ヘッドマウントディスプレイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/04 08:53 UTC 版)
両眼・単眼に大別され、目を完全に覆う「非透過型」や「透過型」といったタイプがある。3D/2Dにも分類できる。
概要
1968年、バーチャル・リアリティ (VR) の先駆者であるアイバン・サザランドによって開発された。
通常、目の疲労を抑えるためになるべく遠くに結像した像を形成するようにする。これによって眼精疲労を抑えることができる。左右の目に違う映像を映し出すことも可能であるため、左右の映像を微妙に変えることにより立体的な画像にすることもできる。眼球の輻輳角と焦点距離に差が出るため、この場合も眼精疲労の原因となる。外の世界を完全に見えなくし、ヘッドフォンと併用して「視覚」、「聴覚」を制御できるようにすれば、より完全に近い「バーチャル・リアリティ」を実現できる。
従来のディスプレイが装置に視線を向けなければならないのに対し、このディスプレイはその必要がない。また、帽子や眼鏡の形をしているため、持ち運びに便利でいつでも利用することができる。
小型のディスプレイを利用するため非常に省電力である。特に仮想的な大型ディスプレイを形成したときにはかなりの省エネルギー効果を生み出す。ただし、複数人で共通のディスプレイを見ることはできないため、共通の映像を鑑賞する場合にはあまり意味がない。
民生用HMDは1990年代に各メーカーから発売され始めた。スマートフォンが普及した2010年頃[要出典]には、スマートフォンをセットして画面を利用する形状のゴーグルも普及するようになり[1][2]、ダンボールなどで自作することも可能なほか[3]、安価な自作キットも販売されている[1]。
歴史
映像作家であったモートン・ハイリグ(Morton Leonard Heilig)は、1957年に観客に視覚、音、振動、香りを提供する「センソラマ(Sensorama)」を開発して1962 年に米国特許を取得、1960年にはヘッドマウントディスプレイの最初の米国特許を取得した[4]。
1968年、コンピュータサイエンティストのアイヴァン・サザランド(Ivan E. Sutherland)が「ダモクレスの剣(The Sword of Damocles)」と呼ばれる天井から吊されたヘッドマウントディスプレイを開発した[4]。
1989年、コンピュータサイエンティストであり作曲家でもあるジャロン・ラニアー(Jaron Lanier)は、3次元磁気センサにより測定した手の位置と向きを入力して仮想世界のオブジェクトとの相互作用を可能にする入力デバイス「DataGlove」、3次元磁気センサにより頭部の向きをトラッキングでき、左右の目に独立して映像を表示する一組のディスプレイを内蔵したヘッドマウントディスプレイ「Eyephone」、身体全体の動きを計測するセンサーを埋め込んだ全身スーツ「DataSuit」を発売し、VRという言葉を世に広めることに成功した[4]。
このような黎明期の野心的なVRシステムの開発を経て、グラフィックスプロセッサの高性能化、ディスプレイの高精細化、半導体の微細化などの技術の進歩によって小型化され、高品質の仮想世界を体験できることのできる商用ヘッドマウントディスプレイが次々に開発されるようになった[4]。
2016年は「VR元年」と呼ばれ、それまで開発が進められていたヘッドマウントディスプレイが各社から一気に発売される年となった[4]。代表的なものとして、Oculus[注 1]のOculus Rift、ソニーのPlayStation VR、HTCとValve Corporationが共同で開発したHTC Viveがあり、いずれも高解像度ディスプレイを備え、100度以上の視野角を備えた小型で軽量なヘッドマウントディスプレイだった[4]。
分類
形状
- 眼鏡型
- 眼鏡の上部または前部に投影装置が装着されており、透明板部分に投影される。
- 帽子型
- 鍔の部分からディスプレイ装置が垂れ下がっている。ヘッドフォンつきのものもある。ヘルメットマウンテッドディスプレイと呼ばれることもある。
ディスプレイ方式
- 非透過
- 装着すると外の様子を見ることはできず、完全に別の世界にいるかのようになる。外の様子が見えないため利用者の安全に配慮する必要がある。
- ビデオ透過(ビデオシースルー、Video See-Through)
- ヘッドアップディスプレイの一種でもある。装着すると外の様子を見ることはできないが、カメラを通じてディスプレイに外の様子が映し出されているので、利用者は安全に移動することができる。
- 光学透過(光学シースルー、Optical See-Through)
- ヘッドアップディスプレイの一種でもある。ディスプレイ装置はハーフミラーでできており、外の様子が見える。片目のみにディスプレイ装置がついているものもある。また、ホログラフィック素子を用いたディスプレイも開発されており、まさに眼鏡のレンズのような近距離に配置された導光板に映像を投影し、SFで描かれるような「映像が映る眼鏡」を実現化することも可能となっている。光学多層膜のハーフミラーを用いると、必要な情報のみ表示板の表面に表示しながら外の様子をシースルーで見ることが可能となる。
