アジサイ属 種

アジサイ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 08:59 UTC 版)

アジサイ属の野生種としては、日本には14種・1亜種・6変種がある[13]

アジサイ節

アジサイ亜節

ガクアジサイ H. macrophylla

アジサイ亜節 (Subsect. Macrophyllae) には、ガクアジサイヤマアジサイ、ハイドランゲア・スティロサの3種が含まれ、いずれもアジアにのみ自生する[14]

白色または有色の花を付ける[14]。通常、花序(花の並び方)は中央に両性花があってその周りを中性花(装飾花)が囲んだ平坦な形であるが、まれにほとんどが中性花からなる球形の花序が生じる[14][15]。両性花は種を作るが、中性花は結実しない[15]。基部から枝分かれする低木であるという点は共通するが、高さは種により異なる[14]。種子は卵形または長い楕円形で、長さは0.5–1mmである[16]。ガクアジサイとヤマアジサイとは自然雑種ハイドランゲア・セロトフィラ H. × serratophylla を生じるが[14]、これらを人為的に交配させることによって、多くの栽培品種が作り出されている[17]。6月から8月にかけて花を咲かせる[14]

分子系統では、ヤマアジサイなどからなる系統と、H・スティロサなどからなる系統の2系統に分かれた側系統で、コアジサイ亜節やジョウザン属を内包する[11]。ガクアジサイの原種は解析されていないが、その栽培種は双方の系統に含まれており、他種との交配による多系統かもしれない[11]

ガクアジサイ
Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe房総半島三浦半島伊豆半島伊豆諸島足摺岬で海岸に自生する[18][19]。このためハマアジサイとも呼ばれる[19]。花序は多数の両性花を中心として、装飾花が周りを縁取る[18]。花序は直径12–18センチ、装飾花は直径3–6センチで色は白色・青色・淡青緑色・または淡赤紫色[18]、両性花は濃紫色である[19]
変種に、花序のほとんどが装飾花からなるアジサイ(ホンアジサイ) H. macrophylla var. macrophylla がある。
ヤマアジサイ
Hydrangea serrata (Thunberg) Seringe。種として認めずアジサイ H. macrophylla に含めることもある[20]
日本関東より西の本州四国九州などの山地)[21]千島列島台湾中国南部の山地にみられる[14]。山中で沢によく見られることからサワアジサイとも呼ばれる[22]。ガクアジサイと比べ、花の色が多様性に富む[22]。花序は直径7–18センチ、装飾花は直径1.7–3センチ[21]甘茶の原料となるが、「甘茶(アマチャ)」は分類上特定の品種を指す名称ではない[23]
ヤマアジサイは分布域が広く、亜種としてエゾアジサイ、アマギアマチャ、ベニガク、栽培品種としてシチダンカなどがある。
ハイドランゲア・スティロサ
Hydrangea stylosa J. D. Hooker & Thomson。ガクアジサイの亜種や変種とする説もある。ブータンベトナム原産の種である[9]。山地にのみ生える[14]。花はガクアジサイに似るが、色は薄い[9]H. indochinensis はこれに含めることがある。

タマアジサイ亜節

タマアジサイ H. involucrata のつぼみ

タマアジサイ亜節 (Subsect. Asperae) に含まれる種はすべてアジア原産で、ネパール中国台湾インドネシア日本に分布する[24]。いずれも温暖な気候の山地に自生するが、中国やネパールには厳しい気候に耐えるものもある[24]。高さ1.5–5メートルの低木であり[24]、葉は大きく(10–23センチ[25])表面は粗く、花序は散房形で丸みを帯びる[24]。花期は6月から9月に始まる[24]

側系統であり、バイカアマチャ属 Platycrater を内包する[11]

