ハンプ (道路)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 08:43 UTC 版)
同様の構造物は全世界で利用されており、その多くが時速40キロメートル以下の速度制限を遵守させるためのものである。日本では速度を時速30キロメートル以下に抑制することを目的として設置される。
概要
運転者の裁量によって無視されるおそれのある一般的な交通規制とは異なり、物理的手法によって安全運転を促す。車両がハンプを通過する際には上下の振動が発生するため、高速で通過すると、乗車している人に不快感を及ぼしたり、車体の姿勢を崩して交通事故を起こす可能性があることから、これらを忌避する運転者は減速せざるを得なくなる。特に住宅街などの生活道路で有効な手法で、交通静穏化の目的で利用されることが多い。
また、この目的で利用される構造物について、ハンプ(hump)の他にバンプ(bump)という語が用いられることがあるが、英語のhumpは丘のようななだらかな隆起(またはそのような地形)を指し、bumpは平面上のこぶや突起を指したり、擬音語(日本語の "ドスン" にあたる)として用いられる語であるため、バンプはハンプより短く、感じる衝撃もバンプの方が大きいことが多い。
また、単にhumpやbumpと言った場合は前述のような意味となるため、道路上に設置される構造物を指して言う場合は、スピードハンプ(speed hump)、スピードバンプ(speed bump)などのように区別する。後述するスピードテーブル、スピードクッションも同様である。
材質
ハンプの成形には、主にアスファルト、コンクリート、再利用プラスチック、金属、加硫ゴムなどが用いられる。堅固で耐久性があり、速度抑制の目的に適うことから、アスファルトやコンクリート製のものが用いられることが多いが、成型が難しく、スピードクッションで代替されることも多い。
私有地などへの設置を想定したゴム製ハンプでも、基本的には法規に適合するように設計されている。これらはボルト止めで容易に設置・撤去を行えるのが特徴で、試験設置時に位置を変えて効果を確認したり、除雪車による損傷を防ぐために積雪時のみ撤去することもできる。
歴史
1906年6月7日のニューヨーク・タイムズ紙に、ニュージャージー州チャタムで、横断歩道を路面から5インチ(12.7cm)かさ上げする計画が紹介されており、紙面には「This scheme of stopping automobile speeding has been discussed by different municipalities, but Chatham is the first place to put it in practice.(他の自治体ではこの方法で自動車の速度違反をなくすことが議論されてきたが、チャタムはその第一人者となる)」[2]との記載があった。
1953年、ノーベル物理学賞受賞者のアーサー・コンプトンは、当時学長を務めていたセントルイス・ワシントン大学の構内を走行する自動車がスピードを出していることに気付き、ハンプ設計の基礎となる「traffic control bumps」を発案した[3]。
1973年、英国交通道路調査研究所(The British Transport and Road Research Laboratory)は、様々な幾何学形状の隆起に対し、車両がどのような挙動を示すかを調査した報告書を出版した[4]。この当時のイギリスはまだ道路上のハンプが合法化されておらず、私道のみの設置に留まっていた。
交通工学研究所(Institute of Transportation Engineers)によると、欧州初のハンプは、1970年にオランダのデルフトに設置されたとされている[5]。
スピードハンプ
スピードハンプ(speed hump または road hump, undulation[6], speed rampとも)はなだらかな曲面を持ち、生活道路における車両速度と交通量を低下させるためのものである。主に道路の横幅いっぱいに設置され、放物線状か正弦状の曲面を持つ[6]。
通常、全長は3.7m〜4.25m、高さは7.5cm〜10cm程度である[6]。通過できる速度は全長と高さにより、短くて高いものほど速度を落とさせる効果がある。また、100m〜170mおきに設置した場合、本来の速度の85%まで減速させることができる[7]。
設置に当たっては、存在を示す注意標識を設置する必要があるほか、視認性を高めるために路面標示が施されている。排水を考慮し、端部はなだらかに道路面へ近付くような設計になっている[6]。
スピードハンプは周辺環境から低速で通過することが望ましい場所に設置される[8]。 主に生活道路の交差点と交差点の間に設置され、大通りや路線バスの経路、緊急避難路などには使用されない。
効果
スピードハンプは通過車両の速度を時速25〜30キロ程度に抑えることができ、設置箇所によってはその中間地点でも40〜50キロ程度まで抑えられる。研究では、交通量を18%、接触事故を13%減らせることが分かっている[6]。
ハンプとバンプ
後述するスピードバンプと多数の類似点があるが、スピードハンプの方が運転者などに負担を強いにくい。ハンプは基本的に道路に設置され、バンプは駐車場などで用いられることが多い[9]。 バンプは通過車両の速度を時速8〜16キロまで下げるが、ハンプは時速24〜32キロである。
バンプは前後の長さが短く、高速で通過した場合でもタイヤやサスペンションにさほどの障害は及ぼさないが、車体や乗員にはかなりの負担がかかる。比較的前後の長いハンプは、低速であれば何ら問題はないが、継続的に垂直方向の圧迫感が発生する。高速ではサスペンションが衝撃を吸収しきれないためにこの傾向がより強くなり、車両全体に及ぶ影響も大きくなる[10]。
- ^ 『「凸部、狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準」の制定について~身近な道路の交通事故死者半減を目指して~』(プレスリリース)国土交通省道路局、2016年3月31日 。2023年2月13日閲覧。
- ^ “Democratic Rate Plan Favored by Roosevelt [and other news]”. New York Times. (1906年3月7日). p. 3
- ^ “Original Traffic control sketch made by Compton in 1953”. Washington University Libraries. 2010年6月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月14日閲覧。
