イタチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/15 06:04 UTC 版)
利用
イタチの毛皮は衣類、日用品などに利用されてきた。ミンクは高級品として、ファーコートなどの大型の衣類製造にも用いられる。
イタチの毛を使った毛筆は高級品とされる。価格を抑えるために、中心の長い部分だけにイタチの毛を使う場合もある。
伝承
日本古来からイタチは妖怪視され、様々な怪異を起こすものといわれていた。江戸時代の百科辞典『和漢三才図会』によれば、イタチの群れは火災を引き起こすとあり、イタチの鳴き声は不吉の前触れともされている。新潟県ではイタチの群れの騒いでいる音を、6人で臼を搗く音に似ているとして「鼬の六人搗き」と呼び、家が衰える、または栄える前兆という。人がこの音を追って行くと、音は止まるという[4]。
またキツネやタヌキと同様に化けるともいわれ、東北地方や中部地方に伝わる妖怪・入道坊主はイタチの化けたものとされているほか、大入道や小坊主に化けるという[4]。
鳥山石燕の画集『画図百鬼夜行』にも「鼬」と題した絵が描かれているが、読みは「いたち」ではなく「てん」であり[5]、イタチが数百歳を経て魔力を持つ妖怪となったものがテンとされている[6]。別説ではイタチが数百歳を経ると狢になるともいう[7]。
イタチを黒焼にして飲めば、こわばりなどに良いという伝承が長野県にある[8]。
ギリシャ神話では、ヘーラクレースの母アルクメーネーがヘーラクレースを出産する際、ヘーラーに命じられた出産の女神エイレイテュイアによって出産を封じられていたが、これに気付いたアルクメーネーの侍女ガランティスが「アルクメーネーが出産した」と虚報を唱えた。驚いたエイレイテュイアが封印を緩めたためにアルクメーネーは無事に出産が出来たが、エイレイテュイアの怒りを買ったガランティスはイタチの姿に変えられてしまったのだという[9]。
説教節『愛護の若』の主人公は、家宝を売りに出したと父親に疑われ、縛り上げられて木に吊るされる。愛護の苦難を知った亡き母は、閻魔大王に頼んでいたちに姿を変え、息子を吊るした縄を食い切る[10]。
かまいたち
かまいたちとは、何もしていないのに突然、皮膚上に鎌で切りつけたような傷ができる現象のことを指す。かつては「目に見えないイタチの妖怪のしわざ」だと考えられていた。
なお、「かまいたち」は「構え太刀」が転じたもので、元来はイタチとは全く関係がない、とする説もある。
くだぎつね
イタチにまつわる言葉
- いたちごっこ - 堂々めぐりで物事が全くはかどらないこと。
- いたちの最後っ屁 - 追い詰められたときの最後のあがきのこと。
- いたちの道切り - イタチは同じ道を通らないと信じられ、イタチが目の前を横切ると別れの不吉な予兆とされた。
- いたちの御幸道(ごこうみち)
- 関東・神奈川県近郊の戯れ歌に「痛きゃイタチの糞つけて、三年つけてつけ飽きろ」というのがある。イタチの糞に薬効があるのかどうかは不明。「痛い」に「イタ(チ)」という言葉をかけた言葉遊びと思われる。
- ワイルド・ウィーゼル
- Weasel word - 「逃げ口上」の意。イタチが卵の中身を吸った後、卵を何事もなかったように見せかけるといわれることから
- ^ a b 大舘智志「ユーラシアの諸言語におけるクロテンおよび関連種の呼称リスト」『北海道立北方民族博物館研究紀要』第21巻、2012年、65-94頁。
- ^ "トマ(動物)". 世界大百科事典 第2版. コトバンクより2023年2月15日閲覧。
- ^ 和田干蔵「青森縣産哺乳類目録」『青森博物研究會會報』第5号、青森博物研究會、1937年4月、1-11頁、CRID 1050845761102627712、hdl:10129/2485、NAID 10013371159。
- ^ a b 村上健司編著 『妖怪事典』 毎日新聞社、2000年、36頁。ISBN 978-4-6203-1428-0。
- ^ 高田衛監修 稲田篤信・田中直日編 『鳥山石燕 画図百鬼夜行』 国書刊行会、1992年、50頁。ISBN 978-4-336-03386-4。
- ^ 少年社・中村友紀夫・武田えり子編 『妖怪の本 異界の闇に蠢く百鬼夜行の伝説』 学習研究社〈New sight mook〉、1999年、123頁。ISBN 978-4-05-602048-9。
- ^ 草野巧 『幻想動物事典』 新紀元社、1997年、30頁。ISBN 978-4-88317-283-2。
- ^ 『信州の民間薬』全212頁中79頁 医療タイムス社 昭和46年12月10日発行 信濃生薬研究会 林兼道 編集
- ^ オウィディウス『変身物語』9巻
- ^ 兵頭裕己編注『説教節 俊徳丸・小栗判官 他三篇』岩波文庫2023年(ISBN 978-4-00-302861-2)299-303頁。
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