スクールカースト
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社会調査
「スクールカースト」という語の認知度
教育学者の水野君平が、2018年に、北海道の専門学生・大学生347名を対象としてアンケートを行い、中学生の頃と現在において、スクールカーストを知っているかどうかを「はい」「いいえ」で回答を求めた。中学生の時点で「スクールカースト」という言葉を知っていた回答者は約47%であり、回答時点で知っていた回答者は約85%であった[7]。このことから水野は、スクールカーストという言葉は少なくとも青年の中では十分認知されている言葉だと結論付けている。中学生の頃のグループ間・内の地位とそれぞれの時点での認知は有意な関連を示さなかったことから、スクールカーストの中の地位に関わらず、スクールカーストは多くの青年にとって認知されている言葉だったとしている[92]。
2016年11月に宇都宮大学の学生・平山愛理が同大学の学生206名を対象にしてアンケート調査を実施した。スクールカーストという言葉を知っているかという趣旨の設問に対し、あわせて約84%の回答者が「よく知っている」または「なんとなく知っている」と答えている[93]。
序列化の認識率
教育学者の石田靖彦は、2016年、愛知教育大学で大学生117名を対象に小学校から高校までの学級内の人間関係を回想させた上で,グループ間における非公式なステイタスの序列として定義される「スクールカースト」が存在したかを検証した。同性グループに対する序列化の認識率は,中学校でもっとも高く男子で77%,女子で87%が少しはあったと回答した。小学校でも男子で54%,女子で72%が少しはあったと回答しており,女子では小学校でもグループ間の序列化が行われていることが示された。高校では男子で67%,女子で62%で中学校よりも低下していた[94]。
序列の認識が中学校でもっとも高かった理由として、石田はいくつかの先行研究を踏まえ、児童期から青年期にかけての友人関係の発達的変化を理由として挙げた[95]。他方、中学校にくらべて高校時代で序列化の認識が低下していた理由については、石田は高校入試による選抜のため、学級内の生徒の多様性が小中学校より低いからではないかと推測した[95]。ただし、当研究の調査対象者は国立大学に所属する大学生であり、平均以上の学力を有する高校に偏っていると考えられることから、当研究の結果が他の高校に一般化できるかは疑問の余地があるとした[95]。
各階層の比率と階層決定の因子
本田は、2009年から2010年に神奈川県の公立中学校の生徒2874名に対してアンケート調査を行った。そのデータを元に分析すると、「高位・中位・低位・いじられ[注 13]」の比率が「10:60:25:5」になったという[99]。
さらに、性別・学力・生きる力(自主性・主体性・論理性)・(家庭の)経済資本・(家庭の)文化資本・クラス内友人数・(普段一緒に行動する)友人の固定性・部活動(運動系か文化系か)といった要素がカーストの位置決定にどう影響しているかをロジスティック回帰分析によって調べている。それによれば、(「中位」を基準として)「高位」に位置する典型的な生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力が高く学力も高め」、「低位」に位置する生徒像は「文化資本は豊富だが学力は低めで友人数は少なく文化部所属の男子」、「いじられ」に属する生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力と文化資本が豊富かつ学力は低めの男子」となる[100]。
また、本田はカーストが「(学校での)友人関係」「教師との関係」「将来像(進路希望)」と関係しているかどうかも調査している。友人関係について、学校生活で自分の本心に反して求められているキャラを演出したりするかという質問への肯定的な回答は、「上位」と「中位」が同程度で、それより「低位」が高く、さらにそれより「いじられ」が高くなっている[101]。教師との関係については、「上位」「いじられ」の生徒が他と比べて教師と積極的にコミュニケーションをとっている[102]。将来像については、「高位」「中位」「低位」の順に大学進学の希望率が下がる[103]。
その他
