シャーロック ホームズ (人形劇)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/18 13:53 UTC 版)
製作
製作にいたるまで
脚本担当の三谷幸喜は、大変なホームズファンである。また三谷は番組記者会見で、ホームズはミステリーではなくアドベンチャーであると述べている[8]。元々、三谷は『カラマーゾフの兄弟』を人形劇化したいと考えており、ホームズの人形劇化には反対であった。ゲストが出るたびに新しい人形を作る必要があること、推理の決め手となる細かい部分が、人形劇では描きにくいことがその理由だった。また、シドニー・パジェットの挿絵を人形化しようとしたが、ホームズが長身であるため、操作が難しいので見送られた[9]。
他にも、既にドラマ『シャーロック』でブームが再燃していたこと[1]、ジェレミー・ブレット主演の『シャーロック・ホームズの冒険』もあったこと[9]から、二番煎じを避けるため、原作のよさを取り入れつつ、学園物として制作することになった。対象年齢は10代前半、そして、かつてテレビの人形劇を観て育ったその親の年齢層である[1]。学校が舞台ということで、それまでの回の依頼人や犯人も再登場し、レギュラーが増えて楽しくなるという設定になっており、本来殺人事件でなければ成り立たないはずの原作を、学園物に置き換えるのが楽しかったと語っている[9]。また、なぜ舞台を学校に設定したのかについては、回を追っていく中でわかって来ること、そして『緋色の研究』、『四つの署名』、『バスカヴィル家の犬』そして『恐怖の谷』の四大長編をすべて映像化した、恐らく初めての作品であろうといったことも述べている[10][注釈 2]。
三谷自身は、「これを楽しめなければシャーロッキアンではないと思う」と語っている[1]。この発言には批判があったが、三谷自身によれば、ホームズのシリーズは二次創作のしがいがある作品であり、その二次創作を受け入れるには遊び心が大事であるということ、つまりシャーロッキアンであるのならば、学園物という二次創作もまた、受け入れるだけの遊び心を持ってほしいという意味であったとしている[9]。
脚本の特徴
ストーリーの最大の特徴は殺人が起きないことである。また、事件解決後も犯人や依頼人、そして被害者が残って、その後の物語にも顔をのぞかせるという設定になっている。三谷自身は、このドラマを冒険物語と位置付けており、殺人こそ起きないものの、妬み、不倫、詐欺などの悪事を登場させ、子供たちに人間の負の部分もきちんと見せるようにしている。またそれとは別に、個性の尊重や友情の大切さなどの教育的側面も重視している[1]。
三谷はワトソンの描き方にも気を配っていて、ホームズにない人間としての温かさ、熱さを描いたとも語っている[注釈 3]。三谷によれば、従来、漫才でのボケ役のような所があったワトソンだが、『シャーロック・ホームズの冒険』以後、ホームズとは違った人格の持ち主としてきちんと描かれるようになった。また、『シャーロック』のジョン・ワトソン役のマーティン・フリーマンを高く評価している。フリーマンは三谷原作の『笑の大学』がイギリスで上演された際に出演しているが、三谷は、彼はむしろワトソンというよりホームズ的な雰囲気であるとも言っている[9]。
人形製作とセット
パペットデザインと人形美術監修の井上文太は、同じ記者会見で、人形の造形に気を配ったと明かしており[8]、ホームズは、広い額と大きな耳で知的で好奇心旺盛なイメージを出し、三谷の意向も受けて、ぷるんととがった鼻をつけている[1][注釈 4]。これは、原作のホームズがそうであるように、鼻に特徴を持たせたいという意図で実現された[9]。三谷はまた、脚本を出す時に、当て書きのような形でイメージキャストを出している。たとえば、『バスカヴィル家の犬』の場合は、ヘンリー・バスカヴィルがウィリアム王子、ステープルトンがウディ・アレンのイメージといった具合にである[9]。
また井上は、今回の人形の造形に当たり、子供が落書きできるようなイメージでデザインしたと語っている[11]。井上は「GTFスマイルチャレンジin江戸川2014」で、この作品と『新・三銃士』を対象としたイラストコンテストの審査員を務めている[12]。顔は基本的に無表情で、演出は能や文楽のように照明によって行われる。髪の毛は、男性の場合はワトソンを除いて、メリーゴーランドのようなポップな塗装である[11]。一方女性の人形の髪は、和服に使う絞りを用いている[13]。
