MALTリンパ腫とは? わかりやすく解説

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マルト‐リンパしゅ【MALTリンパ腫】

読み方:まるとりんぱしゅ

粘膜付随するリンパ組織MALTmucosa-associated lymphoid tissue)に発生する腫瘍。胃・小腸のほか肺・唾液腺涙腺甲状腺などにできる。


MALTリンパ腫

胃や腸の低悪性度リンパ腫ピロリ菌と深い関係がある  参考

MALTリンパ腫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/30 01:07 UTC 版)

MALT lymphoma
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
腫瘍学
ICD-9-CM 200.3
ICD-O M9699/3
OMIM 604860
DiseasesDB 31339
MeSH D018442
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MALTリンパ腫(MALTリンパしゅ、: MALT lymphoma)は、胚中心を経由した濾胞辺縁帯B細胞 (en) に由来する節外性B細胞性リンパ腫である。「MALT」はMucosa Associated Lymphoid Tissueを略したもの。WHO分類の正式名はExtranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue type(粘膜関連リンパ組織型節外性濾胞辺縁帯リンパ腫)。

1983年にIsaacsonとWrightにより提唱された。

疫学

全悪性リンパ腫の8.45%

症状

胃原発が多い疾患だが、胃穿孔はあまり多くはない。稀だが小腸に病変がある場合には穿孔しやすい。

前駆病変

多くは自己免疫疾患や慢性感染症と関連して発生する。胃MALTリンパ腫では約90%の患者でピロリ菌感染が認められる。シェーグレン症候群の患者では唾液腺MALTリンパ腫発生リスクは44倍、橋本病では甲状腺リンパ腫の発生リスクは70倍である。

  • H. Pyloriによる慢性胃炎
  • Chlamydia psittaciによる眼付属器の慢性炎症
  • Campylobacter jejuniによるimmunoproliferative small intestinal disease(IPSID)

浸潤部位

85%は胃であるが、他に肺、頭頸部/唾液腺、眼窩、皮膚、甲状腺、乳腺、泌尿生殖器が病変となりうる[1]

病理診断

胃MALTリンパ腫病変組織(HE染色)中拡大
胃MALTリンパ腫病変組織(HE染色)強拡大

腫瘍細胞は反応性濾胞の辺縁帯から濾胞間領域にかけて増殖し、上皮内に浸潤してリンパ上皮病変を形成する。腫瘍細胞は、胚中心細胞類似細胞 centrocyte-like cell(CCL)、単球様B細胞 monocytoid B cell、小型リンパ球、および少数の免疫芽球 immunoblastや胚中心芽球 centroblastなど多彩な腫瘍細胞から構成される。形質細胞への分化が見られることもある。腫瘍細胞が反応性濾胞の胚中心に移動して一見濾胞性リンパ腫に似た構造を作ることがある。

MALTリンパ腫を背景にびまん性大細胞性悪性リンパ腫 DLBCLが発生することがある。免疫芽球 immunoblastや胚中心芽球 centroblastが散在性ではなくシート状に出現している場合はDLBCLと診断し背景にMALTリンパ腫が存在することを記述する。

免疫染色。特異的なマーカーはないが、B細胞マーカー(CD20, CD79a)陽性、CD5,CD10,CD23は陰性。形質細胞分化のある症例では免疫グロブリン軽鎖制限を認める。

鑑別診断

病期分類

悪性リンパ腫は基本的にAnn Arbor分類を用いるが、節外臓器病変が多い消化管リンパ腫では、隣接臓器への直達浸潤や腹腔内リンパ節病変を正しく評価できないため、消化管リンパ腫にはLugano分類[2]が用いられる。消化管以外が原発巣であればAnn Arbor分類が用いられる。

