異常巻きアンモナイト
異常巻きアンモナイト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/30 01:18 UTC 版)
異常巻きアンモナイト(いじょうまきアンモナイト)は、狭義のアンモナイトのうち殻の螺旋が解けたような形状を示すもの。分類上は多系統群であり、進化の過程を反映した単一の系統群(単系統群)ではない。古くは三畳紀に出現していたが、特に繁栄したのは後期白亜紀の北太平洋地域であり、日本などの当時の地層から化石が産出する。かつては絶滅しつつあるグループの進化の行き詰まりと見なされていたが、後に適応放散の結果として獲得された特徴であると考えられるようになった。
形態と生態
異常巻きアンモナイトには一般的なアンモナイトと比較して複雑な構造を持つものが多いが、いずれも病変や奇形ではない[1]。ここで言う異常とは「平面螺旋状にぴったりとは巻かない殻」のことを指し[2]、殻は属や種ごとに固有の形態を示している[1][2]。また、巻貝と違って異常巻きアンモナイトでは同一種内でも左巻きの個体と右巻きの個体の両方を確認することができ、頭足綱(アンモナイト)と腹足綱の生殖の違いがその理由の1つとして挙げられている[3]。
異常巻きアンモナイトはアンモナイト目(狭義のアンモナイト)のうちアンモナイト亜目とアンキロセラス亜目に見られる[4][5]。従って、異常巻きであるからといって単一の系統群をなすわけではない[5]。また、アンキロセラス亜目の属種の全てが異常巻きというわけでもない。例えばドウビレイセラスはアンキロセラス亜目のアンモナイトであるが[6]、その殻は平面螺旋を描いており、かつ螺旋に空隙が存在しない[7][8]。
異常巻きアンモナイトの起源は古く、アンモナイト亜目のスピロセラス上科に属するものは三畳紀に出現した。一方でノストセラス科に代表されるアンキロセラス亜目の異常巻きアンモナイトは後期白亜紀の北太平洋地域において繁栄した[5]。アンモナイト全体の生息した水深は海面から10 - 200メートル程度とされており、うち異常巻きアンモナイトは先に述べたように多くが底生生活を送っていたと考えられている。しかし細かい生態については現在も謎が多い[1]。
発見と解釈
異常巻きアンモナイトは20世紀初頭に発見された。当初から矢部長克の Yabe(1904) などで不規則な形状ではないことが指摘されていたが、当時は発見されていた個体数が少なかったため、何らかの要因で正常な螺旋に成長できなかった個体であると考えられるようになった[9]。アンモナイトという系統が寿命を迎えて衰退するにつれて生じた末期的な異常進化の結果である、という見解も登場した[3]。

20世紀後半には異常巻きアンモナイトの殻の形状を説明する数理モデルが登場した。デイヴィッド・M・ラウプは Raup(1966) で、巻貝やオウムガイの殻に見られる対数螺旋を数学的に表現できるRaupモデルを提唱した。オウムガイなどの殻の形状の基本となっている平面的な対角螺旋では、物体のスケールは変数として関与せず、母曲線(殻口)が距離に比例してどれだけ広がるかを決定すれば形状が決定される。これに着目し3次元座標に拡張したRaupモデルでは、殻口の拡張率W(1周での拡大度合)、母曲線の位置D(螺旋の広がり方)、転移率T(巻き軸からの距離に対する軸方向への成長度合い)の3つがパラメータとされた[10][11]。
以下にそのパラメータの定義を示す。なお
外部リンク
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