ねじまき鳥クロニクル 概要

ねじまき鳥クロニクル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 08:27 UTC 版)

概要

本作品は3つのパートから成る。

タイトル 出版社 出版年月日 備考
第1部 泥棒かささぎ編 新潮社 1994年4月12日 新潮』1992年10月号 - 1993年8月号に掲載された。
第2部 予言する鳥編 新潮社 1994年4月12日 書き下ろし
第3部 鳥刺し男編 新潮社 1995年8月25日 書き下ろし

1991年、村上がプリンストン大学客員研究員として招聘された際、滞在1年目に1部と2部が執筆された。その後、加筆と推敲をあわせて、第3部までが出版されるまでに4年半の歳月が費やされている[1]。村上の小説としては初めて、戦争等の巨大な暴力を本格的に扱っている。村上は第3部刊行直後の1995年11月、心理学者河合隼雄に向かって「『ねじまき鳥クロニクル』を書くときにふとイメージがあったのは、やはり漱石の『』の夫婦ですね」と述べている[2]

表紙の絵は新潮社装幀室の髙橋千裕がバリ島の古い美術館で見つけたものである[3]。I Dewa Ketut Rungunが描いた「Burung bangau terbang」。

2002年時点で、単行本・文庫本を合わせて227万部が発行されている。

評価

1996年2月に第47回読売文学賞を受賞した。1999年、英訳版『The Wind-Up Bird Chronicle』は国際IMPACダブリン文学賞にノミネートされた。なお、英訳を担当したジェイ・ルービンによれば、本作がまだ『新潮』に連載中のときに村上本人から依頼を受けたという[4]。2003年には翻訳者のルービンが第14回野間文芸翻訳賞を受賞した。

他の作品との関係

  • 第1部の冒頭部分は短編小説「ねじまき鳥と火曜日の女たち」(『パン屋再襲撃』所収)を改稿したものである。
  • 短編小説「加納クレタ」(『TVピープル』所収)の主人公・加納クレタとその姉・加納マルタが本作にも登場する。ただし「加納クレタ」と本作では人物設定が微妙に異なっている。
  • 短編小説「トニー滝谷」(『レキシントンの幽霊』所収)の主人公・トニー滝谷も本作に名前のみ登場しており、本作の主人公・岡田亨の住む家の近隣に滝谷が住んでおり最近妻を亡くしたと、本作中で笠原メイが語っている。ただし文庫版ではそのくだりはほとんどがカットされている。
  • 安西水丸との共著『日出る国の工場』(平凡社、1987年)で取材を行った新潟県かつら工場が、笠原メイの手紙の中に登場する。
  • 『ねじまき鳥クロニクル』の初稿から推敲によって大幅に削られた部分が、後の『国境の南、太陽の西』となった[1]
  • 本作の登場人物・牛河は、後の作品『1Q84』にも登場している。
  • この小説で取り上げた、戦争に代表される大きな暴力の根源がどこにあるのかという疑問が、後に『アンダーグラウンド』『約束された場所で』の執筆の大きなきっかけとなった。また、本作にノモンハン事件を取り上げたことで雑誌社から声が掛かり、1994年6月にノモンハンへ旅行している[5]

注釈

  1. ^ ダンス・ダンス・ダンス』ではドルフィン・ホテルのフロアでかかる[9]。「女のいない男たち」では語り手が次のように述べる。「僕は彼女を抱きながら、いったい何度パーシー・フェイスの『夏の日の恋』を聴いたことだろう。こんなことを打ち明けるのは恥ずかしいが、今でも僕はその曲を聴くと、性的に昂揚する」[10]
  2. ^ 『ダンス・ダンス・ダンス』にもアンディ・ウィリアムスは登場する。「恐ろしいほどの完璧な暗闇」の中で主人公は思う。「なんでもいいから音楽が聴きたかった。あまりにも静かすぎるのだ。ミッチ・ミラー合唱団だって我慢する。アンディー・ウィリアムズとアル・マルティーノがデュエットで唄っても我慢する」[11]

出典

  1. ^ a b c 『新潮』1995年11月号。
  2. ^ 村上春樹、河合隼雄に会いにいく』新潮文庫、99-100頁。
  3. ^ ブルータス, カーサ (2017年2月28日). “村上春樹『騎士団長殺し』の装幀が生まれるまで。”. カーサ ブルータス Casa BRUTUS. 2021年7月29日閲覧。
  4. ^ 『村上春樹スタディーズ 05』若草書房、1999年10月、162頁。
  5. ^ 村上春樹『辺境・近境』新潮社、1998年4月。
  6. ^ 本書、第1部、新潮文庫、77頁。
  7. ^ TVピープル文春文庫、122頁。
  8. ^ 本書、第1部、新潮文庫、105-106頁。
  9. ^ 『ダンス・ダンス・ダンス』上巻、講談社文庫、旧版、128頁。
  10. ^ 女のいない男たち文藝春秋、2014年4月、282頁。
  11. ^ 『ダンス・ダンス・ダンス』上巻、講談社文庫、旧版、144-145頁。
  12. ^ 本書、第1部、新潮文庫、152頁。
  13. ^ 本書、第1部、新潮文庫、156頁。
  14. ^ 本書、第2部、新潮文庫、27頁。
  15. ^ 本書、第2部、新潮文庫、343頁。
  16. ^ 本書、第1部、新潮文庫、177頁。
  17. ^ 本書、第1部、新潮文庫、207頁、209頁。
  18. ^ 本書、第2部、新潮文庫、199-200頁。
  19. ^ 本書、第2部、新潮文庫、317頁。
  20. ^ 本書、第3部、新潮文庫、44頁。
  21. ^ 本書、第3部、新潮文庫、162頁。
  22. ^ 本書、第3部、新潮文庫、461頁。
  23. ^ a b c 成河&渡辺大知、村上春樹作品の美を表現「ねじまき鳥クロニクル」開幕”. ステージナタリー (2020年2月11日). 2021年1月26日閲覧。
  24. ^ a b c d “複雑なものを複雑なまま”描く、成河・渡辺大知・門脇麦らの「ねじまき鳥クロニクル」開幕”. ステージナタリー (2023年11月6日). 2023年12月21日閲覧。
  25. ^ nejimakistageの2020年2月28日のツイート2021年1月27日閲覧。
  26. ^ a b 舞台『ねじまき鳥クロニクル』大貫勇輔、首藤康之、音くり寿ら全出演者発表”. ぴあ (2023年6月12日). 2023年12月21日閲覧。






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