早苗饗のいちにち湯野の湯の熱き
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夏 |
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評 言 |
早苗饗(さなぶり)は「さ・のぼり」が語源という。田植え後の饗宴であり、田の神への感謝の宴でもあった。 その形態は様々だが、ここでは「湯」とあるから、おそらく湯治場でのそれ。 「湯野の湯」と「湯」を重ねているが、湯野とは湯野温泉(山口県周南市=旧徳山市など)のことだろう。源泉は源泉温度28~33℃。毎分150Lの湧出量というから温泉としては「ぬるい」。鉱泉である。 と分かれば、その湯野の湯が「熱き」というのはなんなのだろうか。湯野の湯を豪勢に沸かしている景と考えたい。それも早苗饗ならではのこと。 裸の農家の女性たちの、おおらかで猥雑な笑い声が聞こえてくるようだ。早苗饗のことを山口、広島、島根あたりでは温泉に「泥落しに行く」といったという。 早苗饗は、田植えの終りの祝いを意味する。「さなぼり」、「さなうり」「さなご」などの言い方もある。田植えの始めの「さおり」に対する言葉で、「さ」は田植えの神を指し、「さ降り」「さ昇り」と田の神の降臨と帰還を表している。 辛い田植えの後に振舞酒として宴席に出されたのが、福岡や佐賀では「早苗饗焼酎」であり、「焼酎」が夏の季語となった由縁である。田植えの最後に神を見送るねぎらいの場は粕取焼酎の酒盛りだった。 田植えも、多くは「結」(ゆい)と呼ばれる村落の共同労働であった。 その早苗饗も、農業の機械化がすすみ田植え機が普及し、早乙女による田植え風景も消え、したがって早苗饗も消えつつある。 早苗饗のあとには、また辛い炎天下の田草取りが始まる。 |
評 者 |
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備 考 |
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