投影方式
- 虚像投影
- ハーフミラーなどを利用することにより虚像を形成し、映像を観察できるようにするもの。
- 網膜投影
- 目の水晶体を利用して網膜に直接結像させるもの。利用者が近視や遠視などでも鮮明な像を見ることができる。ただ、眼球運動に左右されるため実装が非常に難しい。
自由度(Degree of Freedom:DoF)
- 3自由度(3DoF)
- XYZ3軸の傾きを検出する方式。安価な代わりに位置情報が得られないためVRコンテンツの操作に制限が生じる(視点位置が固定されている実写・プリレンダーのVR動画コンテンツの視聴は問題ない)。
- 6自由度(6DoF)
- 傾きに加えて三次元空間における位置情報を検出する方式。より没入感の高いVRコンテンツが体験できる反面、システムが大型化・高額化してしまう難点があったが、近年はOculus Questの様に本体内蔵のカメラのみで6DoFを実現した製品も登場している。
注釈
出典
- ^ a b ナベコ (2014年7月1日). “グーグルのダンボール製ヘッドマウントディスプレーで極上VR体験をした”. 週刊アスキー. 角川アスキー総合研究所. 2018年9月21日閲覧。
- ^ “Apple、「スマホを使ったHMD」特許を取得”. ITmedia News. ITmedia (2015年2月18日). 2018年9月21日閲覧。
- ^ さいじょー (2014年7月3日). “グーグルのヘッドマウントディスプレイを自作してみる”. 週刊アスキー. 角川アスキー総合研究所. 2018年9月21日閲覧。
- ^ a b c d e f 青木武司 (2021年 8月). “ヘッドマウントディスプレイによって実現される仮想世界と知的財産の保護”. 月刊パテント. JPAA日本弁理士会. 2021年11月26日閲覧。
- ^ “【ヘッドマウント・ディスプレイ】メガネ型のウエアラブル機器、スマホ革命で再び表舞台に”. 日経トレンディ. 日経BP (2013年7月19日). 2013年7月24日閲覧。
- ^ “ソニー、3D内視鏡手術向けのヘッドマウントモニター 有機EL+3Dを医療分野に応用。PinPなど対応”. Impress Watch (2013年7月23日). 2013年7月24日閲覧。
- ^ a b c d e f 仲田しんじ (2015年3月18日). “盛り上がるヘッドマウントディスプレイ開発 "3D酔い"しないHMDで、「Steam」のValve社が躍り出る!?”. おたぽる. サイゾー 2017年7月15日閲覧。
- ^ a b c d 傭兵ペンギン (2016年9月13日). “VRで盛り上がるジョイポリス、だがセガは1994年にVRアトラクション「VR-1」を導入していた”. iNSIDE. イード. 2016年10月2日閲覧。
- ^ a b c “Riftと組み合わせると最強のVR環境に! ゲーム世界を自分の足で歩けるデバイス“Omni”が出資募集開始”. ファミ通. エンターブレイン (2013年6月5日). 2013年6月5日閲覧。
- ^ “自分の体を動かしてゲーム中を走ったりできる完全VRを実現したデバイス「Omni」”. GIGAZINE. OSA (2013年7月1日). 2013年7月2日閲覧。
- ^ “【GTMF2013】Unity大前氏が語る「これからのゲーム開発に投資すべき3つのこと」”. GAME Watch. Impress Watch (2013年7月23日). 2013年7月24日閲覧。
- ^ “バーチャルリアリティでミクさんと遊んでみた動画 巨大ミクダヨーとの戦闘も”. ITmedia. アイティメディア (2013年7月18日). 2013年7月24日閲覧。
- ^ “ARAIG As Real As It Gets”. Facebook. 2013年7月2日閲覧。
- ^ “「Oculus Rift」に対抗!? NVIDIAがサングラススタイルの立体視対応HMDを披露”. 4Gamer.net. Aetas (2013年7月24日). 2013年7月24日閲覧。
- ^ “ソニー、TGS2012限定仕様のHMD「PROTOTYPE-SR」を体験展示”. GAME Watch. Impress Watch (2012年9月20日). 2013年7月24日閲覧。
- ^ バンダイナムコはなぜ「VR ZONE Project i Can」を立ち上げたのか。プロジェクト仕掛け人のコヤ所長とタミヤ室長にいろいろ聞いてみた(4Gamer.net 2016年6月23日)
- ^ “AR智能警用頭盔重新定義智慧安防”. 每日頭條 (2019年6月19日). 2019年11月11日閲覧。
- ^ “Police in China are wearing facial-recognition glasses”. ABCニュース (2018年2月8日). 2019年11月3日閲覧。
