ジェットエンジン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/07 09:41 UTC 版)
原理
内燃機関としての特徴
ガスタービン型のジェットエンジンの場合、熱力学的にはブレイトンサイクルに従う。ブレイトンサイクルは断熱圧縮、吸熱・等圧膨張、断熱膨張、放熱・等圧圧縮の4プロセスからなるが、その特性から燃焼(吸熱)を行う時点の圧力が高いほど取り出せる仕事量は増大する。よってジェットエンジンでは燃焼前に空気を十分に圧縮することが重要となる。なおガスタービン以外のジェットエンジンが従う理論サイクルはブレイトンサイクルではないが、一般的に似たようなサイクルであり、やはり圧縮の方式が成否を分ける。
レシプロエンジンでは爆燃が間欠的に行われるが、ジェットエンジンでは(パルスジェットを除いて)燃焼は連続的に行われる。まず、吸入口から取り込まれた空気は圧縮機によって大気圧の数十倍(現行のエンジンでは約30倍)まで圧縮される。圧縮された空気は燃焼室内において燃料と混合・燃焼されて高温・高圧の燃焼ガスとなる。燃焼ガスはエンジンから排出される前にタービンを回転させる。タービンの回転は圧縮機へ伝わり、連続的に空気を吸入・圧縮するための動力になる。燃焼ガスはそのまま推力となるか、タービンもしくはその後段に設置された追加タービン(フリータービンとも)を回転させ軸出力として取り出される。なお、ブレイトンサイクルの吸熱・等圧膨張過程は燃焼室内での燃焼に対応し、断熱膨張過程はタービンおよび排気口におけるガスの膨張に対応している。
推進力を得る仕組
ジェット推進もプロペラ推進と同様に空気の運動量を変化させたことによる反作用として機体を前進させる。ジェットエンジンあるいはプロペラ回転面を仮想的な円盤と仮定した、単純化したモデルを考えてみる。この円盤を通過する流体によって得られる推力 T は、その大きさが空気に与えられる運動量変化(力積)を単位時間当たりにしたものの大きさに等しく、またその向きは正反対となる。このため、当該円盤が吸いこんだ空気の質量(質量流量)を単位時間あたり 、円盤への流入空気速度(≒飛行速度)を V、円盤から十分離れた下流における気体の排出速度を V∞ とすると、推力 T は次のように書ける[注釈 2]。
プロペラ推進では主に質量流量 を大きくすることで推力を発生させる。すなわちプロペラを大型化したりブレード数を増やしたりして推力 T の増強を図る。これは、プロペラブレードと機速の合成速度が音速を超えると衝撃波が発生することで効率が著しく落ちるためである。その結果、通常のプロペラを装備した機体の速度は 700–800 km/h が上限となる。これに対し、上式で気流速度差 V∞ − V を大きくする(排気流を高速にする)ことでも T を増すことが可能であり、これに基づいて考案されたのがジェット推進である。ジェット推進でも回転物体(圧縮機やタービン)は存在するが、ダクトやブレードの形状を工夫することで衝撃波が抑えられるのでプロペラ推進の場合に生じかねない衝撃波による悪影響を防ぐことができ、実際にその発想がブレークスルーとなった。
ちなみに、機速 V が増加すると次第に V∞ − V が小さくなっていくが、その一方で流入する質量流量(単位時間あたりに流入する空気の質量) が増加するので、V∞ − V が極端に小さくない限り、互いの効果が相殺されて推力 T はほぼ一定に保たれる(この点は機速によらずほぼ一定出力 P を仮定するレシプロエンジンと異なる)。
なお、効率面で補足すると、ジェット推進では気体に与えられる運動エネルギーの割合が大きくなり、パワーロスは一般的に大きくなる。ここで、推進効率[注釈 3]は、プロペラ推進ではプロペラ効率とも呼ばれ、設計の指針とされるパラメータである。このパラメータは特に出力が限られたレシプロ機では重要視されたが、ジェット推進で同様の効率を計算するとプロペラ推進の場合より低くなりがちである。ただし、V∞ − V が小さくなるほど気体に与えられる運動エネルギーの割合が低下して推進効率が増加するので、一般的にジェット機(特にターボジェット)は高速時のほうが燃費が良い。この観点では、それほど高速を必要としない用途には、純粋なターボジェットは排気速度が高すぎるともいえ、効率の改善を図るために、現代のほとんどの航空機用エンジンでは、ターボプロップやターボファンのようにプロペラやファンを採用し、排気速度を高めすぎずに質量流量 を増大させる手法も併用されている。
実際のジェットエンジンの出力
