有機ヒ素化合物とは? わかりやすく解説

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有機ヒ素化合物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 03:10 UTC 版)

有機ヒ素化合物(Organoarsenic compound)は、ヒ素炭素の間に化学結合を持つ化合物である。殺虫剤除草剤殺菌剤として用いるために産業的に製造されるものもある。一般的にこれらの用途は、環境や人の健康への懸念から徐々に少なくなってきている。元となる化合物は、アルシンヒ酸である。その毒性にもかかわらず、有機ヒ素化合物の生体物質はよく知られている。

歴史

驚くことに現在はマイナーな分野と考えられている有機ヒ素化学は、化学の歴史において重要な役割を果たしてきた。既知の最も古い有機ヒ素化合物であり、不快な臭いを持つカコジルは、最初の有機金属とされることもある。サルバルサンは最初の医薬品の1つで、パウル・エールリヒノーベル生理学・医学賞をもたらした。他のいくつかの有機ヒ素化合物も、かつては抗生物質や医薬品として用いられていた[1]

合成と分類

ヒ素は通常、IIIかVの酸化数を持ち、その化合物はAsX3 (X = F, Cl, Br, I)及びAsX5と書ける。これに対応して、有機ヒ素化合物もこの2つの酸化数で見られる[2]

有機ヒ素化合物(V)

ヒ素(V)化合物は、RAsO(OH)2またはR2AsO(OH)の官能基を持つことが多い(R = アルキル基またはアリル基)。化学式(CH3)2AsO2Hのカコジル酸は有機ヒ素化学全体において非常に重要である。これとは対照的に、ジメチルホスホン酸は、有機リン化学における重要性は少ない。カコジル酸は、三酸化二ヒ素をメチル化することで得られる。フェニルアルソン酸(C6H5AsO(OH)2)は、ベシャンプ反応と呼ばれるヒ酸アニリンの反応により得られる。

モノメチル酸であるメタンアルソン酸(CH3AsO(OH)2)は、コメやワタの栽培の殺菌剤であるネオアソジンの前駆体である。ロキサルソン(4-ヒドロキシ-3-ニトロベンゼンアルソン酸)やウレイドフェニルアルソン酸、p-アルサニル酸等のフェニルアルソン酸誘導体は、家畜の餌の添加物として用いられる。環境中に可溶型のヒ素を排出する怖れがあるため、これらの用途については批判もある。

ヒ素(V)化合物で有機リガンドのみを持つものは珍しく、ほとんどはペンタフェニル誘導体As(C6H5)5である[3]

有機ヒ素化合物(III)

このカテゴリの大分部の化合物は、三塩化ヒ素(AsCl3)及びその誘導体から有機リチウムまたはグリニャール試薬を用いたアルキル化によって生成される[3]。例えば、トリメチルアルシン((CH3)3As)、塩化ジメチルアルシン((CH3)2AsCl)、二塩化メチルアルシン(CH3AsCl2)の一連の化合物が知られている。水素化還元剤による塩化物誘導体の還元により、ジメチルアルシン((CH3)2AsH)、メチルアルシン(CH3AsH2)等の対応する水素化物が得られる。同様の操作は、他の塩化有機ヒ素化合物に対しても可能である。

ジメチルアルシン化合物製造の重要なルートは、カコジル酸の還元から始まる。

502.2318 58-36-6 トリフェニルアルシン フェニル基 306.23 603-32-7 融点 58-61 °C フェニルジクロロアルシン フェニル基, 塩素 222.93 696-28-6 ロキサルソン 263.04 121-19-7 アルセノベタイン 64436-13-1 代表的な有機ヒ素化合物[13]

関連項目

出典

  1. ^ Singh, R. Synthetic Drugs. Mittal Publications (2002).ISBN 817099831X
  2. ^ Sabina C. Grund, Kunibert Hanusch, Hans Uwe Wolf "Arsenic and Arsenic Compounds" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, VCH-Wiley, 2008, Weinheim.
  3. ^ a b Elschenbroich, C. "Organometallics" (2006) Wiley-VCH: Weinheim. ISBN 978-3-527-29390-2
  4. ^ Reimer, K. J.; Koch, I.; Cullen, W. R. (2010). “Organoarsenicals. Distribution and transformation in the environment”. Metal ions in life sciences (Cambridge: RSC publishing) 7: 165-229. doi:10.1039/9781849730822-00165. ISBN 978-1-84755-177-1. PMID 20877808. 
  5. ^ Toshikazu Kaise, Mitsuo Ogura, Takao Nozaki, Kazuhisa Saitoh, Teruaki Sakurai, Chiyo Matsubara, Chuichi Watanabe, Ken'ichi Hanaoka (1998). “Biomethylation of Arsenic in an Arsenic-rich Freshwater Environment”. Applied Organometallic Chemistry 11: 297–304. doi:10.1002/(SICI)1099-0739(199704)11:4<297::AID-AOC584>3.0.CO;2-0. 
  6. ^ Dopp, E.; Kligerman, A. D.; Diaz-Bone, R. A. (2010). “Organoarsenicals. Uptake, metabolism and toxicity”. Metal ions in life sciences (Cambridge: RSC publishing) 7: 231-265. doi:10.1039/BK9781847551771-00231. ISBN 978-1-84755-177-1. PMID 20877809. 
  7. ^ Bentley, Ronald; Chasteen, Thomas G. (2002). “Microbial Methylation of Metalloids: Arsenic, Antimony, and Bismuth”. Microbiology and Molecular Biology Reviews 66 (2): 250–271. doi:10.1128/MMBR.66.2.250-271.2002. PMC 120786. PMID 12040126. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC120786/. 
  8. ^ Cullen, William R.; Reimer, Kenneth J. (1989). “Arsenic speciation in the environment”. Chemical Reviews 89 (4): 713–764. doi:10.1021/cr00094a002. 
  9. ^ Francesconi, Kevin A.; John S. Edmonds Croatian Chemica Acta (1998). Arsenic Species in Marine Samples. 71. pp. 343–359. http://public.carnet.hr/ccacaa/CCA-PDF/cca1998/v71-n2/CCA_71_1998_343_359_FRANCES.pdf. 
  10. ^ John S. Edmonds, Kevin A. Francesconi, Jack R. Cannon, Colin L. Raston, Brian W. Skelton and Allan H. White (1977). “Isolation, crystal structure and synthesis of arsenobetaine, the arsenical constituent of the western rock lobster panulirus longipes cygnus George”. Tetrahedron Letters 18 (18): 1543-1546. doi:10.1016/S0040-4039(01)93098-9. 
  11. ^ Alice Rumpler, John S. Edmonds, Mariko Katsu, Kenneth B. Jensen, Walter Goessler, Georg Raber, Helga Gunnlaugsdottir, Kevin A. Francesconi (2008). “Arsenic-Containing Long-Chain Fatty Acids in Cod-Liver Oil: A Result of Biosynthetic Infidelity?”. Angew. Chem. Int. Ed. 47: 2665–2667. doi:10.1002/anie.200705405. PMID 18306198. 
  12. ^ Mancini, Ines; Guella, Graziano; Frostin, Maryvonne; Hnawia, Edouard; Laurent, Dominique; Debitus, Cecile; Pietra, Francesco (2006). “On the First Polyarsenic Organic Compound from Nature: Arsenicin a from the New Caledonian Marine SpongeEchinochalina bargibanti”. Chemistry - A European Journal 12 (35): 8989-94. doi:10.1002/chem.200600783. PMID 17039560. 
  13. ^ http://www.sigmaaldrich.com



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