Lugano分類

  • Ⅰ期 - 消化管に限局した腫瘍で、漿膜への浸潤が無い
  • Ⅱ期 - 原発巣から腹腔リンパ節への進展が有る
    • 1 - 限局性(胃・または腸管所属リンパ節にとどまる)
    • 2 - 遠隔性(大動脈周囲・下大静脈周囲・骨盤内・腸間膜リンパ節浸潤)
  • E期 - 漿膜から隣接臓器・リンパ節以外の周辺組織へ浸潤している
    • E(浸潤臓器を記載) ex. 膵臓・大腸・後腹膜壁
  • Ⅳ期 - 節外部位への播種状の浸潤、または消化管病変と横隔膜を越えるリンパ節浸潤

治療

胃原発限局期

MALTリンパ腫の50%は胃に発生する。

H. pylori陽性
  • H. pyloriの除菌が第一選択となる。除菌療法による奏効率は50~80%[3][4]である。除菌成功後リンパ腫は消失するまでは多くの場合数か月程度だが、数年かかることもある。
  • 除菌が失敗しても薬剤を変更して再除菌を試みる。クラリスロマイシン耐性菌が増加しているため、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更した治療法を用いる[5]
  • 除菌による奏功後に化学療法を追加しても再発率を下げられないので経過観察する[6]
  • リンパ腫病変が残存する場合、リンパ腫による症状を認める場合は、以下のいずれかの治療を考慮する。
    • 放射線療法 - 下記の治療法より奏効率は良い[7]
    • リツキシマブ単剤投与
    • リツキシマブ併用化学療法
H. pylori陰性
  • 放射線療法を行う[8][9]
  • ごく少数で除菌療法の有効例がある[10]

胃原発進行期

リンパ腫の症状がある、消化管出血など臓器障害がある、巨大腫瘤がある、確実に進行している、といった場合に治療の対象となる。 症例数が少なく大規模な比較臨床試験が困難なため、各治療間の優劣は明らかではないが、以下の治療法が有効と報告されている。濾胞性リンパ腫に準じた治療が多くの場合選択されている[11][12]

胃以外原発

症例数が少なく大規模な比較臨床試験が困難なため、十分にコンセンサスが得られている標準療法は確立してはいないが、以下の治療法が主に行われる。

限局期
  • 放射線療法[13][14]
  • 外科的切除
  • リツキシマブ単剤もしくは併用化学療法
  • 無症状であれば、慎重な経過観察も選択肢となりうる
進行期
進行期胃原発と同様である。

予後

緩徐な自然経過をたどる。

胃原発

限局期
  • H. pyloriの除菌が成功して奏功した場合は90%以上の長期生存割合が得られている。再発割合は3%[3]である。
  • 除菌失敗例のうちリンパ腫の進展を認めた割合は27%[4]である。
  • t(11;18)API2-MALT1 キメラ遺伝子を有する場合は除菌の成功率は低い[15]
進行期
後述

胃以外原発

限局期
前述の治療のどれを選択しても、5年全生存率は90%、10年生存率は80%と良好である[13][14]
進行期
胃原発の進行期と合わせて、5年生存率は80%、10年生存率は70%程度である[16]

いずれの場合も、組織学的進展(びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫へ悪性度が変化する)が生じた場合[註 1]、あるいは当初より組織にびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫様の細胞を認める場合は、治療法・予後はそれに準じる。

