プライミーバル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/23 05:52 UTC 版)
制作
コンセプト
動物学を専攻し科学ジャーナリストの経歴を持つティム・ヘインズは[11]、自然ドキュメンタリーシリーズ『ウォーキングwithダイナソー〜驚異の恐竜王国』(1999年)を計画・制作した際、BBCのテレビ番組プロデューサーとして彼自身としては初めてのテレビのブレイクスルーを起こした[12]。『ウォーキングwithダイナソー』は効果的な特殊効果を用いて恐竜を彼らの自然環境に生きる動物として描写した史上初の自然史シリーズであり[13]、イギリスのテレビ史においてもっとも視聴された科学番組となり、大成功を収めた[14]。『ウォーキングwithダイナソー』を制作しながら、ティム・ヘインズはこの技術を利用してSF番組を制作することを思いついた。BBCはこのアイディアを受け入れたが、ヘインズは新しいアイディアよりも知名度の高い作品を望んだため、アーサー・コナン・ドイルの『失われた世界』を原作に『ロストワールド 〜失われた世界〜』を制作した[11]。ヘインズによれば、『ロストワールド 〜失われた世界〜』の成功から、彼は『ウォーキングwithダイナソー』の技術を用いて「非常に面白いハリウッド風の物語」を創作できる可能性を見出した[15]。
番組の成功により、ヘインズは2002年に彼自身の最上級のテレビ制作会社インポッシブル・ピクチャーズの共同設立が可能となった[15]。『ロストワールド 〜失われた世界〜』の制作の後、ヘインズは『プライミーバル』のアイディアを思いついた。この時点でのタイトルは"Cutter’s Bestiary"であった[11]。彼のアイディアの源泉となった1つはレイ・ハリーハウゼンの古いSF映画であり、ヘインズはこれらに「確かな魅力」を感じていた[15]。この他のインスパイア元としては化石のゴーストリネージがあり、ヘインズは時間を跳躍する動物によりこれを説明できると想像した[16]。他に影響を与えた作品には『ジュラシック・パーク』と『キングコング』がある[17]。制作チームに関与していないコメンテーターからは、『プライミーバル』が『ドクター・フー』や『LOST』、『スターゲイト』、Quatermass (en) からのインスピレーションが示唆されている[18]。
ヘインズは他の作家と共同で脚本を書いたが、結局は何も得られなかった。当時Charles II: The Power and the Passion(2003年)で英国アカデミー賞を受賞したエイドリアン・ホッジスは、BBCのドラマ部門長であるローラ・マッキーと今後の作品の可能性について議論した。チャールズ・ディケンズの『荒涼館』のドラマ化を提案されたが、『デイヴィッド・コパフィールド』を既にドラマ化していたホッジスはこれを拒否し、『バフィー 〜恋する十字架〜』のような雰囲気の楽しいものを制作したいと主張した。そこでマッキーが "Cutter's Bestiary" を提案すると、ホッジスは題名を快く思わなかったものの、現代に恐竜が出現するというコンセプトを素晴らしいものであると考えた[11]。こうしてヘインズとホッジスが主体となってコンセプトを作り[1]、2003年頃にパイロット版が執筆された[8]。当初は1話90分のドラマにする方針が取られていた[11]。
ヘインズとホッジスは構想に着手した際、当時まだ復活していなかった『ドクター・フー』にも通じるものを作ろうと考えていた。しかし、当時ラッセル・T・デイヴィスが『ドクター・フー』の新シリーズを企画していたため、『プライミーバル』は『ドクター・フー』に雰囲気が似通っているという理由でBBCからキャンセルされることになった。これはヘインズが"Cutter's Bestiary"を設定してから4、5年後のことであった[11]。BBCにキャンセルされた後、ヘインズとホッジスはITVの委員ニック・エリオットに『プライミーバル』を打診した。エリオットはホッジスが制作した脚本を気に入り、復活した『ドクター・フー』の成功を再現したいという願いから、このシリーズに許可を出した[11]。また、ドイツのプロジーベンやフランスのM6からの『プライミーバル』へのさらなる資金援助が確保された[19]。
開発の歴史
