11楽器のためのラグタイムとは? わかりやすく解説

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11楽器のためのラグタイム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/05/08 22:50 UTC 版)

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11楽器のためのラグタイム』(じゅういちがっきのためのラグタイム、: Ragtime pour onze instruments)は、イーゴリ・ストラヴィンスキーが1917年から1918年にかけて作曲した楽曲。

曲そのものの評価はあまり高くないが、ラグタイムツィンバロムといった当時のストラヴィンスキーの興味の方向を示している。

作曲の経緯

第一次世界大戦中、スイスモルジュに住んでいたストラヴィンスキーは、1917年10月に『結婚』のスケッチをいちおう完成した後、『ラグタイム』の作曲にとりかかった。草稿は1918年3月はじめに書かれた[1]。『兵士の物語』の作曲のために中断した後、1918年11月10日、ドイツと連合国の休戦協定の前日に完成し、スコアにはドイツの投降について記している[2]

曲はバスク系チリ人のパトロンであるエウヘニア・エラスリス英語版夫人に献呈された[3]

1917年にアメリカ公演から帰ったエルネスト・アンセルメがジャズの楽譜を持ち帰った[4]。当時ストラヴィンスキーは『兵士の物語』でもラグタイムを使い、後に『ピアノ・ラグ・ミュージック』も書いた。後のストラヴィンスキーの回想では、実際のジャズの演奏を聴いたことがなく、楽譜からジャズを理解したというが、実際には第一次世界大戦中のパリではラグタイム風の音楽がよくかかっていたのであり、この回想は疑わしい[5]

出版・初演

ピアノ独奏用に編曲した版が1919年末にパリの Éditions de la Sirène 社から出版された[6]。この楽譜の表紙はピカソによる一筆書きの2人の人物が描かれていた[4]。なお、表紙のためにピカソはほかにも一筆書きのスケッチを描いており、そのうちには男根を描いたものもあった[7]。後にロンドンの J. & W. チェスター社から楽譜が出版された。

1920年4月27日にロンドンのエオリアン・ホールで、アーサー・ブリスの指揮により初演された[3]

1922年4月3日に『ディヴェルティスマン』の題で、レオニード・マシーンリディア・ロポコワにより踊られた[3]

1960年12月7日にニューヨーク・シティ・バレエ団のバレエ『ジャズ・コンサート』の音楽として、ミヨー世界の創造』、プーランク牝鹿』、およびストラヴィンスキー『エボニー協奏曲』とともに使われた[8]

音楽

楽器編成は、フルートクラリネットホルンコルネットトロンボーン、打楽器(大太鼓スネアドラムスネアなしのドラムシンバル)、ツィンバロムヴァイオリン2、ヴィオラコントラバス

演奏時間は約4分30秒[3]

シンコペーションが目立つものの、拍子は44で一定であり、当時のストラヴィンスキーの音楽と異なっている[3]

この曲が『兵士の物語』のラグタイムに比べておもしろくないことはストラヴィンスキー本人も認めており、晩年のインタビューで「アライグマの毛皮のコートのように時代遅れ」になってしまったといっている[9]

曲ではツィンバロムが大きな役割を果たす。1915年ごろ、ストラヴィンスキーはエルネスト・アンセルメに連れられてジュネーヴのレストランへ行き、ハンガリー人のツィンバロム奏者アラダール・ラーツ(Rácz Aladár)の演奏に興味を持った[10][11]。ストラヴィンスキーはラーツの紹介によって自分でもツィンバロムを買い、『きつね』でツィンバロムを使ったほか、作曲中の『結婚』にもツィンバロムを使う予定だった。

脚注

  1. ^ Walsh (1999) p.283-285
  2. ^ 後にストラヴィンスキー本人は休戦協定の日(11月11日)に完成したと言っているが、正確ではない。Walsh (1999) p.617注81
  3. ^ a b c d e White (1979) p.276
  4. ^ a b White (1979) p.67
  5. ^ Walsh (1999) p.284
  6. ^ Walsh (1999) p.294
  7. ^ ストラヴィンスキー『118の質問に答える』吉田秀和訳、音楽之友社、1970年、143頁。
  8. ^ Jazz Concert, New York City Ballet, https://www.nycballet.com/ballets/j/jazz-concert.aspx 
  9. ^ Taruskin (1996) pp.1310-1311
  10. ^ White (1979) p.242
  11. ^ 自伝 pp.84-85

参考文献

  • Richard Taruskin (1996). Stravinsky and the Russian Traditions: A Biography of the works through Mavra. 2. University of California Press. ISBN 0520070992. 
  • Stephen Walsh (1999). Stravinsky: A Creative Spring: Russia and France 1882-1934. New York. ISBN 0679414843. 
  • Eric Walter White (1979) [1966]. Stravinsky: The Composer and his Works (2nd ed.). University of California Press. ISBN 0520039858. 
  • イーゴル・ストラヴィンスキー『ストラヴィンスキー自伝』塚谷晃弘訳、全音楽譜出版社、1981年。NCID BN05266077



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