ケカビ目 ケカビ目の概要

ケカビ目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 06:45 UTC 版)

ケカビ目
ケカビの1種・Mucor sp.
分類(目以上はHibbett et al. 2007)
: 菌界 Fungi
: ケカビ門 Mucoromycota
亜門 : ケカビ亜門 Mucoromycotina
: ケカビ目 Mucorales

本文参照

概説

ケカビ目は、かつて接合菌門接合菌綱に含めたものの中で、最も普通に見られる菌群である。ケカビクモノスカビなど、身近に出現するいくつかのカビ類を含む。比較的大柄なものが多く、肉眼でも胞子のう柄の数が数えられるくらい(数える気にはならないが)で、背丈も5mm以上になるものが少なくない。アオカビなど不完全菌類のカビの多くは外生胞子を表面に出すので粉っぽく見えるが、この類のカビは内生胞子を作り、菌糸が太いので、より湿った感じに見える。

多核体でよく発達した菌糸体を作り、無性生殖は胞子嚢胞子、あるいは胞子嚢に由来する構造を散布体とし、有性生殖は配偶子嚢接合によって形成される接合胞子による。 多くは腐生菌で土壌や糞に生活し、菌寄生菌や植物寄生性のものもある。一部に病原性のものもあり、それによる症状はムコール症と言われる。発酵食品に利用される例もある。

形態

よく発達した菌糸体を持つ。菌糸体を構成する菌糸は隔壁のない、太い菌糸からなる多核体である。ただし古い部分では隔壁ができる場合もあり、胞子のうの下の部分など、規則的に隔壁を生じる場合もある。菌糸は基質の中、あるいは表面を這って分枝し、所々でさらに細く分枝した仮根状菌糸となる。菌糸の一部が基質表面から離れ、空気中へ伸びる場合もあり、これを気中菌糸という[1]

ごく一部に、条件によっては酵母状になる場合があるものが知られているが、長くその状態で生活するものは知られていない[2]

無性生殖

無性生殖として胞子嚢を形成するのがこの類の本来の特徴であると考えられている[3]。胞子嚢は、基質上の菌糸から、あるいは気中菌糸から伸びた枝である胞子のう柄の先端の膨らみとして形成され、その内部が細胞に分かれて胞子のう胞子となる。胞子のう胞子は、胞子のう壁が溶けたり割れたりすることで散布される。ミズタマカビ類では、胞子嚢壁は分解せず、その中に胞子を含んだまま、その基部から分離する。

多くのもので胞子嚢の中心部が胞子とならず、胞子のう柄の延長部として残る。これを柱軸(ちゅうじく)という。胞子が散布された後は、胞子嚢柄の先端に小さい球形の袋のような形で柱軸が残る。また、柱軸の延長が胞子嚢に流れる形で、胞子嚢直下の胞子のう柄が膨らんでいる場合、これをアポフィシスという。かつてこの類に含めたクサレケカビ科のものは柱軸のない胞子のうを形成する。しかし、現在ではこの類は別の系統に属すると考えられており、柱軸を有することは、この類の特徴の一つと考えられている。

胞子のうのみを形成するものも多いが、外見的に大きく異なるものを形成する例も多い。その多くはより特殊化した胞子のうの派生物と考えられている。

  • 小胞子のうエダケカビなどに見られるもので、胞子のうが数個の胞子を含む程度に小さくなり、胞子のう全体が基部ではずれて散布体として機能するもの。多くの場合、独特の形に分枝した小胞子のう柄の枝先につく。
  • 単胞子性小胞子のう:クスダマカビなど。小胞子のうに胞子が1つしか含まれないもの。多くは胞子嚢から胞子が放出されず、そのまま発芽する。分生子との判別が難しく、かつては分生子と見なされたこともある。
  • 分節胞子嚢ハリサシカビモドキに見られる。胞子のうは細長く、内部の胞子は1列に形成される。胞子は胞子のう壁が壊れるのではなく、胞子のう壁ごと胞子1つ分ずつに分かれる。

これらのいくつかを同時に形成するものや、あるいは条件によって異なるものを形成するものも知られている。

他に、菌糸に厚膜胞子を形成する場合がある。

有性生殖

有性生殖は、配偶子嚢接合による接合胞子嚢の形成によって行われる[4]。多くのものは自家不和合性であるため、接合胞子の形成は、好適な株同士が出会った場合にのみ生じる。自家和合性のものも知られている。

