キノクニスゲ キノクニスゲの概要

キノクニスゲ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/02 06:23 UTC 版)

キノクニスゲ
キノクニスゲ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
階級なし : ツユクサ類 commelinids
: イネ目 Poales
: カヤツリグサ科 Cyperaceae
: スゲ属 Carex
: キノクニスゲ C. matsumurae
学名
Carex matsumurae Franch.

特徴

常緑性多年生草本[1]根茎は短く、大きな株立ちになる。匍匐枝は出さない。は深緑でざらつかず、厚手で滑らかで花茎より高くなる。葉幅は5-15mm。新しい芽は最初は葉のみをつけ(無花茎)、次の年にはその中央からまた葉のみを出す、つまり新しい無花茎が出る。基部の鞘は淡い色で脈が褐色を帯び、古くなると繊維に分解する。冬に花序が芽を出す頃には根元には黒褐色の繊維があり、5月頃にはなくなる[2]

花茎(有花茎)は前年の無花茎の葉腋から出る。花茎の高さは30-50cm、茎はやや太めでざらつかない。花序は頂小穂が雄性で、側小穂は3-4個あってすべて雌性で、ただしその先端に短い雄花部を持つ場合がある。苞には鞘があり、葉身部は下方のものは小穂より長く伸びるが、上のものほど短くて小穂の先端にとどかなくなる。頂生の雄小穂は長さ3-6cm。長楕円形で太く、柄があって抜き出て、その柄の長さは1.5-3cmに達する[3]。雄花鱗片は淡褐色で先端は鋭く尖る[3]。側小穂は円柱形で長さ2-4cm、直立する。柄があって下方のものは3.5cmに達するものもあるが、上方のものほど短くて0.5cm程度のものもあり、最上位のものは柄がない場合が多い[3]。雌花鱗片は緑白色で卵形、先端部は短く突き出し、その先端は尖っている。果胞は鱗片より長くて長さ3.5-4.5mm、幅1.5-2mm、長卵形で毛がなく、先端は急に細間って短い嘴となり、先端は平らか少し凹んでいる。果胞には脈があり、その質は厚いが柔らかく、また全体に緑だが下半分が白みを帯びる[3]。果実は楕円形で断面は両凸型、長さは2-2.5mmで先端には環状の付属体があり、その基部は短い柄状になっている。柱頭は2つに裂けるが、ごくまれに3つに裂けるものがある。

名称について

和名は「紀の国スゲ」で紀伊半島で最初に発見されたことにより、別名にキシュウスゲ、クロシマスゲがある[3]。宇井(1929)はその和名をキシウスゲ(ママ)とし、別名でキノクニスゲを取り上げているが、この植物は松村任三和歌山県古座町(旧)九龍島(くろしま)で発見したもので、キシウスゲの名は牧野富太郎が命名した、とある[4]

分布

日本では本州の太平洋岸では三河湾、日本海側では北陸地方より南西部、それから四国九州トカラ列島伊豆諸島利島に分布し、国外では朝鮮済州島鬱陵島から知られている[5]。これらの地域で、本種はどこにでもあるわけではなく、分布は極めて局在しており、特に沿岸の離島、それも小さな島に見られることが多く、分布のある離島の対岸であっても本土側では生育が見られない例が多い[6]。例えば最初の発見地であり、名の由来でもある和歌山県の場合、最初の発見地古座九龍島のほかの産地として宇井(1929)は田辺湾神島みなべ町の鹿島をあげているが、少し下って坂口(1937)にはこのほかに衣奈黒島(由良町)だけが追加されている[7]。そして現在でも和歌山県(2012)では上記の4市町のみしか記されていない[8]

これに関する議論

上記のように本種は分布域の限られた稀少な種であり、それに関してはいくつかの議論がなされてきた。特に分布域において島嶼にその生育地が集中していることは注意を引いた。例えば中西(2007)では長崎県での新産地発見に関して本県での分布地が合計9カ所となったこと、その内訳が無人島6,有人島2、陸繋島1であることを記している。さらに中西(2010)は面積が1平方㎞以下の島嶼に偏って分布する植物を島嶼偏在植物と定義し、本種をその代表的なものとして取り上げた。それによると、本種が本州中部まで分布するのはその中では例外的で、それ以外のものはより南に分布があってこの地域が北限に当たることから、島嶼は周囲を海に囲まれた小さな陸地であり、冬季に温度低下が少ないことがこのような分布の原因であり、これに加えてそこに成立する森林が原生的ではないにしろ人手がさほど入らないこと、と同時に台風等の影響を受けやすいことから極相状態が破壊されていることなどが原因であると推定している[9]。このような分布は九州に限らず、近畿地方でも簡単に行き着けない島や岬に多いとの報告があり、九州でのさらに詳しい調査では、本種の分布するのは面積1平方km以下の島が55.8%、10平方km以下で79.8%にも達する[6]


  1. ^ 以下、主として勝山(2015),p.178
  2. ^ 牧野原著(2017),p.357
  3. ^ a b c d e f 星野他(2011),p.248
  4. ^ 宇井(1929),p.254
  5. ^ a b 勝山(2015),p.178
  6. ^ a b 中西(2011)
  7. ^ 坂口(1937),p.209
  8. ^ 和歌山県(2012),p.318
  9. ^ 中西(2010)
  10. ^ a b c 以下、主として中西(2011)
  11. ^ 勝山(2015),p.14
  12. ^ 勝山(2015),p.160
  13. ^ 日本のレッドデータ検索システム[1]2019/01/26閲覧
  14. ^ 三重県レッドデータブック2005,p.278


「キノクニスゲ」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「キノクニスゲ」の関連用語

キノクニスゲのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



キノクニスゲのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのキノクニスゲ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS