邪宗門 (北原白秋)
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『邪宗門』(じゃしゅうもん)は、北原白秋の第一詩集[1]。1909年(明治42年)に刊行された[1]。象徴詩の先駆であり、当時の官能的、異国的、退廃的な詩風を代表している[2]。「邪宗門」は、日本のキリスト教史において、江戸幕府により禁教令の対象とされたキリシタンの呼称で、上記のような詩風ゆえに、白秋は自らを密かに信仰を守ったキリシタンになぞらえ命名した[3]。
概要
白秋は『文庫』『明星』に詩歌を発表し、1907年(明治40年)に「新詩社」を脱退して「パンの会」を起こすと『スバル』に参加し、詩歌に新天地を開いた。その象徴詩は、頽唐的叙情と異国情調とで彩なす感覚詩・官能詩であって、その典型が官能・神経・曲節(メロディー)解放の多彩絢爛な第一詩集『邪宗門』である[1]。本書及び第二詩集『思ひ出』によって白秋は詩壇における位置を確立した[4]。室生犀星ら影響を受けた詩人・作家も多い[3]。刊行を控えて、白秋が自筆の表紙絵や目次など詳細な構想をまとめた、原稿用紙20枚のメモが、日本近代文学館へ2023年に寄贈された河井醉茗(すいめい)遺品から発見された[3]。
- 以下本書、著者識、例言より[5]
一、予が象徴詩は情緒の諧楽と感覚の印象とを主とす。故に、凡て予が拠る所は僅かなれども生れて享け得たる自己の感覚と刺戟苦き神経の悦楽とにして、かの初めより情感の妙なる震慄を無みし只冷かなる思想の概念を求めて強ひて詩を作為するが如きを嫌忌す。されば予が詩を読まむとする人にして、之に理知の闡明を尋ね幻想なき思想の骨格を求めむとするは謬れり。要するに予が最近の傾向はかの内部生活の幽かなる振動のリズムを感じその儘の調律に奏でいでんとする音楽的象徴を専とするが故に、そが表白の方法に於ても概ねかの新しき自由詩の形式を用ゐたり。
一、或人の如きは此の如き詩を嗤ひて甚しき跨張と云ひ、架空なる空想を歌ふものと做せども、予が幻覚には自ら真に感じたる官能の根抵あり。且、人の天分にはそれそれ自らなる相違あり、強ひて自己の感覚を尺度として他を律するは謬なるべし。
内容
- ・父上に献ぐ
- ・邪宗門扉銘
- ・例言
魔睡
- 邪宗門秘曲(明治41年8月)[注釈 1]
- 室内庭園(明治41年12月)
- 陰影の瞳(明治41年10月)
- 赤き僧正(明治41年12月)
- WHISKY.(明治41年11月)
- 天鵝絨のにほひ(明治41年12月)
- 濃霧(明治41年10月)
- 赤き花の魔睡(明治41年12月)
- 麦の香(明治41年12月)
- 曇日(明治41年12月)
- 秋の瞳(明治41年12月)
- 空に真赤な(明治41年5月)
- 秋のをはり(明治41年12月)
- 十月の顔(明治41年12月)
- 接吻の時(明治41年6月)
- 濁江の空(明治41年8月)
- 魔国のたそがれ(明治41年8月)
- 蜜の室(明治41年8月)
- 酒と煙草に(明治41年5月)
- 鈴の音(明治41年8月)
- 夢の奥(明治41年7月)
- 窓(明治41年9月)
- 昨日と今日と(明治41年11月)
- わかき日(明治41年11月)
朱の伴奏
- 謀叛(明治40年12月)
- こほろぎ(明治40年12月)
- 序楽(明治41年2月)
- 納曾利(明治41年7月)
- ほのかにひとつ(明治41年2月)
- 耽溺(明治40年12月)
- といき(明治40年12月)
- 黒船(明治41年2月)
- 地平(明治40年12月)
- ふえのね(明治41年2月)
- 下枝のゆらぎ(明治41年8月)
