ヤングケアラー 概説

ヤングケアラー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/05 03:35 UTC 版)

概説

定義

2023年4月に発足したこども家庭庁において、ヤングケアラーは「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子供」と定義している[4]

また、成蹊大学文学部教授澁谷智子は、ヤングケアラーを 「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面、家計支援のサポートなどを行っている、18歳未満の子ども」と定義している[5]

ヤングケアラーとされる年齢は国によって異なる。公的サポートの対象とされるヤングケアラーは、オーストラリアでは25歳まで、[6]イギリスでは18歳未満までとなっている。イギリスでは16歳以上で、フルタイムの教育を受けていない場合は、仕事探しの公的支援を受ける資格がある。[7]

日本では、ヤングケアラーの法律上の定義は存在せず[8]研究者等の定義から18歳未満の子どもとされるのが一般であるが、一般社団法人日本ケアラー連盟は、これに加えて、18歳~おおむね30歳代までのケアラーを「若者ケアラー」と定義している[2]

問題点

ヤングケアラーの中でも兄姉が障害児である場合には、自分を産んだ親への憎悪を持つケースもある[9]。そもそもヤングケアラーの親自体に問題や障害があって、そちらの介護や面倒もしているケースもある。[3][10][11][12]

海外の研究によると、精神疾患の親を持つ子は、親のヤングケアラーをさせられているストレスから健常者の親を持つ子よりも精神疾患になるリスクが2.5倍高いとされている。[13]

手伝いの域を超える過度なケアが長期間続くと、心身に不調をきたしたり遅刻欠席が増加するなど学校生活への影響も大きい。進学就職断念するなどという事例もあるとされている。

調査

ヤングケアラーの存在自体は周囲の人に「病気や障がいのある親族を見ている存在」としては知られていながら、その人数や実態は長い間把握できていなかった。毎日新聞社2020年3月に総務省2017年就業構造基本調査を独自に分析し、15歳未満のヤングケアラーはこの分析には含まれていないが、家族などの介護を担っている15~19歳の若者は2017年時点で推計37,000人おり、そのうち約8割が通学しながら、週4日以上、勉強と介護を両立させていると明らかにした[14]

三菱UFJリサーチ&コンサルティング2019年に実施した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」によると、以下の実態が明らかになった。[15][16]

  • ヤングケアラーの家族構成は「ひとり親と子ども」が48.6%と最多。家族構成員の少なさから、介護にも協力をせざるを得ない状況がある。
  • ヤングケアラーの学校生活への影響に関する設問では、「学校などにもあまり行けていない(休みがちなど)」と回答した人が31.2%。家族の介護が原因で「遅刻が多い」「授業に集中できない」「学校へ通ってはいるものの部活動に参加できない」など、学校へは通っているけれど何らかの支障があると感じている人も27.4%[17]
  • 「自分はヤングケアラーと認識していない」は44.5%、「わからない」が41.1%。8割以上の人が、自分自身をヤングケアラーと認識していない。
  • 子どもが家庭で行っているケアを支援する人の有無については、「なし」が54.3%。学年別にみると、学年があがるにつれ「なし」の割合が高くなっている。半数以上のヤングケアラーが、支援者なしの孤立状態で介護を行っている。

上記調査では、ヤングケアラーである子どもは、本来守られるべき子ども自身の権利を守られていない子どもであるとして、以下の提言を行っている。

  • 「ヤングケアラー」の概念の周知と、「ヤングケアラー」に対する偏見等の払拭
  • ケアすること自体を否定せず、「ヤングケアラー」の選択肢を広げられるような支援が必要
  • 「ヤングケアラー」を含めた家族支援に関する制度上の位置づけが必要
  • 子どもがケアを担わなくても済むような施策・対応の充実
  • 「ヤングケアラー」の子どものメンタル面へのサポートの必要性
  • 「ヤングケアラー」への支援は多層的

