自己原因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/21 13:14 UTC 版)
自己原因 ( じこげんいん 独: Causa sui ) はラテン語のCausa (根拠・原因) とsui (自己) を原義とする概念であり、自己原因とは、自己の存在が他のものに制約されず、みずからが自己の存在の原因となっているものを意味する。 通常の因果関係は他者が原因であり、例えるなら、植物の成長は種子が発芽し成長するには、太陽・水・土のような「他の何か」が原因となって存在する。
これに対して、神は誰かに作られてものではなく、神自身の本性によって必然的に存在する。このような状況を自己原因という。
概要
スコラ哲学では自己原因 ( Causa sui ) を異なる意味で解釈していた。文法的な解釈の違いにより、自己原因は「自分が自分の原因」ではなく「自己のために存在する」という目的論的な意味で使用されていた。 ラテン語の文法解釈によっては、『自分の原因』ではなく『自分のために存在する』という目的論的意味で理解された[1]。原因的な自己関係ではなく目的論的関係を表現する。つまり神は自己のために存在するのであり、自己に外的な目的のためではない。
この概念は様々な哲学者が使用している。
デカルトは「数学と同じように、形而上学も確実で厳密な学問である」ことを類比 ( 羅: analogia ) と自己原因を使って証明しようとした[3]。
スピノザは、自己原因と考えられるものは必然的な存在者とみなすとしている。また、自己原因であるということは、神が存在することを示すと論じている[4]。
カントは『形而上学的認識の第一原理の新解明 ( 独: Neue Erhellung der ersten Grundsätze metaphysischer Erkenntnis ) 』において、原因である自分は、結果としての自分に対して「原因」である。つまり「原因A → 結果A」という関係を考えると、原因は結果の前に存在する必要がある。しかし「自己原因」を仮定すると、結果としての自分が成立して初めて、「自分が自分の原因である」という関係が成り立つ。つまり、原因としての自分は結果としての自分の後に依存してしまうことになる。よって「自己原因」という概念は、一つの同じものが「結果に先立ち、かつ結果に依存する」という矛盾を含むと批判している[5]。
ヘーゲルの絶対的必然性という概念は[6]、自己自身を自分の本質とする存在、つまり自己原因であると捉えていた[7]。
シェリングはスピノザの思想を踏襲しながら、スピノザの自己原因に変わるものとして「自我」を中心にした体系の構築を試みた[8]。
ニーチェは人間が完全に自律的で独立した意志を持つという考えである「自由意志」を否定している。また、自分自身が自分自身の原因になるという考えは、論理的に不可能であるため、自己原因の概念も否定している[9]。
1940年、ロビン・ジョージ・コリングウッドは著書『形而上学論』において、いかなるシステムも自分自身の内部で自らの根拠を見出すことはできないと主張している。。
脚注
参考文献
- 大久保歩「ニーチェにおける自由と自律 (PDF)」『倫理学年報』第70巻、日本: 日本倫理学会、2021年、133–146頁。doi:10.32196/ethics.70.0_133。2025年8月21日閲覧。
- 岡崎秀二郎「ヘーゲルの様相論 (PDF)」『東京大学哲学研究室『論集』』第38号、日本: 東京大学哲学研究室、2019年、13–26頁。2025年8月21日閲覧。
- 工藤喜作「スピノザとシェリング (PDF)」『シェリング年報』第9巻、日本: 日本シェリング協会、2001年、4–16頁。doi:10.32297/schellingjahrbuch.9.0_4。2025年8月21日閲覧。
- 黒川勲「スピノザにおける自己原因の問題 (PDF)」『大分大学教育福祉科学部研究紀要』第27巻第2号、日本、2007年、145–158頁。doi:10.51073/3668。2025年8月21日閲覧。
- 佐藤真人「デカルト形而上学の論証の方法——類比の考察を通じて (PDF)」『フランス哲学・思想研究』第26巻、日本: 日仏哲学会、2021年、202–214頁。doi:10.51086/sfjp.26.0_202。2025年8月21日閲覧。
- 小学館. “だっ‐かく【奪格】”. デジタル大辞泉. 小学館. 2025年8月21日閲覧。
- 桧垣良成「オントローギッシュな神証明に対するカントの批判の展開 (PDF)」『哲学』第1991巻第41号、日本: 日本哲学会、1991年、113–121頁。doi:10.11439/philosophy1952.1991.113。2025年8月21日閲覧。
- 堀江聡「プロティノス哲学体系にみられる愛の階梯(第二部会,<特集>第六十八回学術大会紀要) (PDF)」『宗教研究』第83巻第4号、日本: 日本宗教学会、2010年、1332–1333頁。doi:10.20716/rsjars.83.4_1332。2025年8月21日閲覧。
- 山脇雅夫「近代の存在論 : へーゲルの現実性概念 (PDF)」『哲學研究』第566巻、日本: 京都哲学会 (京都大学文学部内)、1998年、89–127頁。doi:10.14989/JPS_566_89。2025年8月21日閲覧。
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