- 雨の日ぐらし(明治41年5月)
- 狂人の音楽(明治41年9月)
- 風のあと(明治41年8月)
- 月の出(明治41年2月)
外光と印象
- 冷めがたの印象(明治40年11月)
- 赤子(明治41年6月)
- 暮春(明治41年3月)
- 噴水の印象(明治41年7月)
- 顔の印象 六篇(明治41年3月)
- A 精舎
- B 狂へる街
- C 醋の甕
- D 沈丁花
- E 不調子
- F 赤き恐怖
- 盲ひし沼(明治41年7月)
- 青き光(明治41年7月)
- 樅のふたもと(明治41年2月)
- 夕日のにほひ(明治41年12月)
- 浴室(明治41年8月)
- 入日の壁(明治41年8月)
- 狂へる椿(明治41年6月)
- 吊橋のにほひ(明治41年8月)
- 硝子切るひと(明治40年12月)
- 悪の窓 断篇七種(明治41年2月)
- 一 狂念
- 二 疲れ
- 三 薄暮の負傷
- 四 象のにほひ
- 五 悪のそびら
- 六 薄暮の印象
- 七 うめき
- 蟻(明治40年3月)
- 華のかげ(明治40年12月)
- 幽閉(明治41年6月)
- 鉛の室(明治40年9月)
- 真昼(明治41年12月)
天草雅歌
- 天草雅歌(明治40年10月)
- 角を吹け
- ほのかなる蝋の火に
- 艫を抜けよ
- 汝にささぐ
- ただ秘めよ
- さならずば
- 嗅煙艸
- 鵠
- 日ごとに
- 黄金向日葵
- 一炷
青き花
- 青き花(明治40年2、3両月中)
- 青き花
- 君
- 桑名
- 朝
- 紅玉
- 海辺の墓
- 渚の薔薇
- 紐
- 昼
- 夕
- 羅曼底の瞳
古酒
- 恋慕ながし(明治40年2月)
- 煙草(明治40年9月)
- 舗石(明治40年9月)
- 驟雨前(明治39年9月)
- 解纜(明治39年7月)
- 日ざかり(明治39年9月)
- 軟風(明治40年6月)
- 大寺(明治39年8月)
- ひらめき(明治39年8月)
- 立秋(明治39年8月)
- 玻璃罎(明治39年8月)
- 微笑(明治39年8月)
- 砂道(明治39年8月)
- 凋落(明治39年8月)
- 晩秋(明治39年5月)
- あかき木の実(明治40年10月)
- かへりみ(明治40年12月)
- なわすれぐさ(明治41年5月)
- わかき日の夢(明治41年5月)
- よひやみ(明治39年4月)
- 一瞥(明治39年7月)
- 旅情(明治39年9月)
- 柑子(明治39年5月)
- 内陣(明治40年7月)
- 懶き島(明治40年12月)
- 灰色の壁(明治39年12月)
- 失くしつる(明治41年7月)
- ・邪宗門目次
注釈
- ^ 北原白秋『邪宗門』日本近代文学館<名著復刻「詩歌文学館」紫陽花セット>、1983年の各章題各詩題文言、各作年月による。
脚注
- ^ a b c 加藤道理、他(編著)『新編常用国語便覧』(浜島書店、1979年)p.277
- ^ 新村出(編)『広辞苑』第四版(岩波書店、1992年)[要ページ番号]
- ^ a b c 北原白秋「邪宗門」綿密メモ/初詩集 目次や扉絵 構想『読売新聞』朝刊2025年4月4日(社会面)
- ^ 伊藤信吉(編)『現代詩歌集』(河出書房新社<カラー版日本文学全集 別2>、1967年)[要ページ番号]
- ^ 北原白秋『邪宗門』(日本近代文学館<名著復刻「詩歌文学館」紫陽花セット>、1983年)pp.2 - 3 例言部
- ^ a b c 北原白秋『邪宗門』(日本近代文学館<名著復刻「詩歌文学館」紫陽花セット>、1983年)p.13 目次部
外部リンク
- 邪宗門_(北原白秋)のページへのリンク