シリーズの制作が確約され、また複数の脚本が既に執筆されていた状態で[11]、2006年1月に[20]プロデューサーらは主演俳優のキャスティングに移った[11]。ホッジスとヘインズはニック・カッター役のダグラス・ヘンシュオールにはその役のために個人的にアプローチを取ったが、その他の俳優は通常のオーディションを通して配役が決定した[11]。ヘンシュオールの他に加わったキャストには、ジェームズ・マレー、アンドリュー・リー・ポッツ、ハンナ・スピアリット、ルーシー・ブラウン、ジュリエット・オーブリー、ベン・ミラー、マーク・ウェイクリングがいた[19]。
『プライミーバル』は、あまり深刻に捉えず[17]、大人も子供も楽しめるファミリー向けシリーズとして構想された。プロデューサーらは、単なる子供向け番組ではなくドラマも単体で成立するように工夫し、「PG-13の感覚」を目指した[15]。制作チームもまた「キッチンに恐竜が居る」と感じられるよう、多くのエピソードを親しみ深い環境に設定し、現代を感じさせる意図的な選択をした[16]。今週の悪役フォーマットに倣うことに加え、『プライミーバル』には生態系の破壊や環境保全といった深いテーマも組み込まれた[11]。
『プライミーバル』の監督の選出にあたり、ヘインズとホッジスは高い実績を持つ人物の採用を望んだ[16]。第1章のためアプローチされた監督はシーラ・ウェアとジェイミー・ペインであった。いずれの監督もアクションシーンの経歴を持たなかったが、ドラマを描写することへの経験があった[17]。シリーズのビジュアルスタイルは『海賊ブラッド』(1935年)や『ロビンフッドの冒険』(1938年)といったエロール・フリンの映画からインスパイアされた面もあった[17]。第1章の制作の間、タイトルは当初 Primaeval と綴られていた[21][22][23]。第1章の制作はITVにより2005年12月27日に告知され、「ブラックホールを通って先史時代に旅をする科学者についての6部作の叙事的長編」として宣伝された[23]。
第1章の成功に続き、2007年5月に『プライミーバル』は第2章が再委託され[24]、6月8日に告知された[25]。ウェイクリングを除き第1章のメインキャスト全員が第2章には復帰したほか、新たなメインキャストとしてカール・テオバルドとナオミ・ベントリーが参加した[25]。第3章は2008年1月30日に告知された[26]。ヘンシュオールは第2章と第3章の間に『プライミーバル』が「野望を単純化」していると感じ、第3章で降板した。そのため、第3章で意図されていたプロットは大幅なリライトを必要とし、ジェニー・ルイス(演:ルーシー・ブラウン)とヘレン・カッター(演:ジュリエット・オーブリー)のストーリーラインも左右された。主演はダニー・クイン役のジェイソン・フレミングが引き継いだ[11]。第3章での新たな登場人物は、ライラ・ロス、ベン・マンスフィールド、ベリンダ・スチュワート=ウィルソンが演じた[27]。
打ち切りと復活
第3章の成功にも拘わらず、放送後、財務上の理由で『プライミーバル』は2009年6月15日に打ち切られた。これは世界金融危機の煽りを受けてITVが倒産の危機に瀕していたためである[11]。ITVは第4章の再委託を拒否し、製作会社であるインポッシブル・ピクチャーズは1エピソードあたり60万ポンドの制作費削減[28]やライバルチャンネルへの番組販売[29]といった様々な手法を取ろうとした。打ち切りの理由はおそらく主に予算への影響であった[30]。『プライミーバル』の制作費は1シリーズあたり数百万ポンドに上り、またインポッシブル・ピクチャーズの独立制作であったため、ITVは利益の全てを請求することが不可能であった[31]。第3章の制作の間、プロデューサーは『プライミーバル』が第4章で復活しないことを全く予期していなかった。その後のインタビューでは、中止の危機を知っていたらこれほど多くの登場人物の運命を不安定にはしなかっただろうと述べられている[32]。
打ち切りから3か月後、『プライミーバル』は再委託された。シリーズの復活がなされたのはインポッシブル・ピクチャーズの対処によるものであり、シリーズはITVおよびUKTVを加えた共同制作となり(コストシェア)、BBCワールドワイドとプロジーベンからの追加の資金援助も提供された。この対応により13話の新エピソードの制作が確保され、これらは第4章と第5章に分割された。第4章はITVとその後はUKTVが所有するチャンネルWatchで放送され、第5章はWatchで初放送された[33][34]。制作チームは、前シリーズのプロットを解決して『プライミーバル』をさらに発展させられることから、2つのシリーズをさらに制作できることを喜んだ[35]。第4章と第5章の制作費は合わせて1500万ポンドであった[36]。
