メガフロート
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/30 18:35 UTC 版)
英語では「Very large floating structures」(VLFSs)や「Very large floating platforms」(VLFPs)などとして紹介される[3]。
構造
浮力を発生させる材料と構造について、メガフロートでは十分な浮力、強さ、造り易さ、耐久性などの観点から、大型タンカーの船体などで採用されているものとほぼ同じ構造の溶接工法による鋼殻構造が採用されている[1]。メガフロートは隔壁で縦横に仕切られた構造になっており、底板の一部から浸水しても大規模な浮力損失が発生しないよう設計されている[1]。
メガフロートは海上に設置されるため、波の影響を受けるが、船舶のような揺れではなく、メガフロートの周辺部の上下動が構造体の振動(極めて緩やかな上下たわみと鉛直運動)として伝播する[1]。
水深20m以上の大水深海域や海底が軟弱地盤の海域にも対応できる人工基盤造成工法とされている[2]。
歴史
メガフロートの工法・技術開発を目的にメガフロート技術研究組合が設立され、1995年から3年間は基本技術開発を、1998年から3年間で実用レベルの技術開発(洋上滑走路を想定)が行われた。その後、この成果は財団法人日本造船技術センターに移管されている。実用実験時に作られたメガフロートは浮体の一部を切り出し、三重県南勢町、兵庫県南淡町(現:南あわじ市)、島根県西郷港、静岡県静岡市へ売却され、清水港の海釣り公園[4]やフェリー桟橋に転用された[5]。建造したのは三菱重工業で、全長1キロメートルの実験場の一部となり、神奈川県横須賀市沖の東京湾で実際に航空機が発着した[4]。
2011年には福島第一原子力発電所事故を受けて静岡市所有の浮体が東京電力に有償譲渡され[6]、改修されたうえで福島第一原発まで曳航され、洋上の汚水貯蔵タンクとして設置された。水1万トンを貯蔵できるとされ[7]、低濃度汚染水の貯蔵に用いられた[8]。実際に貯水した量は最大時で約8000トンであった。2012年に汚染水は陸上のタンクへ移され、内部を除染した後で福島第一原発に隣接する港の荷揚げ場に転用されることになり、2020年3月に最後の海上移動を終えて着底させられた。福島第一原発で転用された時点のメガフロートは建造時の一部で、全長136メートル、幅46メートルである[4]。
利点
以下の利点がある。
- 用地が不要
- 水深や地盤に関係なく海域を利用可能
- 耐震性に優れている
- 工期が短い
- 移設が可能(将来、必要に応じて固定をはずし曳航移動させることはできる)
- 環境への影響が少ない(海流、水質汚染、設置工事に伴う環境への負荷等)
- 拡張が容易
- 形状変更が容易
- 内部空間が利用可能(例えば、駐車場、災害時用備蓄スペース等として)
- 重量物設置が可能(追加補強工事が不要)
空港建設への利用
浮体式空港の構想は1920年代には存在していた[2]。こうした着想は古くからあり、たとえば『少年倶楽部』に1938年1月から12月にかけて連載された海野十三の少年向け軍事小説『浮かぶ飛行島』では、南シナ海に建造されつつあるメガフロート海上空港が舞台となっている。
メガフロート空港における空港付帯施設は、設計上、鋼製浮体の上部だけでなく内部空間にも建設することが可能とされる[2]。
浮体式空港は通常の埋立式海上空港と比較すると、水深や海底地盤に左右されない、海水の流れを阻害せず海洋環境負荷が小さい、耐震性に優れる、広大な内部空間を利用できる、超短工期で施工できる、拡充・移動・撤去が比較的容易などの利点がある[2]。一方、技術的特徴として潮汐による上下動、波浪による微妙な変形、鋼製であることによる磁気への影響や温度による変化などへの対応も必要となる[2]。また、滑走路、舗装構造、管制塔等については、陸上空港の設計基準をメガフロートにそのまま適用して良いか検討が必要とされた[2]。
メガフロートは、特に洋上空港としての利用が期待されたため、数km規模、100年耐用を目指して1995年頃から開発が進められ、1996年には長さ300m、幅60m、深さ2mの実証浮体モデルが造られた。2000年に住友重機械工業(現・住友重機械マリンエンジニアリング(株))主導のもと横須賀沖にて1000m級の実証浮体が建造され、実際にYS-11機等を用いた離着陸試験を行った。このときの結果を元にして、4000m級のメガフロートを建造し、空港に利用することが可能であると報告されている。特に、羽田空港の新滑走路設置に際して、在来の埋立工法をではなくメガフロート工法が採用されるかが注目された。工期や総工費、環境への影響など多様な観点から検討された。
浮体工法は国土交通省の「工法評価選定会議」でも「空港建設に充分使用できる」とされていたが、羽田空港滑走路再拡張事業で入札要件になっていたジョイントベンチャー(JV)を結成できず、2004年(平成16年)8月に造船業界は応札断念を表明した[9]。
- ^ a b c d 佐藤 千昭. “2 メガフロートの基本特性と構造計画”. 2022年11月24日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 岡村 秀夫、菊竹 哲夫、台木 一成. “メガフロート空港の研究開発”. 2022年11月24日閲覧。
- ^ このページの言語間リンクの英語版は「Very large floating structure」である。
- ^ a b c メガフロート「漂流」終わる『読売新聞』朝刊2020年5月24日(くらしサイエンス面)
- ^ これまでの実績 財団法人日本造船技術センター
- ^ “メガフロート 3億7000万円で売却へ 静岡市が東電と9月に売買契約”. 『中日新聞』. (2011年7月29日) 2011年7月29日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “福島第1原発:収束いまだ見えず 事故から半年”. 毎日新聞. (2011年9月9日). オリジナルの2011年10月6日時点におけるアーカイブ。
- ^ 東日本大震災:福島第1原発事故 建屋の水、除染し敷地内に散水 「火災防止対策」[リンク切れ]『毎日新聞』2011年9月23日
- ^ a b 大松 重雄. “5.3 メガフロート技術”. 2022年11月24日閲覧。
- ^ 「関東近海に米軍用"浮き滑走路"新設へ 伊藤防衛庁長官、米に提案へ」『日本経済新聞』1982年9月23日朝刊
- ^ 「米軍NLP実施、岩国沖に「メガフロート」検討」『読売新聞』2005年8月28日
- ^ ジェームズ・アワーの発言については「米軍再編とオキナワ・インタビュー」『沖縄タイムス』2004年9月20日
- ^ 高井三郎. “普天間海上基地実現の可能性 米軍のシー・ベース構想を検討する”. 『軍事研究』2010年8月.
- ^ “普天間移設、迷走の末の「現行計画回帰」?”. 『読売新聞』. (2010年4月25日). オリジナルの2013年5月1日時点におけるアーカイブ。
- 1 メガフロートとは
- 2 メガフロートの概要
- 3 軍事施設への利用
- 4 脚注
- メガフロートのページへのリンク