悪い星の下に (アルバム)
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『悪い星の下に』 | ||||
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アルバート・キング の スタジオ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 | ||||
ジャンル | ブルース | |||
時間 | ||||
レーベル | スタックス | |||
プロデュース | ジム・スチュワート | |||
アルバート・キング アルバム 年表 | ||||
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『悪い星の下に』(わるいほしのしたに、Born Under A Bad Sign)は、アメリカ合衆国のブルース・ミュージシャン、アルバート・キングのアルバムである。1967年8月にスタックス・レコードよりリリースとなった。収録された11曲は1966年3月から1967年6月の間に行なわれた5回のセッションでレコーディングされている[2][注釈 1]。キングのバックを付けたのはブッカー・T&ザ・MG'sとメンフィス・ホーンズであった[4]。
概要
1966年、キングはメンフィスのスタックス・レコードと契約した。当時43歳だった彼は他のレーベルでのレコーディングの実績はあったものの、ビルボードR&Bチャートの14位となった1961年の「Don't Throw Your Love On Me So Strong」を除けば[5]、大きな商業的成功は収められていなかった[6]。
ジム・スチュワートがプロデューサーとしてクレジットされているものの、トランペット奏者のウェイン・ジャクソンによると、実際にレコーディング・セッションを取り仕切っていたのはスティーヴ・クロッパーとアル・ジャクソン・Jr.だったという[7]。これらのセッションでレコーディングされた楽曲の多くはシングルとしてリリースされ、1967年8月にこれらのシングルを収録した本作がキングのスタックスからのデビュー・アルバムとしてリリースとなった[8]。
『悪い星の下に』はソウル、ファンクの影響を感じさせるエレクトリック・ブルースのアルバムである[2][8]。収録曲のコード進行はシンプルだが、これはジャクソンによると経験が浅かったことによるものだという。「僕らは、それ以上まともにプレイすることができなかったんだ!」とジャクソンは語っている[7]。キングのプレイは殆ど高い方の3つの弦しか使っておらず、フレーズも非常に少なかった[6]。本作の2002年の再発盤のライナー・ノーツで、評論家のマイケル・ポイントは、キングが数少ないフレーズしか使っていないにもかかわらず、ギター演奏を際立たせることができた理由について次のように書いている。「彼のシンプルながら繊細なプレイは、音階を早弾きするのではなく、抑揚、強調、タメを込めることによって達成されている[6]。」
アルバムを通して聴かれる鋭いサウンドのギターは、キングの型破りな演奏スタイルによるところが大きい[6]。キングは左利きであったが、右利き用のギブソン・フライングVギターの弦を張りなおすことなく、そのまま逆に持って弾いていた[2]。そのため、通常であれば弦を下から上に押し上げる形で行なうチョーキング(ストリング・ベンディング)を上から下に押し下げる形で行なっていた[2]。その結果、複数の弦の同時チョーキングを織り交ぜた独特なフレージングを編み出す結果となった[2]。キングのプレイのスタイルについて問われたジャクソンは「アルバートのギターは、いつもチューニングが他とは会っていなくてね。でも彼は非常に力が強かったので、音程を弦をベンドすることによって合わせていたんだよ![7]」
本作のA面に収録された6曲はいずれも短く、3分以下である[6]。B面にはバラードを含む長めの曲も収録されており、スロー・ブルースの「Personal Manager」ではキングのギター・ソロも聴くことができる[7]。最も知られた曲であるタイトル曲「悪い星の下に」はウィリアム・ベルとブッカー・T・ジョーンズの作詞作曲によるものである。ベルは占星術を題材とした曲を書きたいと考え、その結果、ジャム・セッションの中で生まれたのがこの一風変わった10小節(通常、ブルースは8小節あるいは12小節であることが多い)のギター・ラインであった[7][9]。音楽歴史家のロブ・ボウマンはこのアルバムについて「現代の最も強烈なブルースの録音のひとつ」と評している[9]。
リリース
『悪い星の下に』はスタックス・レコードより1967年8月にリリースとなった[10]。アルバムはチャート入りすることはなかった[9]ものの、収録曲のうち「Laundromat Blues」(1966年、R&Bチャート29位)、「Born Under A Bad Sign」(1967年、同49位)、「Crosscut Saw」(1967年、同34位)の3曲については、ビルボードR&Bチャート入りをしている[11]。ボウマンが考えるところによると、これは当時のリズム・アンド・ブルース・マーケットが45回転盤シングルをアルバムより重要視していたことによるものだとしている[9]。 ビルボード誌のとある評論家は、本作を特別功労賞に選定し「アルバート・キングはブルースを巧みに演奏し、そのリアルでソウルフルなスタイルは、スタックスの最新アルバムに収録されている全 11 曲に表れている通り、見事である。」と書いている[12]。
