムジンにより導入され、1943年にソビエト連邦教育省により公式な文字となった[5]/jo/の発音を表し、歴史的には/je/の発音に強勢が置かれる場合の文字として生まれたものである。⟨ё⟩は文字として表記する場合には「オプション」の文字となる。公式には⟨e⟩が/je//jo/の音の両方を表す。20世紀には⟨ё⟩の役割を⟨e⟩に含ませるような試みが何度か行われたが、全て無駄に終わっている。

また、現行の正書法では、母音に関していくつのルールがある[6]

  • к, г, х, ч, ж, ш, щの後ろに⟨ы⟩が来ない。複数形など、⟨ы⟩が来るはずの場合は⟨и⟩で書かなければならない。
  • к, г, х, ч, ж, ш, щ, цの後ろに⟨ю⟩と⟨я⟩が来ない。代わりに⟨у⟩と⟨а⟩で書かなければならない。
  • ч, ж, ш, щ, цの後ろにアクセントのない⟨o⟩がある場合、⟨e⟩に書き換えなければならない。
  • -ь, -й, -я語尾の語形変化はいずれも⟨⟩となる。⟨⟩にならない。
1918年に廃止された文字
文字 文字名 説明
і イー・ス・トーチコイ и⟩と発音が同一であり、他の母音や⟨й⟩(Й)の前で使用された(例:⟨патріархъ[pətrʲɪˈarx], 家長)。また、 ⟨міръ[mʲir], 世界)とその同音異義語である[7][8]миръ[mʲir] 平和) を区別するためにも用いられた。
ѳ フィター ギリシア語Θに由来する。発音は ⟨ф⟩ と同一だが、ギリシア語起源の外来語などに用いられた(例: ⟨Ѳёдор⟩ "Theodore")
ѣ ヤーチ 本来は異なる発音だったが、18世紀半ばまでに⟨е⟩ と同じ発音となった。1918年に廃止されて以降、この文字は旧正書法の政治的なシンボルとされた。
ѵ イージツァ ギリシア語Υに由来し、通常の発音は ⟨и⟩ と同じ。ビザンツ帝国時代にはギリシア語からの外来語に対し使用されていた。1918年、使用例が非常にまれになったため廃止された。18世紀の綴りでは、母音の後において⟨в⟩の代わりに使用されていた、例として、ギリシア語起源の接頭辞⟨аѵто⟩は現在では ⟨авто⟩と表記する。

1750年までに廃止された文字

ѯ⟩ と ⟨ѱ⟩ はギリシア語アルファベットのΞΨに由来し、 18世紀までギリシア語からの外来語に対して使用されていた。現在でも教会スラヴ語では使用されている。

ѡ⟩ はギリシア語アルファベットのΩに由来し、 ⟨о⟩ と発音が同一である。18世紀までギリシア語からの外来語に対して使用されていた。現在も教会スラヴ語で使用されており、教会スラヴ語においては両者は明確に区別されている。

ѕ⟩はよりarchaic /dz/の発音に対応し、中世より既に東スラヴ語派では見られない発音であったが、伝統的に特定の語の表記に対し18世紀まで使用されていた。現在では教会スラヴ語で使用されている。

ユスと呼ばれる⟨ѫ⟩と⟨ѧ⟩は、本来鼻音化された母音/õ//ẽ/に相当するものとして使用されていたが、言語的な再構築を経る中で中世には東スラヴ語派では使用されない発音となっていた。しかし、他のキリル文字とともに18世紀まで導入されていた。⟨ѭ⟩と⟨ѩ⟩は20世紀までには全く見られない発音となった。⟨ѫ⟩はギリシア語からの外来語に対して16世紀まで使用されていた。しかし、その後パスハ主日字英語版から外れた。⟨ѫ⟩と⟨ѧ⟩は17世紀には廃止されたものの、教会スラヴ語では現在も使用されている。

ѧ⟩は単語の語頭以外の部分では口蓋化された/ja/я⟩ の音価に対応していた。現在の⟨я⟩は17世紀の草書体と形が同じであり、1708年の文字改革まで使用されていた。

1708年まで、iotatedされた/ja/は語頭では⟨ıa⟩と表記されていた。⟨ѧ⟩と⟨ıa⟩の区別は現在も教会スラヴ語において残っている。

上記の表において「18世紀に廃止された」とされる文字は1708年に通常公式なアルファベットから取り除かれたと述べられることが多いが、実際の事情はより複雑である。これらの文字はピョートル1世により発行された西ヨーロッパスタイルのセリフフォントによる印刷の表から取り除かれた。当初は現在の⟨й⟩ も廃止される文字に含まれていたが、ロシア正教会からの圧力によって撤回することになった。しかし、大衆的に広まったことで1750年までにはこれらの文字は使われなくなった。




  1. ^ 北緯五十度 No. 3 日露国境標の北面京都大学貴重資料デジタルアーカイブ、2022年1月14日閲覧
  2. ^ живете Толковый словарь русского языка Ушаковаドミトリー・ウシュコフ英語版のロシア語辞典、; еёの違いについても解説している。 cf.: ёлка).
  3. ^ мыслете, Толковый словарь русского языка Ушаковаより。(ドミトリー・ウシュコフ英語版のロシア語辞典)
  4. ^ ФЭБ
  5. ^ Benson (1960:271)
  6. ^ Spelling rules”. webhome.auburn.edu. 2021年8月19日閲覧。
  7. ^ Vasmer (1979); ロシア語のмирの語源は露英オンライン辞書を参照。
  8. ^ Smirnovskiy (1915:4)
  9. ^ Dunn & Khairov (2009:17-18)
  10. ^ Halle (1959:73)





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