イノベーション イノベーションの概要

イノベーション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/06 00:03 UTC 版)

語源

英語の「innovation」は動詞「innovate」(革新する・刷新する)に名詞語尾「-ation」が付いたもので、「innovate」はラテン語の動詞「innovare」(リニューアルする)の完了分詞形「innovatus」(リニューアルされたもの)から由来している。更に、「innovare」は「in-」(「内部へ」の方向を示す接頭辞)と動詞「novare」(新しくする)に分解される。動詞「novare」は形容詞の「novus」(新しい)から由来している。

「innovation」という語自体の用例は1440年から存在するラテン語あるいはイタリア語の名詞である(シュンペーターは複数のヨーロッパ言語に堪能だった)。

なお、「innovation」の訳語として日本語でよく使われる「技術革新」は、より近い意味の英語で「technical innovation」あるいは「technological innovation」と言う[2]のが相応しく、誤訳とされることも多い。

定義

イノベーションに関する文献の調査では、多種多様な定義があることが分かっている。2009年のBaregheh らの調査では、様々な科学論文で約60の定義があり、2014年の調査では40以上あることが判明した[3]

イノベーションは、1911年に、オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーター[4]によって、初めて定義された。シュンペーターはイノベーションを、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と定義した[5]

日本での使われ方

1958年の『経済白書』において、イノベーションが「技術革新」と翻訳紹介され、日本においてはこの認識が定着している[6]。1958年は日本経済が発展途上であり、新技術の発見と技術の革新、あるいは技術の改良が死活的であり重要な時代だった。

その後の成熟した日本経済においては、技術に限定しすぎた「技術革新」は、社会的なニーズを無視、軽視した技術開発を招き、新たな経済成長の妨げともなっている[6]。イノベーションとは、経済成長を生み出すような社会的影響を及ぼすものを指す用語であり、技術革新だけでなく価値の創造と普及するものを指す[7]。このため、「技術革新」は誤訳と批判されることもある[8]

中小企業庁が発刊する『2002年版中小企業白書』では、「経営革新」にイノベーションの括弧書きをしている[9]

2007年の『経済白書』においては、シュンペーターの定義に立ち返り、イノベーションを「新しいビジネスモデルの開拓なども含む一般的な概念」としている[8]

たとえば、それまでの社会的な通念を覆すようなマーケティング・コンセプトも、社会通念と新たなコンセプトとの思ってもみない「新結合」だと考えれば、社会的なニーズをリードし、広告すら含めた一般的な経営上の創意工夫をイノベーションといえる[10]

分類

イノベーションの分類方法は様々なものが知られている。

シュンペーターはイノベーションには以下の5種類の分類があるとしている[8]

  • 新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産 - プロダクション・イノベーション
  • 新しい生産方法の導入 - プロセス・イノベーション
  • 新しい販路の開拓 - マーケット・イノベーション
  • 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得 - サプライチェーン・イノベーション
  • 新しい組織の実現 - オルガニゼーション・イノベーション