タマアジサイ
Hydrangea involucrata Siebold東北地方南部、関東地方岐阜県までの中部地方の林地に自生する[26][27]つぼみが球形であることから名付けられた[26]。装飾花は大きさ20–32mmで白色、両性花は大きさ2–5mmで紫色であり[26]、花序は直径10–15cmである[26]
ヤハズアジサイ
Hydrangea sikokiana Maxim.紀伊半島四国九州南部の湿った山地に自生する[28][29]。葉の先が分かれ、矢羽・矢筈(やはず)に似ることから名が付けられた[28][29]。葉は幅の広い楕円形で大きく(長さ12–23cm[28])、切れ込みがあるのが特徴である[24]。花期は7–8月で、ふちの装飾花は白く小さく[29]、花序の大きさは20–25cmである[28]。葉を傷つけるとウリのにおいがし、方言では「ウリバ」「ウリノキ」と呼ばれる[30]
ヒマラヤタマアジサイ
Hydrangea aspera D. Donヒマラヤ、中国西部から中部、台湾、インドネシアに分布する[31][32]。花序は径25cmで、装飾花は少なく白色または薄紫色で大きさ2.5cm、両性花は数が多く赤紫色である[31][32]
亜種として、ハイドランゲア・ストリゴサ、ハイドランゲア・サーゲンティアナ、亜種未満の個体群として、ウィロサ、タイワンゴトウヅルがある。
ナガバアジサイ
Hydrangea longifolia Hayata。台湾に分布する[33]。花はタマアジサイに似て、装飾花は大きく、両性花は雄しべが長い[34]。葉は細長く、先がとがる[34]。中国語では「長葉繍球」。
ハイドランゲア・ロンギペス
Hydrangea longipes Franchet。中国、ネパールに分布[24]。高さ2–2.5メートル[32]。花はタマアジサイに似るが、装飾花は小さく[9]、白色または薄紫色で、両性花も白い[32]。葉は細長く、幅3–9cm、長さ7.5–17.5cm程度[32]。中国語では「蒓蘭繍球」。
ハイドランゲア・グラブリペス
Hydrangea glabripes Rehder。中国、ネパールに分布[24]。花はタマアジサイに似る[9]。中国語では「馬桑繍球」。

コアジサイ亜節

コアジサイ亜節は、アジサイの名を持つが、装飾花を持たない。

アジサイ亜節の系統に内包され[11]、アジサイ亜節に含める説もある[12]

アメリカノリノキ亜節

北米原産。系統的に離れた2系統に分かれる[11]

  • アメリカノリノキ亜節1
  • アメリカノリノキ亜節2
    • アメリカノリノキ H. arborescens
    • H. cinerra
    • H. radiata

ノリウツギ亜節

アジサイの名を持たないが、以下の種はアジサイ属で、よく似た花をつける。

ツルアジサイ亜節

つる植物となるものもある。

クスノハアジサイ節

伝統的に、花序により2亜節に分類されてきたが、分子系統からは否定された[11]

