プランクの法則
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/10 06:21 UTC 版)
導出
伝導壁をもち電磁波で満たされた一辺の長さ L の立方体を考える。立方体の壁では、電場の平行成分と磁場の直交成分はあってはならない。箱の中の粒子の波動関数との類似により、場は周期的な関数の重ね合わせとして表される。壁に直行する3つの方向についての3つの波長 λ1, λ2, λ3 は
となる。ここで ni は整数である。ni のそれぞれの組について、2つの線型独立な解(モード)がある。量子論にしたがい、一つのモードのエネルギー準位は
によって与えられる。
量子数 r はモードの中の光子数に対応している。ni のそれぞれの組の2つのモードはスピン1をもつ光子の2つの偏光状態に対応している。ここで注意すべきは、r = 0 においてもモードのエネルギーは零ではないことである。この電磁場の真空エネルギーはカシミール効果によるものである。これ以降、温度 T の箱の内部エネルギーを真空エネルギーとの相対値で計算してゆく。
統計力学に従い、特定のモードのエネルギー準位についての確率分布はカノニカル分布になる
で与えられる。ここでβは
で定義される逆温度である。
分母 Z(β) は単モードの分配関数であり、Pr を正しく規格化する。
ここで
は単一光子のエネルギーである。あるモードにおける平均エネルギーは分配関数によって
のように表される。
これはボース=アインシュタイン統計に従う粒子の場合の公式である。全光子数に制限がないため、化学ポテンシャル μ は零である。
箱の中の全エネルギーはあり得る全単一光子状態についての総和 に従う。これは L が無限大となる熱力学的極限において厳密に成り立つ。この極限では ε は連続となり、よって をεについて積分することができる。この方法により箱の中の全エネルギーを計算するには、与えられたエネルギー範囲にどの程度の光子状態があるのかを評価する必要がある。今エネルギー ε と ε+dε の間にある単一光子状態の総数を g(ε) dε と表すとする。ここで g(ε) は評価しようとする状態密度である。この場合には
と書くことができる。
状態密度を計算するためには、等式(1)を
と書き換える。ここで n はベクトルのノルム(長さ)
である。
零以上の整数成分のベクトル について、それぞれ2つの光子状態がある。言い換えると、ある n-空間領域での光子状態の数は、その領域の体積の2倍である。dε のエネルギー範囲は n-空間では dn = (2L/hc) dε の厚さの殻に対応する。 の要素は符号が正でなくてはならないため、この殻は丁度球の八分の一領域にわたる。よってエネルギー範囲 dε にある光子状態の数 g(ε) dε は
で与えられる。
この式を方程式 (2) に代入して
を得る。
この方程式から、周波数の関数 u(ν, T) または波長の関数 u(λ, T) として分光エネルギー密度を容易に導出することができる。
ここで
である。この u(ν, T) は黒体スペクトルとして知られる。これが単位周波数、単位体積あたりの分光エネルギー密度の関数である。
更に
も導くことができる。ここで
である。
これは同様に、単位波長、単位体積あたりの分光エネルギー密度の関数である。ボース気体とフェルミ気体の計算に現れるこの形の積分は多重対数関数によって表される。しかし今回の場合には閉形式の積分を初等関数を用いて表すことができる。方程式 (3) において
と置換すると、積分変数を無次元量の割り算にすることができ
である。ここで J は
によって与えられる。
よって箱の中の全電磁エネルギーは
によって与えられる。ここで V = L3 は箱の体積である。(註: これはシュテファン=ボルツマンの法則ではない。すなわち、黒体によって放射される全エネルギーではない)放射は全方向 4π に等しく起き、またその伝播速度は光速 c であるため、分光放射輝度は
である。よって
を得る。
この式を波長についての I' (λ, T) の形式へと変換するためには、ν を c/λ で置き換え、
の式を計算する。
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