イスラム教
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/07 10:26 UTC 版)
名称
イスラム教はアラビア語を母語とするアラブ人の間で生まれ、神がアラビア語をもって人類に下したとされるクルアーンを啓典とする宗教であり、教えの名称を含め、宗教上のほとんどの用語はアラビア語を起源とする語である[注釈 2]。
この宗教を呼ぶ際に日本で一般的に用いられている「イスラム教」とは、アラビア語のالإسلام(イスラーム)という言葉が英訳表記された「Islam」に由来するものである。一方、近年、研究者を中心に、アラビア語の長母音をより厳密に反映した「イスラーム教」という表記が好んで使われるようになってきた。高等学校世界史教科書や参考書、あるいは書店に並ぶ本や雑誌においても「イスラーム教」の表記が用いられることが増え、一般にも定着しつつあるといえる[注釈 3]。このアラビア語の「イスラーム」という単語は、「自身の重要な所有物を他者の手に引き渡す」という意味を持つ「aslama(アスラマ)」という動詞の名詞形であり、神への絶対服従を表す。ムハンマド以前のジャーヒリーヤ時代には、宗教的な意味合いのない人と人との取引関係を示す言葉として用いられていたが、預言者ムハンマドはこのイスラームという語を、唯一神であるアッラーに対して己の全てを引き渡して絶対的に帰依し服従するという姿勢に当てはめて用いた。そして、そのように己の全てを神に委ねた状態にある人をムスリム(مسلم muslim)と呼んだ。このような神とムスリムとの関係はしばしば主人と奴隷の関係として表現される[4]。
イスラム教の啓典であるクルアーンの中の法制的部分や、ムスリムの従うべき規範を定めたシャリーア(イスラム法)を重視する論者は、「イスラム教は、その定めに則って行うべき行為として、単に宗教上の信仰生活のみを要求しているのではなく、イスラム国家の政治のあり方、ムスリム間やムスリムと異教徒の間の社会関係にわたるすべてを定めている」と主張している。このことから、「イスラム教とは、単なる宗教の枠組みに留まらない、ムスリムの信仰と社会生活のすべての側面を規程する文明の体系である」という理解の仕方がある。
この理解に基づいて、近年は研究者の間で「イスラム教」あるいは「イスラーム教」から、「宗教」の側面のみを意味する「教」の字を取り去って単に「イスラーム」と表記すべきであるという主張が行われ、ある程度の市民権を得つつある。この主張に従えば、アッラーの教えが規程する諸側面すべてを「イスラーム」と呼び、宗教としての側面を「イスラム教」あるいは「イスラーム教」と呼んで区別できる。
しかし一方で、このような理解は、律法的側面を過度に強調しており、スーフィズムにみられる精神主義などの多様なイスラームの形態を反映していないという批判も強い。
また、「イスラム教」という名称は、創始者(または民族)の名称を宗教名に冠していない(即ち、ムハンマド教とならない[注釈 4])。この理由には諸説あるが、主な宗教学者[注釈 5]の解説によれば、イスラムが特定の人間の意志によって始められたものではないこと、及び国籍や血筋に関係なく全ての人々に信仰が開かれていることを明示するためであるとしている。
日本を含む東アジアの漢字文化圏では、古くは「回教」と呼ばれることが多かったが、現在はあまり用いられていない。中国語では現在も一般名称としてムスリムを“回民”と呼ぶ(「ムスリム」を音写した「穆斯林」も使われるようになっている)。
イスラム教と同じ種類の言葉
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