第3章のキャストは大部分が第4章および第5章に復帰することが告知されていたが[33][37]、複数人の俳優の離脱や第3章で過去に取り残された人物がいたことから、制作にあたって新たな登場人物として複数人をキャスティングする必要があった[11][38][39]。ライラ・ロスとジェイソン・フレミングもまた、さらなるシリーズの全話に出演することが不可能であった[40]。結果として、第4章と第5章には新たに複数の主要人物が登場し、それぞれキアラン・マクメナミン、ルース・カーニー、ルース・ブラッドリー、アレクサンダー・シティグが演じた[41][42]。最終的に、2012年にITVで第5章が放送された際のレーティングは低く、第6章への更新はなされなかった[43]。ただし、制作陣とキャストはシリーズの継続に興味を示していた[44][45]。
制作スケジュール
シリーズ | 告知 | 撮影 | 撮影期間 | 最初の初放送 | 最後の初放送 | 出典 |
---|---|---|---|---|---|---|
第1章 | 2005年12月27日 | 2006年5月 - 8月 | 約4か月半 | 2007年2月10日 | 2007年3月17日 | [23][46] |
第2章 | 2007年6月8日 | 2007年6月 - 9月 | 約3か月 | 2008年1月12日 | 2008年2月23日 | [24][25][47] |
第3章 | 2008年1月30日 | 2008年中盤 - 後半 | 約半年 | 2009年3月28日 | 2009年6月6日 | [26][48][49] |
第4章 | 2009年9月29日 | 2010年3月22日 - 6月26日 | 3か月 | 2011年1月1日 | 2011年2月5日 | [33][50][51] |
第5章 | 2010年7月 - 11月 | 約4か月 | 2011年5月24日 | 2011年6月28日 | [33][52][53] |
特殊効果
『プライミーバル』の第1章から第3章までの視覚効果は、ロンドンに拠点を置く視覚効果会社フレームストアにより製作された。フレームストアの採用は、ヘインズおよびインポッシブル・ピクチャーズとの長期に及ぶ共同制作会社であり、『ウォーキングwithダイナソー』やその他の『ウォーキングwith』シリーズをかつて製作していたためである。視覚効果の監督には、『プライミーバル』に高度に野心的な効果が求められたことから、クリスティアン・マンズが採用された。各エピソードの効果の製作には約13週、アニメーションに8週、光学合成に6週、照明に3週を要した[54]。最も予算を要する部分である光学合成には予算の半分が割かれた[16]。通常、複数のエピソードは同時に製作される。フレームストアは『プライミーバル』のために15人のアニメーターと15人の合成者を含む60人のクルーを動員した。これはシリーズの撮影スタッフと同等の規模であった。『プライミーバル』の製作ペースは速かったため、効率的な製作のためには大規模なクルーが必要であった。第1章の効果は2006年4月中に開始し、9月に完了した[54]。
プロデューサーは当初、時空の亀裂がどのように見えるか、具体的なアイディアを持っていなかった。ホッジスの脚本において、彼は時空の亀裂について単純に「空中で煌めいている」とだけ記載していた。デザインはヘインズと効果チームによって製作された。最終的なデザインが破砕されたガラスのようになったのは、人が通過するシーンで、断片が徐々に大きくなり、最終的に向こう側の世界へ踏み出すというイメージがあったためである[16]。
当初フレームストアは第4章の制作にも参加することを告知していたが[50]、結局制作に参加することはなかった。代わりに第4章と第5章の視覚効果を担当したのはThe Millであった[55]。ヘインズによれば、制作陣がThe Millを採用したのは、The Millが高精細度ビデオでの撮影に長けていたためであった[56]。『プライミーバル』の人形やアニマトロニクスを含む操演は、かつて『ウォーキングwith』シリーズや『プレヒストリック・パーク 〜絶滅動物を救え!〜』でインポッシブル・ピクチャーズと共同制作を行ったCrawley Creaturesが担当した[57]。
音楽
