ヤマヒタチオビ
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/14 07:30 UTC 版)
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ヤマヒタチオビ | ||||||||||||||||||||||||
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Euglandina rosea
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保全状況評価 | ||||||||||||||||||||||||
NOT EVALUATED (IUCN Red List) | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Euglandina rosea (Férussac, 1821) |
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和名 | ||||||||||||||||||||||||
ヤマヒタチオビ | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Rosy Wolfsnail |
ヤマヒタチオビ(Euglandina rosea)は、軟体動物門腹足綱有肺目ヤマヒタチオビ科に属する陸生の巻貝で、肉食性のカタツムリの一種である。ネジレガイ科 Streptaxidae または Oleacinidae 科にいれる説もある。
形態
全体に細長い印象のカタツムリである。殻は淡紅灰色、卵型から細長い紡錘型で軸唇は弱く縦条が密に刻まれる。殻軸は殻底で急に切れる。殻は6㎝前後になるが、これは日本の小笠原諸島での個体によるものである[1]。原産地ではもう少し大きくなるとされる。
カタツムリの形態的な分類には生殖器の形状も重要である。他のカタツムリと同じく本種も雌雄同体で、1体が両性の性器を持つ。本種の輸卵管は太く輸精管は細長い[1]。
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全体的に細長いカタツムリである
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縦条が良く目立つ。この標本では螺塔は4-5。
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殻の開口部。殻軸は底を越えて伸びない。
生態
肉食性の巻貝で獲物は主に他の陸生巻貝である。肉食の種としてはかなり大きい。日本に分布する陸生貝類ではタワラガイ類は肉食性が強いとされるが、殻の大きさは数ミリである。
肉食性の種らしく運動能力が高く、動きは早い。獲物の探知は粘液をたどることによって行う。同種のカタツムリを追うことはあまり見られず、これは粘液中の化学物質を感知しているからだという[2]。
天敵はネズミやイノシシなど。
分布
北米大陸原産。アメリカ合衆国のフロリダ半島およびその周辺に分布する。
アフリカマイマイ駆除のためなどとして原産地を離れたところにしばしば持ち込まれ、環太平洋地域の島ではしばしば見られる。日本でも小笠原諸島の父島に分布し、これは戦後の米軍統治時代に持ち込まれたものとされている。小笠原諸島のもう一つの主要な島である母島には分布していないとされている。
人間との関係
感染症媒介

他の多くのカタツムリやアフリカマイマイと同様に、本種も寄生虫の中間宿主となるケースがあり、その為に、触れた後は十分な手洗いや消毒が推奨される。
天敵利用
肉食性のカタツムリで熱帯亜熱帯地域で農業害獣となるアフリカマイマイの天敵として利用できることが期待されていた。日本でも父島にはこの目的で米軍がグアム経由で持ち込んだとされている。
ただし、小笠原の事例では大きさ的にアフリカマイマイの幼貝しか捕食できず、またアフリカマイマイに比べると増殖速度がかなり遅いなどの問題があり、有力な天敵にはならなかったという[3]。
一方で孤島の陸生貝類の中には性成熟するまでに数年かかり、産卵数も年に1つというような増殖速度が極めて遅いものが珍しくなく、新たな天敵に対応できないものが少なくない。
本種では駆除できなかったアフリカマイマイであるが、1990年代以降父島・母島共に生息数が減少傾向にあるという。原因の一つとして父島にはさらに強力な捕食者であるニューギニアヤリガタリクウズムシ(Platydemus manokwari)が侵入していることが挙げられており、ヤマヒタチオビも含め減少傾向にあるという。ただ、母島での減少などよくわかっていない点も多い[4]。
外来種問題
本種は害虫害獣駆除のための天敵外来種導入事例の失敗事例として、前述のニューギニアヤリガタリクウズムシと共に有名である。多くの島で目的とされていたアフリカマイマイの天敵としては不十分で、むしろ島に固有の陸生貝類を好んで捕食し、固有種の大幅な減少や種によっては絶滅に至ったものも少なくない。これについての総説論文としてはGerlach et al.(2021)などがある[5]
日本では特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成十六年法律第七十八号、通称:外来生物法)[6]の施行令の第一条が定める特定外来生物に指定されおり、生きた状態での運搬や飼育が禁止されている。また、日本には侵入していないとされる同科の近縁種についても科単位で未判定外来生物に指定されており、特定外来生物に準じる扱いとなっている。
本種は国際自然保護連合(IUCN)が定める世界の侵略的外来種ワースト100(英:100 of the World's Worst Invasive Alien Species )に入っており、これの日本版となる日本生態学会が定める日本の侵略的外来種ワースト100にも入っている。
名称
和名「ヤマヒタチオビ」は殻の形態が海産巻貝の一種ヒタチオビ類(Fulgoraria spp.)のものに似ており、山に分布することからという形態と分布に因む命名とされている。両者は生息場所が全く異なることからわかるように、分類学的には巻貝であることぐらいしか共通点はなく、非常に疎遠である。「ヒタチオビ」は漢字では「常陸帯」とされ、常陸国の鹿島神宮に伝わる宝物が由来とも言われるが、よくわかっていない名前である。
英名はwolf snail(オオカミのようなカタツムリ)といい、肉食性で他の貝をよく追い回す本種の生態に因む命名である。
脚注
- ^ a b 東正雄(1995)『原色日本陸産貝類図鑑(増補改訂版)』. 保育社, 大阪. ISBN 4-586-30061-2
- ^ Nagma Shaheen, Kinjal Patel, Priyanka Patel, Michael Moore, Melissa A. Harringto (2005) A predatory snail distinguishes between conspecific and heterospecific snails and trails based on chemical cues in slime. Animal Behaviour 70(5) doi:10.1016/j.anbehav.2005.02.017
- ^ 小笠原総合事務所・東京都小笠原支庁・東京都小笠原村 共編 (1979) 『小笠原諸島の概要 昭和54年』. 小笠原総合事務所, 東京. doi:10.11501/9641888(国立国会図書館デジタルコレクション)
- ^ 大林隆司, 竹内浩二 (2007) 小笠原諸島父島および母島におけるアフリカマイマイの分布ならびに個体数の変動(1995~2001年). 日本応用動物昆虫学会誌 51(3), p.221-230. doi:10.1303/jjaez.2007.221
- ^ Gerlach J. et al. (2021) Negative impacts of invasive predators used as biological control agents against the pest snail Lissachatina fulica: the snail Euglandina rosea and the flatworm Platydemus manokwari. Biol Invasions 23, pp.997–1031 doi:10.1007/s10530-020-02436-w
- ^ 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成十六年法律第七十八号) e-gov法令検索 2025年8月15日閲覧
関連項目
- ジャワマングース・フイリマングース ハブ退治を目的に持ち込んだ動物だが本来の目的からはずれ固有動物の食害被害が多く出た外来種導入の失敗事例で本種と状況が似ている。
- オオヒキガエル マングースや本種の例と同じく外来種導入の失敗事例として有名。
外部リンク
- ヤマヒタチオビのページへのリンク