スクールカーストを扱った心理学的な研究では水野君平と太田正義による中学生を対象としたアンケート調査がある[104]。この調査による高位、中位、低位の比率はそれぞれ14.8%、48.5%、36.6%であった[104]。また、高位のグループに属する生徒は学校適応感が高いことや、その間には集団支配志向性と呼ばれる集団間の格差関係を肯定する価値観が介在していることも明らかにしている[105]。
注釈
- ^ ただし本田は、後述するアンケート調査で「いつも一緒の友だちグループ以外の人とは、特に仲良くしたいと思わない」という質問への否定的な回答が全体の3/4を超えたことを根拠として、自身の所属するグループの外へのコミュニケーション接続の志向も残ってはいることを指摘している[30]。荻上は、(インターネット環境の普及を背景として)全体としてある程度の棲み分けが進行する一方で、個人は単一の島宇宙にとどまるのではなく複数の島宇宙に帰属して常時接続することが求められるとして、これを「コミュニケーションの網状化」と呼んでいる[28]。
- ^ 精神科医の斎藤環は、若者の傾向をコミュニケーション能力は低いが自己像が安定的な「引きこもり系」とコミュニケーション能力は高いが自己像が不安定な「自分探し系」に大別した[37]。
- ^ 一般に社会で人間に対する評価指標がコミュニケーション能力・人間力といった抽象的なものにシフトしているということは、例えばハイパー・メリトクラシーという用語でも論じられている。
- ^ これらは「優しい関係」[57][58]・「マサツ回避の世代」[59]と表現されたりするもので、哲学者のアルトゥル・ショーペンハウアーの寓話であるヤマアラシのジレンマに相当するともいえる[60]。
- ^ いじめを「モラルの低下・混乱によるもの」「社会的偏見・差別による排除的なもの」「閉鎖的な集団内で発生するもの」「特定の個人への暴行・恐喝を反復するもの」の4つに分類した。詳細はいじめ#分類を参照。
- ^ これは森口の著述による。後述する本田の統計調査によれば、一緒に行動する友人の固定性が強いことはカースト上位を得ることにプラスの影響があるとされる[64]。
- ^ インターネット上ではなく現実の空間で行われるいじめのこと。
- ^ 「選抜総選挙」と呼ばれる人気投票(序列化)によって、「おっさんキャラの大島優子」「ギャルキャラの板野友美」といったキャラの分化が促進され、実質的には(個々のアイドルの身体性というより)それらキャラクター性がファンから消費の対象となっている[81]。詳細はAKB48#キャラクター消費を参照。
- ^ キャラ (コミュニケーション)#キャラとアイデンティティを参照。
- ^ 宇野常寛によると、いわゆる空気の読めない人は自己のアイデンティティを「…である」という固定的な自己像に対する承認によって獲得しようとするが、現実には「…した」という具体的な行動によって他者からの人物像が形成されるのであり、現代社会の流動性の高いコミュニティにおいてキャラクターは自身のコミュニケーションによって書き換え可能であるという[88]。
- ^ 荻上チキは、一般に個人が複数のキャラを持っており場面に応じてそのどれかひとつを決めてそれを演じる「キャラ分け」が行われているとしている[87][89]。
- ^ 例えば、中学時代にいじめられていた子供が、中学卒業・高校入学を機会にキャラを変更して(いわゆる「高校デビュー」)カーストの上昇を試みて成功したかに見えても、ひとたび過去の自分の姿を暴露されれば(抑圧が解放されれば)再びカースト最下層への転落を余儀なくされる、ということ[91]。
- ^ 「人気がある」「馬鹿にされている」という一見すると相反する評価を周囲が受けている「いじられキャラ」のことで、道化のように、からかわれる(=いじられる)ことによって人気を得ている[96]。「いじり」はコミュニケーション操作系いじめにつながりかねない否定的な側面も持っており、例えばスクールカーストものとして頻繁に引用される小説『りはめより100倍恐ろしい』のタイトルにある“りはめ”は、意味不明の単語ではなく、「いじり」は「いじめ」よりも恐ろしいという意味である[97]。森口朗は、スクールカーストを規定するコミュニケーション能力の3要素のうち、「同調力は高いが共感力と自己主張力が低い」ものがいじられキャラのポジションにおさまるとしている[98]。
出典
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- ^ キャラと部活が絡み合う"校内格差"のリアル
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