  1. ^ A Foundation for Innovation” (英語). www.brainfacts.org. 2023年5月13日閲覧。
  2. ^ 小稲義男 編代『研究社 新英和大辞典』(5版)研究社、1980年、1089頁。 
  3. ^ Edison, H., Ali, N.B., & Torkar, R. (2014). Towards innovation measurement in the software industry. Journal of Systems and Software 86(5), 1390–407.
  4. ^ ヨーゼフ・シュンペーター 著、塩野谷祐一東畑精一中山伊知郎 訳『経済発展の理論』岩波書店 [1]
  5. ^ 板倉宏昭『経営学講義』勁草書房、2010年、223頁。ISBN 978-4-326-50334-6 
  6. ^ a b 小島明 (2014年5月16日). “「イノベーション」は「技術革新」にあらず:誤解で劣化した“稼ぐ力””. 日本経済研究センター. 2017年8月29日閲覧。
  7. ^ 「イノベーションとは」”. 2023年6月7日閲覧。
  8. ^ a b c 藤末健三 (2007年10月1日). “白書が指摘する、わが国の重すぎる課題”. 日経BP. 2017年8月29日閲覧。
  9. ^ 第1節  経営革新(イノベーション)により発展成長する中小企業”. 中小企業庁. 2017年8月29日閲覧。
  10. ^ 水野由多加「社会的イノベーションとしての広告理解 : アメリカ広告史に残る30の事例からの分析と考察」『関西大学社会学部紀要』第42巻第1号、関西大学社会学部、2010年11月、93-128頁、CRID 1050001202911028992hdl:10112/4838ISSN 02876817NAID 1200056858762024年1月10日閲覧 
  11. ^ Blank, Steve (2019年2月1日). “McKinsey's Three Horizons Model Defined Innovation for Years. Here's Why It No Longer Applies.”. Harvard Business Review. ISSN 0017-8012. https://hbr.org/2019/02/mckinseys-three-horizons-model-defined-innovation-for-years-heres-why-it-no-longer-applies 2020年8月16日閲覧。 
  12. ^ Satell, Greg (2017年6月21日). “The 4 Types of Innovation and the Problems They Solve”. Harvard Business Review. ISSN 0017-8012. https://hbr.org/2017/06/the-4-types-of-innovation-and-the-problems-they-solve 2020年8月16日閲覧。 
  13. ^ Bower, Joseph L.; Christensen, Clayton M. (1995年1月1日). “Disruptive Technologies: Catching the Wave”. Harvard Business Review (January–February 1995). ISSN 0017-8012. https://hbr.org/1995/01/disruptive-technologies-catching-the-wave 2020年8月16日閲覧。 
  14. ^ Christensen, Clayton M.; Raynor, Michael E.; McDonald, Rory (2015年12月1日). “What Is Disruptive Innovation?”. Harvard Business Review (December 2015). ISSN 0017-8012. https://hbr.org/2015/12/what-is-disruptive-innovation 2020年8月16日閲覧。 
  15. ^ Disruptive Innovations” (英語). Christensen Institute. 2020年8月16日閲覧。
  16. ^ Christensen, Clayton & Overdorf, Michael (2000). “Meeting the Challenge of Disruptive Change”. Harvard Business Review. https://hbr.org/2000/03/meeting-the-challenge-of-disruptive-change. 
  17. ^ a b Iansiti, Marco; Lakhani, Karim R. (2017年1月). “The Truth About Blockchain”. Harvard Business Review (Harvard University). https://hbr.org/2017/01/the-truth-about-blockchain 2017年1月17日閲覧. "a foundational technology: It has the potential to create new foundations for our economic and social systems." 
  18. ^ Henderson, Rebecca M.; Clark, Kim B. (March 1990). “Architectural Innovation: The Reconfiguration of Existing Product Technologies and the Failure of Established Firms”. Administrative Science Quarterly 35 (1): 9. doi:10.2307/2393549. ISSN 0001-8392. JSTOR 2393549. https://doi.org/10.2307/2393549. 
  19. ^ 技術とイノベーションの戦略的マネジメント (上), (著)ロバート・A・バーゲルマン, スティーヴン・C・ウィールライト, クレイトン・M・クリステンセン, 翔泳社 (2007/7/31), ISBN 4798106550
  20. ^ Global Peace Index 2023”. 2023年11月25日閲覧。
  21. ^ Marinakis, Y.; Harvey, H.A.; Walsh, S.T. (2021-09). “The emergence of peace engineering and innovation” (英語). Technological Forecasting and Social Change 170: 120867. doi:10.1016/j.techfore.2021.120867. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0040162521002997. 
  22. ^ "kex Data Findings Bloomberg Innovation Index" published by datawrapper, reviewed 10. September 2019
  23. ^ GII 2020 Report”. Global Innovation Index. 2020年10月19日閲覧。
  24. ^ "Innovation Indicator 2018,PDF 2,7 MB" Published by the BDI and ZEW, reviewed 10. September 2019


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