親の貧困虐待、家族やきょうだい児としての介護を強いられるヤングケアラーなど親のせいでの負の要素でスタート地点にすら立てない者たちである。


  1. ^ 「私とお母さんはセット」統合失調症の母と二人暮らしを続けた中学時代…“ヤングケアラー”だった女性が振り返る親に対する“意外な思い”とは(文春オンライン)”. Yahoo!ニュース. 2022年2月18日閲覧。
  2. ^ a b ホーム”. ヤングケアラープロジェクト. 2022年1月8日閲覧。
  3. ^ a b 文也, 鈴木 (2023年4月30日). “実態見えぬ「私はグレーゾーン」 精神障害の親持つヤングケアラーの苦悩”. 産経ニュース. 2023年8月31日閲覧。
  4. ^ こども家庭庁 (2023年11月1日). “ヤングケアラーについて|こども家庭庁”. こども家庭庁. 2023年11月18日閲覧。
  5. ^ 澁谷、p.24
  6. ^ Looking after yourself | Carer Gateway” (英語). www.carergateway.gov.au. 2022年1月8日閲覧。
  7. ^ Being a young carer: your rights” (英語). nhs.uk (2018年8月30日). 2022年1月8日閲覧。
  8. ^ ヤングケアラーについて”. www.mhlw.go.jp. 2022年1月8日閲覧。
  9. ^ 「深く考えずに私を産んだことを謝って」両親に迫ったうつ病女性に芽生えた知的障害の兄への"憎悪" "兄のための私""私のための弟妹"という出産計画は間違っている (6ページ目)”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2022年4月16日). 2023年8月31日閲覧。
  10. ^ ヤングケアラー「働かない親」「学校に行かない」の連鎖…「ひらがな」「食べる練習」からサポート(なかのかおり) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2023年8月31日閲覧。
  11. ^ 親に精神疾患が…ヤングケアラーのつらい日常と再生を描く漫画「私だけ年を取っているみたいだ」 丹念な取材で見えた”ひずみ””. sukusuku.tokyo-np.co.jp (2023年8月31日). 2023年8月31日閲覧。
  12. ^ 「母の代わりに弟の授業参観へ」親の介護で青春と夢を諦めた女子高生の就職先 小学生で両親が離婚、母はうつ病に”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2021年3月26日). 2023年8月31日閲覧。
  13. ^ 成人後7割が「生きづらさ」 親の精神ケア経験が子どもに長期影響も:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2022年12月14日). 2023年8月31日閲覧。
  14. ^ 毎日新聞2020年3月22日付朝刊1面
  15. ^ ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書三菱UFJリサーチ&͡コンサルティング
  16. ^ 「ヤングケアラー」の状況は深刻!埼玉県では全国初の支援条例に基づく実態調査をスタートみんなの介護ニュース
  17. ^ 高校におけるヤングケアラーの存在割合に関する一考察大阪歯科大学准教授濱島淑恵らの研究グループが2016年に大阪府の公立高校の生徒を対象に行った調査では、高校を偏差値に基づいて分類した場合、偏差値ランクの低いグループの高校ではヤングケアラーの存在割合が高い傾向が示された。
  18. ^ ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム厚生労働省
  19. ^ ヤングケアラー、相談窓口を開設 来月、神戸市 /兵庫毎日新聞 2021/5/14
  20. ^ 夢 諦める若者も「ヤングケアラー」NHK
  21. ^ ヤングケアラーの過酷な現実、ご存知ですか?10代で介護に直面する若者たち介護求人ナビ
  22. ^ 「ヤングケアラー」18歳未満で家族の介護を担う若者が、直面するものは婦人公論.jp
  23. ^ 読売新聞、2021年4月13日付、朝刊総合面
  24. ^ 『ヤングケラーを支える』. 日本看護協会出版会. (2021年9月1日). p. 58 
  25. ^ ケアラー支援に関する条例”. www.rilg.or.jp. 2022年1月8日閲覧。
  26. ^ 福岡市 ヤングケアラー専用相談窓口について”. 福岡市. 2022年1月8日閲覧。
  27. ^ 福岡市が「ヤングケアラー」支援へ窓口開設 専門員が相談対応”. 西日本新聞me. 2022年1月8日閲覧。
  28. ^ 兵庫県. “兵庫県ケアラー支援に関する検討委員会”. 兵庫県. 2022年1月8日閲覧。
  29. ^ ヤングケアラーへの支援”. 大阪府. 2022年10月19日閲覧。
  30. ^ 第1回ヤングケアラー支援に向けたプロジェクトチーム会議を開催します”. 大阪市. 2022年1月8日閲覧。
  31. ^ ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム 第2回会議資料”. www.mhlw.go.jp. 2022年1月8日閲覧。
  32. ^ 日本放送協会. “「ヤングケアラー」中学生の約17人に1人 国 初の実態調査”. NHK政治マガジン. 2022年1月8日閲覧。
  33. ^ ヤングケアラー、支援検討 加藤官房長官時事ドットコム
  34. ^ 株式会社日本総合研究所 (April 2022). 令和3年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究 (PDF) (Report).
  35. ^ チャーム・ケア・コーポレーション:老人ホーム運営事業と並行し、ヤングケアラー支援を行うソーシャルエッグ
  36. ^ About young carers | Carers Trust”. carers.org. 2016年10月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月27日閲覧。
  37. ^ Australia's Welfare Report 2017”. Australian Institute of Health and Welfare. Australian Institute of Health and Welfare. 2019年3月7日閲覧。
  38. ^ Find a support service”. Young Carers Network. Carers Australia. 2019年3月7日閲覧。
  39. ^ About young carers” (english). carers.org. 2020年12月29日閲覧。
  40. ^ About”. Young Carers Network. Carers Australia. 2019年3月7日閲覧。


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