共焦点円錐曲線
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幾何学において、2つの円錐曲線が共焦点(きょうしょうてん、英: confocal)あるいは共焦であるとは、円錐曲線が焦点(focus;複数形はfoci)を共有している状態である。共焦点である円錐曲線は、共焦点円錐曲線、共焦点二次曲線、共焦円錐曲線、共焦二次曲線(confocal conics)などと言われる[1][2][3][4][5]。
楕円または双曲線は2つの焦点をもつため、共焦点楕円(confocal ellipses)、共焦点双曲線(confocal hyperbolas)あるいは、その混合物が存在する。共焦点である楕円と双曲線は直交する。
放物線は1つのみ焦点を持つため、共焦点放物線(confocal parabolas)は焦点と軸を共有する放物線であると定義される。 軸上にない任意の点はある共焦点放物線の交点となり、その共焦点放物線は直交する。
円は焦点がその中心に一致した楕円である。特別に、焦点(中心)を共有する円は同心であると言われる。また円の中心を通る直線と、円は直交する。
共焦点の概念を空間に一般化すれば、共焦点二次曲面(confocal quadrics)となる。
楕円と双曲線
任意の(円ではない)楕円または双曲線は、ユークリッド平面上に2つの異なる焦点F1 , F2を持つ。また、長軸上にない点Pを与えれば、その点を通る楕円(または双曲線)は一意に決定される。焦点F1 , F2を共有し、Pを通る楕円と双曲線は直交する。
焦点をF1 , F2とする楕円と双曲線の束(共焦点有心円錐曲線族[6][7];Family of confocal central conics,Family of confocal centred conics;共焦点有心二次曲線[8])を作る。
主軸定理より、直交座標系において、座標軸を軸、原点を焦点の中点(中心)とする円錐曲線を作ることができる。cを線型離心率 (焦点の距離の半分)としたとき、焦点の座標は
楕円と双曲線からなる共焦点円錐曲線は、次の等式を満たす点の軌跡となる。
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反射の性質を用いた、楕円と双曲線の直交の視覚的な証明。 共焦点な楕円、双曲線の束を考える。楕円の法線と双曲線の接線は、接点と焦点を繋ぐ2直線の角の二等分線になる。したがって図の様に、楕円と双曲線の直交を導ける。
このような楕円の束と双曲線の束のように、交差しない曲線の集合2つが、互いの要素に直交するような集合は、orthogonal netと呼ばれる。 楕円と双曲線のorthogonal netをもとにした楕円座標系と呼ばれる座標系がある。
共焦点放物線
放物線は、一方の焦点を無限遠点に置いた、楕円または双曲線の特殊な場合とみることができる。 放物線は単一の焦点を持つ。これは、一方の焦点を固定して、もう一方の焦点を無限遠に移動させた場合の楕円または放物線と見なせる。楕円と双曲線の直交の性質を放物線に適用すれば、 ある放物線に直交する放物線は反対方向を向いた放物線になる。
焦点を原点、軸をx軸とした放物線は、次の式を満たす点の軌跡である。
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共焦点放物線の束。 放物線の定義式より、x軸上にない任意の点
共焦点楕円の構築 1850年、アイルランドの司祭チャールズ・グレイヴスは、糸を用いた共焦点楕円の作成方法を発表した[10]。
- 周長よりも長い糸を楕円Eにまきつける。ある点に糸を掛けて、糸が張るような点の集合はEと共焦点な楕円となる。
フェリックス・クラインの書籍で示された証明は楕円積分を用いる。Otto Staudeは同様の方法を楕円体へ拡張した(クラインの書籍を見よ)。
楕円Eが線分F1F2に退化するときは、糸で楕円を描く特殊な場合になる。
二次曲面
共焦点二次曲面
焦点円錐曲線(黒い楕円、放物線) 共焦点双曲面 アイボリーの定理 アイヴォリーの定理[7](Ivory's theorem)またはアイヴォリーの補題は、スコットランドの数学者ジェームズ・アイヴォリーに因んだ、直交する曲線が成す四角形(net-rectangle)の対角線に関する定理である。
- それぞれ2つの共焦点楕円、双曲線の成す任意のnet-rectangleについて、2つの対角線の長さは等しい。
を、焦点がである次の式で表される楕円とする。
また、を次の式で表される楕円と共焦点な双曲線とする。
と の4交点を計算する。
としても一般性を失わない(cを変えると原点中心に相似拡大される)。4交点の中から第一象限にある物を選ぶ。
4つの曲線が焦点を共有するように、を二つの共焦点楕円、を二つの共焦点双曲線として、net-rectangle の頂点と対角線の長さを次のように得る。
最後の辺において、としても値は変化しない。つまり の赤黒を入れ替えても値は変化しないから、 を得る。
共焦点放物線については、より簡単な計算で証明できる。
アイヴォリーは3次元への一般化を示した[17]。
- 三次元において、共焦点二次曲面からなる直方体の対角線の長さは等しい。
出典
- ^ 西内貞吉、柏木秀利『最新解析幾何学』成象堂、1925年、278頁。NDLJP:942895。
- ^ Eugène Rouché,Charles de Comberousse 著、小倉金之助 訳『初等幾何學 第2卷 空間之部』山海堂書店、1915年、521頁。doi:10.11501/1082037。