本作は、日本では、ワーナー・パイオニアより1982年に『悪い星の下に』の邦題でリリースとなっている。ライナー・ノーツは日暮泰文が執筆した[1]。
『悪い星の下に』は、2013年にスタックスとコンコード・レコードによって再発盤がリリースされた[13]。再発盤にはオリジナル盤全曲のリマスター・バージョンが収録されたのに加え、4つの別テイク、1つの無題のインストゥルメンタル曲が追加された。そして、新たなライナー・ノーツが加えられている[13][14]。ポップマターズのネッド・ケリーは、追加されたトラックだけでも十分に買いなおす価値があると感じたといい、特にインストゥルメンタル曲をハイライトした。ケリーは「決してリリースされる予定ではなかったこの1回限りのジャム・セッションで、ブッカー・T&ザ・MG'sのかつてないほどの最高の演奏をしている」とコメントした[14]。本作は2023年4月21日にも再発され、新しいフォーマットのためにリマスターされている[15]。
評価
専門メディアによるレビュー | |
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レビュー・スコア | |
出典 | 評価 |
AllMusic | ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
MusicHound Blues | ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
PopMatters | ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
The Rolling Stone Jazz & Blues Album Guide | ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
The Penguin Guide to Blues Recordings | ![]() ![]() ![]() ![]() |
リリースから何十年も経っているものの、本作の評価は上がる傾向にあり、現在では史上最高のブルース・アルバムの一つと考えられている[8][13]。「The Rolling Stone Jazz & Blues Album Guide」は、本作に満点を付け、執筆者のデイヴィッド・マギーは「これはブルースの記念碑だ」と評している[17]。リーランド・ラッカーは、「MusicHound Blues: The Essential Album Guide」の中でマギーのコメントに同調し、「『悪い星の下に』は文句なしの名盤だ」と書いた[16]。オールミュージックのスティーヴン・トマス・アールワインはキングとMG'sのミュージシャンとしての表現力に着目し、「これらの楽曲がここまで強力なのは驚くべきことだ」としている[8]。
アールワインは、このアルバムのギター・プレイがいかに大きな影響を与えているかについて触れている。「キングは、激しいギター演奏の奔流を解き放ち、ブルースに留まらずロックンロールにも多大な影響を与えたのだ[8]。」ジャーナリストのショーン・マクデヴィットはこのコメントに同意し以下の通り書いている。「『悪い星の下に』は多くのギタリストたちに直接的な影響を与え、彼らはその繊細さやニュアンスを学んだのだ[6]。」そのようなギタリストにはエリック・クラプトン、マイク・ブルームフィールド[4]、ジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・レイ・ヴォーンらがおり、彼らの多くは本作収録の楽曲をカバーしている[6]。クラプトンは彼が当時在籍したバンド、クリームの楽曲「Strage Brew」で「Oh, Pretty Woman」のギター・ソロをコピーし、クリームは1968年のアルバム『クリームの素晴らしき世界』で「悪い星の下に」をカバーした[19]。ポール・バターフィールド・ブルース・バンドも1967年のアルバム『The Resurrection of Pigboy Crabshaw』の中で同曲をカバーしている[6]。
本作は複数の音楽団体より影響力のあるアルバムとして認定されている。1985年に「ブルース・レコーディングの古典アルバム」としてブルースの殿堂入りをし、また2003年には「歴史的なブルース・アルバム」としてW.C.ハンディ賞を受賞している[20]。また1999年にはグラミーの殿堂[21]、2020年には全米録音資料登録簿[22]にも加えられた。
2003年にローリング・ストーンは「ローリング・ストーンの史上最高のアルバム500枚」のリストの491番目に本作を挙げた。そこには「キングのスタックス・レーベルからのファースト・アルバムは、彼のハードでありながらも派手さはないギター演奏と、同レーベルのハウスバンド、ブッカー・T&ザ・MG'sの洗練されたサウンドが融合されている」とコメントが付いている[23]。