- ^ Road humps for the control of vehicle speeds by G.R. Watts, TRRL Laboratory Report 597,1973
- ^ Klaus Schlabbach. “Traffic Calming in Europe”. Institute of Transportation Engineers. 2014年3月14日閲覧。
- ^ a b c d e f ITE. “Traffic Calming Measures – Speed Hump”. Institute of Transportation Engineers. 2007年3月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月31日閲覧。
- ^ Peter Partington. “Speed Humps”. Trafficcalming.net. 2014年3月14日閲覧。
- ^ trafficcalming.org. “Speed Humps”. Fehr and Peers. 2001年2月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月31日閲覧。
- ^ “SPEED BUMPS AND SPEED HUMPS”. www.cga.ct.gov. 2013年6月9日閲覧。
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- ^ ITE. “Traffic Calming Measures”. Institute of Transportation Engineers. 2017年7月31日閲覧。
- ^ TrafficCalming.org. “Speed Humps (Road Humps, Undulations)”. Fehr & Peers. 2001年2月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月31日閲覧。
- ^ “Actibump”. Edeva. 2016年12月1日閲覧。
- ^ “Smart speed bumps reward safe drivers”. New Scientist. オリジナルのMarch 26, 2007時点におけるアーカイブ。 .
- ^ English, Shirley (2005年11月11日). “Smart' road hump will smooth the way for safe drivers”. London: The Times. オリジナルの2006年1月13日時点におけるアーカイブ。 2010年5月23日閲覧。
- ^ “A Comparative Study of Speed Humps, Speed Slots and Speed Cushions”. 2017年7月31日閲覧。
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- ^ a b ITE. “Traffic Calming Measures”. Institute of Transportation Engineers. 2008年4月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月31日閲覧。
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- ^ “Speed Limits and Reduction: Speed Humps”. Eastleigh Borough Council. 2006年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月31日閲覧。
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- ^ “Transport Committee Minutes 11/12/2003”. London Assembly. 2014年3月14日閲覧。
- ^ Dr Anders Brandt & MSc Johan Granlund, Swedish Road Administration (2008年). “Bus Drivers’ Exposure To Mechanical Shocks Due To Speed Bumps”. Society for Experimental Mechanics, IMAC XXVI Conference and Exposition on Structural Dynamics. 2011年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年6月2日閲覧。
- ^ “首都高の謎新名所「辰巳ジャンプ台」が話題! なぜ本線合流直前に「段差」を設置? SNSではジャンプ大会状態に…”. くるまのニュース. メディア・ヴァーグ (2023年1月30日). 2023年2月7日閲覧。
- ^ 瀬戸下伸介、大橋幸子、関皓介 (2017年1月). “「凸部、狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準」に関する技術資料(国総研資料第952号)”. 国土交通省 国土技術政策総合研究所. pp. 28–29. 2023年2月13日閲覧。
- ^ “제5편 과속방지턱”. 국토교통부. 2024年4月26日閲覧。
- ^ “Highways (Road Humps) Regulations 1999 (replacing the 1996 regulations)”. UK Department of Transport. 2017年7月31日閲覧。
- ^ “Speed humps dumped after protest”. Auto Express
- ^ “Bumps: Britain gets the hump”. London: The Times. (2003年10月19日) 2010年5月23日閲覧。
- ^ “Crash victim's family may file civil action”. Strathspey & Badenoch Herald[リンク切れ]
- 1 ハンプ (道路)とは
- 2 ハンプ (道路)の概要
- 3 スピードバンプ
- 4 スピードクッション
- 5 スピードテーブル
- 6 補足
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