セットはドールハウスをイメージしており、特に学校の回廊は、コッツウォルズ地方の修道院の回廊をモチーフとしている。それ以外にも、シャーロック・ホームズ博物館の窓のステンドグラスや、ロンドン市内の駅舎などもセットに応用されている。また、『シャーロック・ホームズ』というイギリスの作品を日本人が手掛ける以上、日本らしさがあっていいという発想から、セットの植物や小道具には、和紙が多用されており、それ以外にも寒冷紗や不織布が用いられていて、自然な風合いを醸し出している[14]。
ビートン校にはアーチャー、ベイカー、クーパー、ディーラーの4つの寮があるという設定で、それぞれのシンボルカラーは臙脂、紺、緑そして灰色である。生徒たちの制服の色はこのシンボルカラーにちなんでおり[15]、ホームズの着ている制服も紺色で、左胸に懐中時計とコンパスをぶら下げている。井上のデザイン原画では、ホームズはどくろの頭がついたステッキを持っており、靴底には『踊る人形』の人形を使って"Sherlock Holmes"と刻んである[16]。ただワトソンは転校生であるため、前の学校の薄茶色の制服を着ている[17]。
声優
また声優選びに関しては、少年といってもひとくせあるキャラクターで、それなりの演技力を必要とするため、山寺宏一にオファーを出した。山寺は、自身の年齢から15歳の役は無理と伝えたため、まずオーディションを行い、何通りかの声を試してみた。その時、三谷が出した「人の目を見てしゃべれない少年のイメージ」の条件に、山寺の声が合致し、彼がホームズの声を担当することになった[9]。また、三谷は山寺について「ナイーブで、繊細で、当然少年という役を、ナイーブでも少年でもない人が演じて、あれだけぴったりはまるのはすごい」と言っている[注釈 3]。ちなみに、ホームズ、ワトソン、そしてモリアーティを演じる山寺、高木渉[注釈 5]、江原正士は、『新・三銃士』でそれぞれ三銃士のアトス、ポルトス、アラミスの声を担当している。その他にも『新・三銃士』で主人公・ダルタニアンの声を担当した池松壮亮はステイプルトン役、ミレディの声を担当した戸田恵子はクライン役、アンヌ王妃の声を担当した瀬戸カトリーヌはサザーランド役でゲスト出演している。
番組中でハドソン夫人が口ずさむメロディーは、番組オリジナルである[7]。番組の製作方法としては、先にセリフを収録し、それに合わせて人形を動かすプレスコの手法が取り入れられている[9]。番組のオープニングのタイトルバックは、CGによるマッピングを駆使しており、『踊る人形』の棒人間が描き出される。
随所にみられる「遊び」
前作の『新・三銃士』もそうだったが、この作品も、第8話と第9話の「愉快な四人組の冒険」がミュージカル仕立てであったり、第11話の「まだらの紐の冒険」に登場する沼毒蛇の斑点が、原作の一部である『まだらの紐』の、ホームズとロイロットの会話に登場するクロッカスを模したものであったりと、随所に遊びが採り入れられている[19]。また、校長室の壁に『新・三銃士』のバッキンガム公・アラミス・ポルトスの絵が飾られていたり、美術室に三銃士やオレイリーをかたどった胸像が置いてあるなど、前作ともリンクしている部分がみられる。
- ^ ただし2014年12月28日放送の「シャーロックホームズ賞(アワード)」のみ、年末年始にかかったため、2015年1月3日の午後0時30分より再放送。
- ^ 四大長編をすべて映像化したシリーズとしては『シャーロック』がある
- ^ a b 本編放送前の番組冒頭部分で言及。
- ^ 井上と三谷は、新・三銃士でも共に仕事をしている[8]。
- ^ 高木はこの出演がもとで、ディレクターの吉川邦夫から大河ドラマ『真田丸』の出演オファーを受け、同番組に小山田茂誠の役で出演している[18]。
- ^ ダニエル・ハーディングは、大のホームズファンである。
- ^ 当初は8月20日 19:30 - 19:55に放送する予定だったが、『NHKニュース7』が広島県広島市北部の土砂災害関連のニュースを中心に放送、20:00まで放送されたため、21日の19:30 - 19:55に改めて放送となった。