マイケル・ポイントは、本作がブルース・ミュージックの近代化に重要な役割を果たし、キングの人気をメインストリームへ押し上げたとしている[6]。キングは無名のミュージシャンとしてチタリン・サーキットでプレイしていたところから、フィルモア、フィルモア・イーストのような大規模なロックのアリーナでプレイするようになった[3]。大きな会場でのパフォーマンスによって黒人、白人両方の聴衆を得ることとなり、特に多くのヒッピーのファンを獲得することに繋がった[3]。
収録曲
# | タイトル | 作詞・作曲 | 時間 |
---|---|---|---|
1. | 「Born Under A Bad Sign」(悪い星の下に) | William Bell, Booker T. Jones | |
2. | 「Crosscut Saw」(クロスカット・ソウ) | R.G. Ford | |
3. | 「Kansas City」(カンサス・シティ) | Jerry Leiber, Mike Stoller | |
4. | 「Oh, Pretty Woman」(オー・プリティ・ウーマン) | A.C. Williams | |
5. | 「Down Don't Bother Me」(ダウン・ドント・バザー・ミー) | Albert King | |
6. | 「The Hunter」(ザ・ハンター) | Booker T. Jones, Carl Wells, Steve Cropper, Donald Dunn, Al Jackson, Jr. |
# | タイトル | 作詞・作曲 | 時間 |
---|---|---|---|
7. | 「I Almost Lost My Mind」(アイ・オールモスト・ロスト・マイ・マインド) | Ivory Joe Hunter | |
8. | 「Personal Manager」(パーソナル・マネージャー) | Albert King, David Porter | |
9. | 「Laundromat Blues」(ラーンドロマット・ブルース) | Sandy Jones | |
10. | 「As The Years Go Passing By」(アズ・ジ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ) | Deadric Malone | |
11. | 「The Very Thought Of You」(ザ・ヴェリー・ソウト・オブ・ユー) | Ray Noble |
# | タイトル | 時間 |
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12. | 「Born Under A Bad Sign」(Take 1 - Alternate) | |
13. | 「Crosscut Saw」(Take 1 - Alternate) | |
14. | 「The Hunter」(Take 1 - Alternate) | |
15. | 「Personal Manager」(Take 15 - Alternate) | |
16. | 「Untitled Instrumental」 |
参加ミュージシャン
- アルバート・キング (Albert King) - リード・ギター、ボーカル
- ブッカー・T&ザ・MG's
- ブッカー・T・ジョーンズ (Booker T. Jones) - キーボード、オルガン、ピアノ
- スティーヴ・クロッパー (Steve Cropper) - リズム・ギター
- ドナルド・ダン (Donald Dunn) - ベース・ギター
- アル・ジャクソン・Jr. (Al Jackson Jr.) - ドラムス
- メンフィス・ホーンズ
- ウェイン・ジャクソン (Wayne Jackson) - トランペット
- アンドリュー・ラヴ (Andrew Love) - テナー・サクソフォーン
- ジョー・アーノルド (Joe Arnold) - バリトン・サクソフォーン、フルート
- レイモンド・ヒル (Raymond Hill) - テナー・サクソフォーン
脚注
注釈
出典
- ^ a b c “Albert King – Born Under A Bad Sign (Japan)”. Discogs. 2025年8月22日閲覧。
- ^ a b c d e Jonathan Cross; Allan Moore (2002). The Cambridge Companion to Blues and Gospel. Cambridge University Press. p. 126. ISBN 978-0-5210-0107-6
- ^ a b c d e Albert King (2013). Born Under a Bad Sign Remastered Editionライナー・ノーツ (liner notes). Stax Records.