好適な2つの菌糸が近づいた場合、両者から枝が伸び、先端が膨らんで配偶子のうとなり、それらが接合すると、その両方の先端の一部が癒合して一つの細胞となり、膨らんで接合胞子のうとなる。接合胞子のうは厚壁になり、表面に凹凸を持って黒っぽく着色するものが多い。その内部には1個の大きな接合胞子が形成される。接合胞子のうは休眠にはいるが、発芽する場合、壁が割れて出てくる菌糸はすぐに胞子のうを形成する。

接合胞子には、両菌糸より複数の核が入る。接合胞子内ではそれらの核が2つずつ融合の後、減数分裂をおこない、発芽時には単相の核が残っていることになる。菌糸体の核相は、したがって単相である。減数分裂後の核は、ただ1個を残して残りが退化するものもあれば、複数が残存する例もある。接合する配偶子嚢は、両者に大きさや形の区別がない場合が多いが、大小の分化が生じているものもある。

両者の菌糸と配偶子嚢、それに接合胞子嚢の位置関係には、大きく二つの形がある。ケカビなどでは両菌糸間の接合胞子のうは、接合胞子支持柄に両側から挟まれ、全体としてはH字型となるが、ヒゲカビなどでは接合が行われる前に、配偶子のうを形成する菌糸がまず接触点を持ち、そこからもう一度離れてすぐに、再び大きく曲がり込んで互いに接触、接合を行う。完成した接合胞子のう支持柄は、まるで鋏式の釘抜きかやっとこで接合胞子のうを挟んだ形になる。

また、ユミケカビやヒゲカビでは接合胞子のう支持柄から多数の棘状突起を生じて接合胞子のうを囲むことが知られている。

栄養生活

多くのケカビ目は腐生菌である。家屋内の食品などに発生するものとしては、ケカビクモノスカビが普通である。空中雑菌として出現するものには、このほかにクスダマカビハリサシカビモドキがある。ヒゲカビも時に食品工場などに出現してヒトを驚かせる。より多くのケカビ類は、自然界のさまざまな有機物塊、土壌・植物遺体・などに出現する。特に草食ほ乳類の糞は、多くの種を観察できる良い試料として知られる。そのようなものに広く出現するものは、特に決まった基質に出現する嗜好性は少ないものと見られる。

ケカビ類は一般に成長が早く、胞子形成を始めるのも速い。他方で、キノコ類などより高等な菌類に見られるような、セルロースなど分解困難な成分を分解する能力に乏しく、糖分など分解しやすい成分を主として利用するので、Sugar Fungiなどと呼ばれることもある。糞生菌や落葉状の菌相の遷移を見た場合、ケカビ類はそのごく初期、せいぜい1週間以内程度に出現すると、その後は出なくなる種が多い。おそらく、分解吸収のしやすい成分を素早く吸収して成長し、素早く胞子形成を終えると、以降は成育できにくくなるものと考えられている。

より基質の嗜好性の高いものとしては、草食ほ乳類の糞にもっぱら出現するミズタマカビヒゲカビ、特定の植物の果実に出現するコウガイケカビ、限られたキノコに出るタケハリカビフタマタケカビなどがある。最後の例は菌寄生菌である。他に、寄生性があるものにケカビに近い姿のパラシテラ ParasitellaやイトエダカビChaetocladiumなどがあり、これらはいずれもケカビ類を宿主としている。なお、トリモチカビ目ディマルガリス目のものにも菌寄生菌があり、それらは宿主の菌糸内に吸器を侵入させるが、本目の菌寄生菌はそのようなものを形成しない。ただし、接触部が膨大したゴールを形成するものはある。

ほとんどのものが培地上での培養が可能で、一般的な菌類用培地でよく成育するものが多い。寄生性のものも、ケカビ目のものは大抵培地上で純粋培養が可能で、そこそこは成長するので、条件的寄生菌と言われる。普通はジャガイモデキストロース寒天培地(PDA)、麦芽エキス寒天培地(MA)などが使用される。人工培地としては合成ムコール寒天培地(SMA)というのが考案されている。ミズタマカビなど糞生菌では糞に含まれる特殊な成分を要求するものも知られている。


  1. ^ Alexopoulos et al.(1996),p.133-134
  2. ^ Alexopoulos et al.(1996),p.134
  3. ^ この項はAlexopoulos et al.(1996),p.134-135
  4. ^ この項はAlexopoulos et al.(1996),p.135-141
  5. ^ White et al.(2006)


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