脚注

注釈

  1. ^ 全体の3%、再発または除菌失敗例に限れば約25%[4]で生じる。

出典

  1. ^ Thieblemont C (1997). “Mucosa-associated lymphoid tissue gastrointestinal and nongastrointestinal lymphoma behavior: analysis of 108 patients.”. J Clin Oncol 15 (4): 1624-30. PMID 9193362. 
  2. ^ Rohatiner A (1994). “Report on a workshop convened to discuss the pathological and staging classifications of gastrointestinal tract lymphoma.”. Ann Oncol. 5 (5): 397-400. PMID 8075046. 
  3. ^ a b Nakamura S (2012). “Long-term clinical outcome of gastric MALT lymphoma after eradication of Helicobacter pylori: a multicentre cohort follow-up study of 420 patients in Japan.”. Gut. 61 (4): 507-513. doi:10.1136/gutjnl-2011-300495.. PMID 21890816. 
  4. ^ a b c Thiede C (2001). “Long-term persistence of monoclonal B cells after cure of Helicobacter pylori infection and complete histologic remission in gastric mucosa-associated lymphoid tissue B-cell lymphoma.”. J Clin Oncol. 19 (6): 1600-1609. PMID 11250988. 
  5. ^ 浅香正博「H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン2009 改訂版」 (pdf) 『日本ヘリコバクター学会誌』10(Supplement)、日本ヘリコバクター学会、2009年3月15日。
  6. ^ Hancock BW (2009). “Chlorambucil versus observation after anti-Helicobacter therapy in gastric MALT lymphomas: results of the international randomised LY03 trial.”. Br J Haematol. 144 (3): 367-375. doi:10.1111/j.1365-2141.2008.07486.x.. PMC 2659366. PMID 19036078. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2659366/. 
  7. ^ Raderer M (2003). “Rituximab for treatment of advanced extranodal marginal zone B cell lymphoma of the mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma.”. Oncology 65 (4): 306-310. PMID 14707449. 
  8. ^ Tsang RW (2003). “Localized mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma treated with radiation therapy has excellent clinical outcome.”. J Clin Oncol. 21 (22): 4157-4164. PMID 14615444. 
  9. ^ Vrieling C (2008). “Long-term results of stomach-conserving therapy in gastric MALT lymphoma.”. Radiother Oncol. 87 (3): 405-411. doi:10.1016/j.radonc.2008.02.012.. PMID 18343513. 
  10. ^ Raderer M (2006). “Successful antibiotic treatment of Helicobacter pylori negative gastric mucosa associated lymphoid tissue lymphomas.”. Gut. 55 (5): 616-618. PMID 16299027. 
  11. ^ a b Raderer M (2006). “Activity of rituximab plus cyclophosphamide, doxorubicin/mitoxantrone, vincristine and prednisone in patients with relapsed MALT lymphoma.”. Oncology 70 (6): 411-417. PMID 17220639. 
  12. ^ Kahl B; Yang D (2008). “Marginal zone lymphomas: management of nodal, splenic, and MALT NHL.”. Hematology Am Soc Hematol Educ Program.: 359-364. doi:10.1182/asheducation-2008.1.359.. PMID 19074110. 
  13. ^ a b Thieblemont C (2005). “Clinical presentation and management of marginal zone lymphomas.”. Hematology Am Soc Hematol Educ Program.: 307-713. PMID 16304396. 
  14. ^ a b Zucca E (2003). “Nongastric marginal zone B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue.”. Blood 101 (7): 2489-2495. PMID 12456507. 
  15. ^ Ye H (2003). “High incidence of t(11;18)(q21;q21) in Helicobacter pylori-negative gastric MALT lymphoma.”. Blood 101 (7): 2547-2550. PMID 12517817. 
  16. ^ Thieblemont C (2000). “Mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma is a disseminated disease in one third of 158 patients analyzed.”. Blood 95 (3): 802-806. PMID 10648389. 

関連項目


MALTリンパ腫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/05 07:40 UTC 版)

MALT」の記事における「MALTリンパ腫」の解説

MALTリンパ腫とは、悪性リンパ腫種類1つで、粘膜関連したリンパ組織からリンパ球の中のB細胞腫瘍化する非ホジキンリンパ腫病気進行比較的遅い「低悪性度」に分類され、年単位ゆっくりとした経過をたどる。MALTがある臓器は約半数消化管で、そのうち大部分が胃に集中しているため、胃MALTリンパ腫は、胃の悪性リンパ腫の約40%を占めている。 詳細は「MALTリンパ腫」を参照

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