- ^ a b “Born Under a Bad Sign — Albert King (Stax, 1967)”. Blues Foundation. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “Billboard Hot R&B Sides”. Billboard 73 (48): 36. (1961-12-11). ISSN 0006-2510.
- ^ a b c d e f g h i Sean McDevitt (2007年10月12日). “Albert King: Born Under a Bad Sign Turns 40”. Gibson. 2010年8月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年9月1日閲覧。
- ^ a b c d e Mojo staff (2007). The Mojo Collection (4th ed.). Canongate Books. p. 90. ISBN 978-1-8476-7643-6
- ^ a b c d e f Stephen Thomas Erlewine (n.d.). “Albert King: Born Under a Bad Sign – Review”. AllMusic. 2012年6月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年9月1日閲覧。
- ^ a b c d Rob Bowman (1997). Soulsville U.S.A.: The Story of Stax Records. Schirmer Trade. pp. 126–127. ISBN 978-0-8256-7284-2
- ^ “New Action Albums”. Billboard 79 (30): 40. (1967-08-05). ISSN 0006-2510.
- ^ “Explore Albert King”. Billboard 2025年8月25日閲覧。.
- ^ “Album Reviews”. Billboard 79 (34): 45. (1967-08-26). ISSN 0006-2510.
- ^ a b c Jeff Hannusch (2013年7月1日). “Albert King, Born Under A Bad Sign (Stax/Concord)”. OffBeat. 2025年8月25日閲覧。
- ^ a b c Neil Kelly (2013年6月6日). “Albert King: Born Under a Bad Sign (remastered)”. PopMatters. 2019年7月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年7月22日閲覧。
- ^ “Jazz Blues News”. 2023年4月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月22日閲覧。
- ^ a b Leland Rucker (2002). MusicHound Blues: The Essential Album Guide (2 ed.). Schirmer Trade Books. p. 226. ISBN 978-0-8256-7267-5
- ^ a b John Swenson, ed (1999). The Rolling Stone Jazz & Blues Album Guide. Random House. pp. 392–393. ISBN 0-679-76873-4
- ^ Tony Russell; Chris Smith (2006). The Penguin Guide to Blues Recordings. Penguin. p. 348. ISBN 978-0-140-51384-4
- ^ Alan di Perna (2016年4月25日). “Celebrating the Life and Legacy of Guitar Giant Albert King”. Guitar World. 2019年11月23日閲覧。
- ^ “Awards Winners and Nominations”. Blues Foundation. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “GRAMMY HALL OF FAME AWARD”. Grammy Awards. 2025年8月23日閲覧。
- ^ ““Born Under A Bad Sign”--Albert King (1967)”. Library of Congress. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “500 Greatest Albums of All Time”. Rolling Stone. (2009-05-31) 2025年8月26日閲覧。.
- ^ “(Stax-723) Albert King – Born Under A Bad Sign”. Discogs. 2025年8月23日閲覧。
- ^ Les Fancount; Bob McGrath (2006). The Blues Discography 1943-1970: The Classic Years. Eyeball Productions. p. 342. ISBN 978-0-968-64457-7
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