キノクニスゲ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/02 06:23 UTC 版)
生育環境
本種は海岸近くにのみ生育地があるが、これは海岸性であることを意味しない[10]。たとえばヒゲスゲ C. boottiana は海岸性の比較的大柄なスゲとして知られ、海岸の岩の上や砂地に生育し、時に本種と隣接し、あるいは混成して見られる。しかし本種の方は森林の林縁まで見られることがあっても、決して海岸にある森林性の樹木の入らない草本群落に出現することはない。本種は照葉樹林の構成種の1つと見ることが出来、特にタブノキを中心とする森林の林床に出現するものである。
さらにその生育環境を詳細に見ると、平坦な落葉層の豊富な場所にはあまり生育がなく、傾斜があって土壌が露出したような場所に多く、特に小型の株や幼い個体はそのような場所で多く見られるという。これは種子が定着するには落ち葉が堆積していないことが必要とされている為ではないかと考えられる。
このようなことから中西(2011)は本種が小さな島嶼や岬にのみ本種が見られる理由を、以下のように考えている。
- まず本種がタブ林に生育すること、特に海岸近くの、やや傾斜のある場所の森林であることが必要であること。
- 他方でタブ林は海岸近くの平野部に成立するものであり、このような環境は人為的な開発が多く進み、本土部分や大きな有人島ではほとんど残っておらず、岬や小さな島に残されていること。
- 従って、おそらくかつては本種は本土や現在の有人島においても海岸近くの丘陵に生育していたものが、開発によってそのような場所から姿を消し、小さな島や岬にのみ残された。
種子散布に関して
本種を含むスゲ属の植物では種子(本当は痩果)は果胞という袋状の構造に包まれ、その形で散布される。水辺に生育する種には果胞が水流散布に適応していると思われるものもあり、例えばシオクグなど海岸性の種には果胞がコルク質になり、浮きやすくなっていると考えられるものがある[11]。本種は海岸近くに出現するものではあるが、海流分散は行わないと思われる[10]。実験的に海水に投入した場合、採集した直後のものでは1日でほとんど、2日目ですべてが沈んだ。乾燥させた後のものは1日ですべて沈んだ。本種は海岸近くに出現するものではあるが、実験的に海水に投入した場合、採集した直後のものでは1日でほとんど、2日目ですべてが沈み、乾燥させた後のものは1日ですべて沈んだとのことで、海流分散は行わないと思われる[10]。
種子散布は主としてアリによる運搬が大きく関わると思われ、生育地で種子を地上に置いた場合、すぐにアリに運ばれる。長崎県の観察ではアミメアリ、アシナガアリ、トビイロケアリが種子を運ぶのが確認された。本種の果胞は柔らかくなっており、上半は緑で、下方は白っぽくなっているが、アリは必ずこの白く柔らかい部分を顎でくわえて運ぶという。つまり果胞が白く柔らかくなっているのはエライオソームに相当すると判断できる。
分類など
勝山(2005)は本種をヒエスゲ節 Sect. Rhomboidales に含めていたが、勝山(2015)はこれをあらためてヌカスゲ節 Sect. Mitratae に移しており、その理由として果胞や果実の形態などがむしろこの節の特徴に適合することをあげている[12]。
外見的な面で言えばヌカスゲ節にはカンスゲ類やホンモンジスゲ類、アオスゲ類など非常に多くの種が含まれている。カンスゲ等大柄な種は本種と比較的似ている。ヒエスゲ節の種は果胞が大きくて長い嘴があるのを特徴としており、また1つの小穂につく果胞の数がさほど多くないものが多く、本種と紛らわしいものはない。
似た姿の種は多いが、類似の他種があまり出現しない特殊な環境にあること、それに雌小穂に果胞が密生して付き、それが白っぽくなるのが他種と判別できる特徴になる[3]。
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