湖畔亭にヘヤピンこぼれ雷匂ふ
作 者 | |
季 語 | |
季 節 | 夏 |
出 典 | 旗 |
前 書 | |
評 言 | これは西東三鬼(1900‐1962)が逃避行をしたときの句です。こぼれたヘアピンといい、雷匂ふといい、その美しくも退廃的、刹那的情事の濃密さに圧倒されます。この場所が木崎湖の湖畔亭と知ってより、北アルプスの水を湛える小さな湖が露けき湖として目に映るようになりました。 雷は雲と雲がぶつかり合ったときに生れる放電現象で、ゴロゴロと鳴り響く音で知覚するものですが、匂いとしてとらえたことで、読者は息詰まる密室の存在を目の前に突きつけられ眩暈を覚えます。 雷が鳴り出すとき、あたりは一瞬にして暗く沈んでいきます。そのときいなびかりで一本のヘアピンが光る。うしろめたいわびしさを暗示して映画のワンシーンのようです。 1940年(昭和15年)の『旗』に収録されていますが、太平洋戦争が近づく、すでにきな臭い世の中です。そんな世情のなかでこの句は美しいエロティシズムに貫かれています。 水枕ガバリと寒い海がある 緑蔭に三人の老婆わらへりき 広島や卵食ふ時口ひらく |
評 者 | |
備 考 |
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