『プライミーバル』第1章から第3章までの主作曲家はドミニク・シェラーであった[58][59]。シェラーはトラックの作曲に10日を費やし、録音して各エピソードのためにミックスすることにさらに3日を費やした。彼は電子音楽と伝統的なオーケストラのハイブリッドである音楽を作ることを選択したが、これについて舞台の都市性と登場人物の態度が影響を与えたとコメントしている。シェラー曰く、CGIを用いる番組の特性上生物のスコアのテーマは不完全なイメージに基づくことが多く、創造的な挑戦だったという。彼は生物の絵や監督の説明だけでその生物の感触を掴めることもあると述べ、また最終的な外見や質感が音楽に大きな影響を与えることがあると述べた[59]。『プライミーバル』のテーマ曲の作曲にあたり、テーマ曲が人類が太古の過去と繋がるという重大な機会を反映していること、また生物そのものが危険かつ素晴らしいという威厳、および冒険が中心であることをシェラーは主張した[59]。第1章のためのシェラーのオリジナルのスコアは75分に及び、これは2011年9月20日にCDとデジタルでリリースされた。タイトルはPrimeval: Original Television Soundtrackであった[58][59]。
第3章では、シェラーのテーマに合わせてジェームズ・ハニガンが新たな音楽を書き下ろした[60]。また、第1章と第2章では、アンガス・モンクリフがオーケストレーター、シンセプログラマー、トランペット奏者を務めた。彼は第3章の4話分で35から40分の新曲の作曲、制作、ミキシングも担当した[61]。第4章と第5章ではスティーヴン・マッケオンが主作曲者を担当した[62]。
クリーチャーデザイン
『プライミーバル』に登場した先史時代の生物は根本から科学に根差しているが[40]、意図的に完全には科学的に正確なものではないように設定されており、よく大きさが誇張され、より恐ろしく見えるようにされている[54]。映画的な観点から、現実の動物よりも知能を高く設定し、肉食動物が誰をどう襲うかを決定するなど、より個性を付与することもよく行われた[16]。科学的な厳密性に拘泥せず、むしろ科学を創造的思考のためのインスピレーションに用いるという決定は、『ウォーキングwith』シリーズで科学的厳密性を追求せざるを得なかったヘインズがそうした制約から解放されたかったためになされたものである。具体的な架空のデザインとしては、ゴルゴノプスの発達した犬歯が2本ではなく4本になっている点が挙げられる[40]。現実の先史時代の生物に加え、『プライミーバル』には複数の架空の生物も登場しており、その中には未来生物もいる[54]。未来の動物を登場させるという決定は第1章のプリプロダクションでなされたものであり、時空の亀裂が過去と現代を接続するのであれば論理的に現在と未来を繋げることもあるという考えに基づいている[16]。『プライミーバル』で最も象徴的な未来生物は、繰り返し登場している未来の捕食動物であり[63]、これは巨大な地上棲の捕食性のコウモリである[64] [65]。
架空のデザインに改造されているものの、先史時代の生物はほとんどの場合で実際の生物に酷似している。これはデザイン上の判断というだけでなくアニメーターの作業効率を考えた判断でもあり、実際の生物の方が架空生物よりも簡単に生体力学を解明して説得力のあるアニメーションにできることが多いためである。また、生物の行動や能力を決定するために、登場する動物の科学的な仮説も往々にして用いられた[40]。例えば、テロケファルス類のある属には毒があった可能性があり[66]、これは『プライミーバル』に登場した有毒のテロケファルス類の基礎として用いられた[40]。
生物のモデルを作成する過程には最初にコンセプトアートワークを製作する必要があり、ダレン・ホーレイは数多くの生物のコンセプトアートワークをデザインした[16]。ホーレイはITVにより番組が委託される前という非常に初期の段階からプロジェクトに参加しており、ヘインズがBBCに提出したCutter's Bestiaryの初稿のためのコンセプトスケッチを製作した。また、ホーレイは完成したモデルのテクスチャマップもデザインした。彼のデザインは引き続き使用されたが、彼は第3章を最後に『プライミーバル』での作業を中止した。
ホーレイがコンセプトアートワークを作成した後、そのデザインに基づいて彫刻家が粘土でマケット(模型)を製作した。これらは高解像度のレーザースキャナーでコンピューターに取り込まれた[16]。
注釈
出典
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