- ^ ジョン・ケージー 著、山下安太郎, 高橋三蔵 訳『幾何学続編』有朋堂、1909年。doi:10.11501/828521。
- ^ 森本清吾『解析幾何学』高岡本店、1934年、127頁。NDLJP:1233324。
- ^ サーモン 著、小倉金之助 訳『解析幾何学 : 円錐曲線』山海堂、1914年、314頁。doi:10.11501/952208。
- ^ 日本數學會『岩波數學辭典』岩波書店、1954年 。
- ^ a b 『新訂版 数学用語 英和辞典: 和英索引付き』近代科学社、2020年12月2日。ISBN 978-4-7649-0624-2 。
- ^ 竹内端三『函数概論』共立出版、1946年、60頁。NDLJP:1063358。
- ^ Hilbert & Cohn-Vossen 1952, p. 6.
- ^ Felix Klein: Vorlesungen über Höhere Geometrie, Sringer-Verlag, Berlin, 1926, S.32.
- ^ Staude, O.: Ueber Fadenconstructionen des Ellipsoides. Math. Ann. 20, 147–184 (1882)
- ^ Staude, O.: Ueber neue Focaleigenschaften der Flächen 2. Grades. Math. Ann. 27, 253–271 (1886).
- ^ Staude, O.: Die algebraischen Grundlagen der Focaleigenschaften der Flächen 2. Ordnung Math. Ann. 50, 398 – 428 (1898)
- ^ 窪田 忠彦『高等数学叢書 第7 微分幾何学』岩波書店、1940年、175頁。NDLJP:1172588。
- ^ D. Fuchs, S. Tabachnikov: Ein Schaubild der Mathematik. Springer-Verlag, Berlin/Heidelberg 2011, ISBN 978-3-642-12959-9, p. 480.
- ^ 竹内時男『応用函数論階梯』有隣堂出版、1948年、60頁。NDLJP:1063359。
- ^ Blaschke 1954.
参考文献
- Blaschke, Wilhelm (1954). “VI. Konfokale Quadriken [Confocal Quadrics]”. Analytische Geometrie [Analytic Geometry]. Basel: Springer. pp. 108–132
- Glaeser, Georg; Stachel, Hellmuth; Odehnal, Boris (2016). “2. Euclidean Plane”. The Universe of Conics. Springer. pp. 11–60. doi:10.1007/978-3-662-45450-3_2. ISBN 978-3-662-45449-7 See also "10. Other Geometries", doi:10.1007/978-3-662-45450-3_10.
- Hilbert, David; Cohn-Vossen, Stephan (1952), “§1.4 The Thread Construction of the Ellipsoid, and Confocal Quadrics”, Geometry and the Imagination, Chelsea, pp. 19–25
- Odehnal, Boris; Stachel, Hellmuth; Glaeser, Georg (2020). “7. Confocal Quadrics”. The Universe of Quadrics. Springer. pp. 279–325. doi:10.1007/978-3-662-61053-4_7. ISBN 978-3-662-61052-7
- Ernesto Pascal: Repertorium der höheren Mathematik. Teubner, Leipzig/Berlin 1910, p. 257.
- A. Robson: An Introduction to Analytical Geometry Vo. I, Cambridge, University Press, 1940, p. 157.
- Sommerville, Duncan MacLaren Young (1934). “XII. Foci and Focal Properties”. Analytical Geometry of Three Dimensions. Cambridge University Press. pp. 224–250
関連項目
外部リンク
- T. Hofmann: Miniskript Differentialgeometrie I, p. 48
- B. Springborn: Kurven und Flächen, 12. Vorlesung: Konfokale Quadriken (S. 22 f.).
- H. Walser: Konforme Abbildungen. p. 8.
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