- ^ “光启技术首次发布单兵AI装备 进博会大规模应用”. 証券時報網 (2019年11月4日). 2019年11月11日閲覧。
- ^ “这款高科技头盔,让他们变身成电影中的“超级战士”!”. 青春上海 (2019年10月23日). 2019年11月11日閲覧。
- ^ “800余套警用智能头盔投入进博会实战应用,5米外,就能“看到”潜在威胁份子”. 文匯報 (2019年11月3日). 2019年11月11日閲覧。
- ^ “【嘉定公安的十二时辰】护航进博,他们与忙碌的时空共舞”. 人民網 (2019年11月4日). 2019年11月11日閲覧。
- ^ “Coronavirus: Chinese police wear smart helmets to check body temperature in crowds”. サウスチャイナ・モーニング・ポスト (2020年3月11日). 2020年4月5日閲覧。
- ^ “Examining the Effects of HMDs/FSDs and Gender Differences on Cognitive Processing Ability and User Experience of the Stroop Task-Embedded Virtual Reality Driving System (STEVRDS)”. www.researchgate.net. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “Naturalistic visualization of reaching movements using head-mounted displays improves movement quality compared to conventional computer screens and proves high usability”. jneuroengrehab.biomedcentral.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “Cyberpsychology and schools: a feasibility study using virtual reality with school children”. www.lavendercounselling.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “Understanding Virtual Reality Headsets”. www.engineering.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “Head-Mounted Display Systems”. citeseerx.ist.psu.edu. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “BMW Develops Head-Up Display For Ralf Schumacher's F1 Helmet”. www.press.bmwgroup.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “MOD Live Adds A Heads Up Display To Your Ski Goggles (video)”. www.geeky-gadgets.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “MOD and MOD Live Android ski goggles give extreme analytics, we go eyes-on”. www.engadget.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “Recon Instruments MOD and MOD LIVE ski goggles: a dashboard in your head”. www.ubergizmo.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “Effectiveness of VR Head Mounted Displays in Professional Training: A Systematic Review”. link.springer.com. 2023年11月17日閲覧。
- ^ “HMD-based training for the U.S. Army's AVCATT-A collective aviation training simulator”. www.researchgate.net. 2023年11月17日閲覧。
- 1 ヘッドマウントディスプレイとは
- 2 ヘッドマウントディスプレイの概要
- 3 応用
- 4 作品上での登場
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