ピストンエンジンやエンジン構造がジェットエンジンとほぼ同じターボプロップ・エンジン、ターボシャフト・エンジンなどは、出力を軸出力で取り出すため、出力の単位は軸馬力(SHP)が使用されるが、ジェットエンジンの出力の単位はスラスト(推力)で表され、単位は重量ポンド(lbf)または重量キログラム(kgf)またはニュートン(N)で表され、ジェットエンジンが発生する有効なスラストを正味スラスト Fn(kgf または lbf)と言う。また、航空機では正味スラストの測定が困難であるため、タービン出口の全圧と圧縮機入口の全圧との比で、正味スラストとほぼ直線的に比例するEPR(エンジン圧力比)を使用しており、操縦室の計器盤にその値を表示することで、正味スラストの値がほぼ分かるようになっている。
正味スラスト Fn は、以下のようになる。
- ターボジェットエンジンの場合
ここで、
- Wa は吸入空気流量(kg/s または lb/s)
- Wf は燃料流量(kg/s または lb/s)
- g は重力加速度(9.8 m/s2 または 32.2 ft/s2)
- Va は飛行速度(m/sまたはft/s)
- Vj は排気ガス速度(m/s または ft/s)
- Aj は(ジェット・エンジン出口面積(ft2 または m2)
- Pam は大気圧(kgf/m2 または lbf/ft2)
- Psj はジェット・ノズル出口静圧(kgf/m2 または lbf/ft2)
である。
- ターボファンエンジンの場合
ここで、
- Wf はエンジン本体に流入する燃料流量(kg/sまたは lb/s)
- Wfp はエンジン本体に流入する1次空気流量(kg/sまたは lb/s)
- Vjp はエンジン本体から排出される1次空気排気速度(m/s または ft/s)
- Waf はファンに流入する2次空気流量(kg/s または lb/s)
- Vjf はファンから排出される2次空気排気速度(m/s または ft/s)
である。
注釈
- ^ ジェットエンジンが実用化される前の未熟な時代には、様々な呼称や代替構成要素の実験機が用いられ、例えば、モータージェット機カプロニ・カンピーニ N.1はカンピーニロケットとも呼ばれ、戦前の日本の研究機関では現在で言うところのジェット推進のことをロケット推進と言われた。
- ^ この場合、燃料の質量は空気の質量に比べ小さいと仮定し、無視している。
- ^ 推進効率 ηは、最終的に機体の推進に使われた仕事率 TV と、エンジンが発生する出力 P との比で表され、
- ^ アニュラ型の燃焼缶は厳密には内外2枚のライナの前部はカウルと呼ばれる覆いになっている。
- ^ アフターバーナーとはもともとゼネラル・エレクトリックでの呼称で、特許や商標としての競合を避けるためにロールス・ロイスではリヒート、プラット・アンド・ホイットニーではオーギュメンターという名称が使用されている。
- ^ レシプロ機関と異なりジェットエンジンでは、吸い込んだ空気の25%程しか酸素を利用していないため、排気中には75%ほどが残っている。
- ^ デフューザーによってガスの流速を落とす。ノズル内にはフレームホルダーも備える。アフターバーナーを使用しない間は、ノズルは排気ダクトとして働く。
- ^ 「逆噴射装置」とも呼ばれるが、エンジン内の圧縮機とタービンが逆回転して吸気口と排気口が入れ替わるわけではない。
出典
- ^ 佐藤 2005, pp. 190, 192
- ^ ASCII.jp:JALのジェットエンジン整備はミリ単位の繊細な作業だった!
- ^ 佐藤 2005, p. 189
- ^ 佐藤 2005, p. 190
- ^ a b c d e 見森昭編 『タービン・エンジン』 社団法人日本航空技術協会、2008年3月1日第1版第1刷発行、ISBN 9784902151329
- ^ a b c 佐藤 2005, p. 202
- ^ 松岡増二著 『新航空工学講座8 ジェット・エンジン(構造編)』 日本航空技術協会 ISBN 4-930858-48-8
- ^ JAL - 航空豆知識
- ^ 佐藤 2005, p. 191
- ^ a b 佐藤 2005, p. 196
- ^ 齊藤喜夫, 遠藤征紀, 松田幸雄, 杉山七契, 菅原昇, 山本一臣「コア分離型ターボファン・エンジン」『航空宇宙技術研究所報告』TR-1289、航空宇宙技術研究所、1996年4月、1-7頁、CRID 1523388080992312960、ISSN 0389-4010。
- ^ 佐藤 2005, p. 215
- ^ The heart of the SR-71 "Blackbird" : The mighty J-58 engine
- ^ Pratt & Whitney J58 Turbojet
- ^ 佐藤 2005, p. 216
ジェットエンジンと同じ種類の言葉
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