- ^ a b 当初は8月21日 19:30 - 19:55に放送する予定だったが、広島県広島市北部の土砂災害関連のニュースのため、22日 20:15 - 20:35放送に変更された。しかし、22日に『NHKスペシャル 緊急報告 広島 同時多発土砂災害』が緊急放送されたため、23日 17:22 - 17:42に改めて放送となった。9月27日に再放送された。
- ^ この中で、おたまじゃくし絵画コンクールは、ビートン校創設者のパーシー・フェルプス卿の、子供時代のあだ名のおたまじゃくしにちなむ物と言われている。ちなみに原作『海軍条約文書事件』では、パーシー・フェルプスはワトソンの旧友で事件の当事者であり、学生時代のあだ名がおたまじゃくしであった。
- ^ この回は、シリーズで唯一ビートン校外での事件が扱われる。校内では名探偵として名を馳せるホームズも、本物の警察は相手にしてくれず、モリアーティ教頭から、学校の外ではお前はただの生意気な小僧であり、己の小ささを思い知れと叱責される。
- ^ 番組中、三谷は犬のトビィのパペットについて、自分が以前飼っていたラブラドールレトリバーのとびを参考に作ってもらったこと、また、とびの名前はこのトビィにちなんだことを語った。また、「ダグラスさんのお屋敷の冒険」で、声優として出演することも明らかになった。
- ^ a b c d e f 三谷幸喜版ホームズ…殺人のない学園人形劇に:ニュース:エンタメ:YOMIURI ONLINE(読売新聞)
- ^ a b c d シャーロック学園
- ^ シャーロック学園フェイスブック
- ^ a b c d e シャーロックホームズ|NHKオンライン
- ^ 岡崎 & 藤田 2015, p. 95.
- ^ NHK番組『シャーロックホームズ』オフィシャルショップ∞SUZURI
- ^ a b NHKの問い合わせへの回答[信頼性要検証]。
- ^ a b c NHKパペット・エンターテインメント「シャーロック ホームズ」取材会|コレ見て!ムービー|NHKオンライン#1005[リンク切れ]
- ^ a b c d e f g h i 「シャーロック・ホームズはどんな少年だったか?『物語としての面白さ』と出会う」、『ユリイカ』、青土社、2014年8月増刊、148-154頁。
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 24.
- ^ a b 岡崎 & 藤田 2014, p. 52
- ^ a b 三世代イラストコンテスト-GTFスマイルチャレンジin江戸川
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 63.
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 58-63.
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 15.
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 51.
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 53.
- ^ 特集 閑話休題 別冊!インタビュー ~小山田茂誠 役 高木渉さん~ (真田丸公式サイト)
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 53、90.
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 30.
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 29.
- ^ 岡崎 & 藤田 2014, p. 89.
- ^ ゲストプロフィール
- ^ NHKパペットエンターテインメント シャーロックホームズ展
- ^ 井上文太ツイート
- ^ シャーロック学園公式ツイート
- ^ シャーロック学園ツイート
- ^ VISUAL -映像-|PONY CANYON ポニーキャニオン - シャーロックホームズ(1):DVD
- ^ 小学館 シャーロックホームズ 冒険ファンブック
- ^ シャーロックホームズ 完全メモリアルブック
- ^ NHKシャーロックホームズ 推理クイズブック
- ^ NHK シャーロックホームズ フィギュアコレクション
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