モノセギア亜節

ポリセギア亜節


注釈

  1. ^ ラテン文字翻字:hydro
  2. ^ ラテン文字翻字:angeion

出典

  1. ^ a b Hydrangea Tropicos
  2. ^ 日外アソシエーツ, ed. (2008), 植物3.2万名前大辞典, 日外アソシエーツ 
  3. ^ あじさいの語源あれこれ(FEEL成田:成田市観光協会公式サイト)
  4. ^ アジサイ/紫陽花/あじさい(語源由来辞典)(語源由来辞典、株式会社ルックバイス)
  5. ^ a b c d 山本 (1981)、15頁。
  6. ^ a b マレー (2009)、240頁。
  7. ^ 山本 (1981)、15–16頁。
  8. ^ マレー (2009)、240–241頁。
  9. ^ a b c d e 河原田、三上、若林 (2010)、9頁。
  10. ^ 佐藤嘉彦「アジサイ(広義)の葉の解剖学的研究」『横浜国立大学理科教育実習施設研究報告』第5巻、1989年、15–26頁、NAID 110006151494 
  11. ^ a b c d e f g h i j k Samain, Marie-Stéphanie; Wanke, Stefan; Goetghebeur, Paul (2010), “Unraveling Extensive Paraphyly in the Genus Hydrangea s. l. with Implications for the Systematics of Tribe Hydrangeeae”, Systematic Botany 35 (3), http://www.researchgate.net/publication/232273406_Unraveling_Extensive_Paraphyly_in_the_Genus_Hydrangea_s._l._with_Implications_for_the_Systematics_of_Tribe_Hydrangeeae/file/9fcfd507fb68ba2371.pdf 
  12. ^ a b Haworth-Booth, Michael (1975), The Hydrangeas, Constable, ISBN 978-0094603707 
  13. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、5頁。
  14. ^ a b c d e f g h マレー (2009)、61頁。
  15. ^ a b 山本 (1981)、17頁。
  16. ^ 北村、村田 (1979)、112頁。
  17. ^ マレー (2009)、62頁。
  18. ^ a b c 北村、村田 (1979)、114頁。
  19. ^ a b c 河原田、三上、若林 (2010)、26頁。
  20. ^ Reed, Sandra M.; Rinehart, Timothy A. (2006), “Hydrangea macrophylla and serrata – Should we Lump ‘em or Split ‘em?”, SNA Research Conference 51: 573–576, http://naldc.nal.usda.gov/download/45326/PDF 
  21. ^ a b 北村、村田 (1979)、116頁。
  22. ^ a b 河原田、三上、若林 (2010)、88頁。
  23. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、91頁。
  24. ^ a b c d e f g h マレー (2009)、29–31頁。
  25. ^ 北村、村田 (1979)、111頁。
  26. ^ a b c d 北村、村田 (1979)、113頁。
  27. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、18頁。
  28. ^ a b c d 北村、村田 (1979)、112頁。
  29. ^ a b c 河原田、三上、若林 (2010)、154頁。
  30. ^ 山本 (1981)、133頁。
  31. ^ a b Spencer, Roger (2002). Horticultural Flora of South Eastern Australia. Sydney: UNSW Press. p. 28. ISBN 0-86840-660-0 
  32. ^ a b c d e Cullen, James; Knees, Sabina G. (2011). The European Garden Flora Flowering Plants. III (2nd ed.). Cambridge University Press. p. 162. ISBN 978-0-521-76155-0 
  33. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、6頁。
  34. ^ a b 河原田、三上、若林 (2010)、22頁。
  35. ^ a b Bruce, E. A. (1920). “Hydrangea poisoning”. Journal of the American Veterinary Medical Association 58: 313–315. 
  36. ^ a b c d 佐竹元吉「植物性の健康食品の安全性について」『食品衛生学雑誌』第51巻第6号、2010年、408-414頁、doi:10.3358/shokueishi.51.408NAID 1300004549232013年6月19日閲覧 
  37. ^ a b c d e 数馬恒平. “アジサイ”. 自然毒のリスクプロファイル. 厚生労働省. 2012年6月24日閲覧。
  38. ^ “アジサイの葉食べ食中毒 大阪市の居酒屋で”. 朝日新聞. (2008年6月30日). http://www.asahi.com/health/news/OSK200806300067.html 
  39. ^ アジサイ”. 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 (2009年12月8日). 2012年6月24日閲覧。
  40. ^ Palmer, K. H. (1963). “The structure of hydrangin”. Canadian Journal of Chemistry 41 (9): 2387–2389. doi:10.1139/v63-348. 
  41. ^ “アジサイの葉は毒?原因物質検出できず…昨年2件の食中毒”. 読売新聞. (2009年3月17日). https://web.archive.org/web/20090321032946/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090317-OYT1T00919.htm [リンク切れ]
  42. ^ アジサイの喫食による食中毒について (PDF) 厚生労働省 - 2008年8月18日
  43. ^ Nakamuraa, Seikou; Wanga, Zhibin; Xua, Fengming; Matsudaa, Hisashi; Wub, Lijun; Yoshikawa, Masayuki (2009). “The absolute stereostructures of cyanogenic glycosides, hydracyanosides A, B, and C, from the leaves and stems of Hydrangea macrophylla”. Tetrahedron Letters 50 (32): 4639–4642. doi:10.1016/j.tetlet.2009.05.111. 
  44. ^ 加藤正博, 稲葉美代志, 板鼻秀信 ほか「生薬および関連植物の抗コクシジウム活性成分の探索-1-アジサイからのcisならびにtrans-febrifugineの単離および抗コクシジウム活性について」『生薬学雑誌』第44巻第4号、288-292頁、NAID 1100089082592019年4月24日閲覧 
  45. ^ Chem-Station スタッフ 科学者のつぶやき





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