ホタ・アラゴネーサによる華麗な奇想曲
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『ホタ・アラゴネーサによる華麗な奇想曲』(ホタ・アラゴネーサによるかれいなきそうきょく、フランス語: Caprice brillant sur le thème de la Jota aragonesa、ロシア語: Блестящее каприччио на тему арагонской хоты)は、ミハイル・グリンカが1845年に作曲した管弦楽曲。スペインのアラゴン地方のホタを主題に使用している。スペイン序曲第1番『ホタ・アラゴネーサ』(Испанская увертюра № 1 «Арагонская Хота»)の題でも知られる。
演奏時間は約9分[1]。
作曲の経緯
1842年の『ルスランとリュドミラ』が不評に終わり、また妻との離婚訴訟が難航したこともあり、嫌気が指したグリンカは1844年にパリに出た[1]。ここでグリンカはベルリオーズと知りあい、ベルリオーズはグリンカの曲を高く評価して自らの演奏会で取りあげた[2]。グリンカの側でもベルリオーズから影響を受け、『ハンガリー行進曲』や『ローマの謝肉祭』の例をもとに、自分でも民族的な特徴を持った管弦楽作品を書こうとした[2]。
1845年にグリンカはスペインを旅行し、主にマドリードに住んだ[1]。バリャドリッドを訪問したときに聞いたギター演奏によるホタをもとに、マドリードに戻ってから作曲された[1]。
グリンカは1847年にいったんロシアに帰国するが、翌1848年にワルシャワ総督イヴァン・パスケヴィチ公爵のもとに滞在した[3]。『ホタ・アラゴネーサによる華麗な奇想曲』はここで公爵の楽団によって演奏されたと考えられている[1]。
その後グリンカは曲に改訂をほどこした。改訂版は1850年3月15日にサンクト・ペテルブルグのフィルハーモニー協会の慈善演奏会でカール・アルブレヒトの指揮により『カマリンスカヤ』とともに初演された[1]。
グリンカはワルシャワ滞在中の1848年にスペイン音楽を題材にしたもう1つの管弦楽曲『カスティーリャの思い出』を作曲していたが、1851年にこの曲を改訂した時にスペイン序曲第2番『マドリードの夏の夜の思い出』と改題し、『ホタ・アラゴネーサによる華麗な奇想曲』はそれに合わせてスペイン序曲第1番『ホタ・アラゴネーサ』になった[2]。
グリンカ没後の1858年ごろ、妹のリュドミラ・シェスタコヴァによって編集されてフランツ・リストへの献辞を加えたスコアがライプツィヒのC.F.W. Siegel社から出版された[4]。
同じ旋律はリストのピアノ曲『スペインの歌による演奏会用大幻想曲』(1845年)および『スペイン狂詩曲』(1858年)、ゴットシャルクのピアノ曲『ホタ・アラゴネーサ』(1852年)、サン=サーンスの管弦楽曲『ホタ・アラゴネーサ』作品64(1880年)など多くの作曲家が使用しているが、グリンカの曲はその中でも年代の早いものの一つである。
楽器編成
当時のロシアの管弦楽編成としては大きく、4本のホルン、オフィクレイド、ハープなどの楽器を使用しているのはベルリオーズからの影響と考えられる[5]。ハープと弦楽器のピッツィカートによってギターを模倣している[2]。
曲の構成
序奏とコーダを持つソナタ形式で書かれている。
- 序奏部分はグラーヴェ、変ホ長調、4⁄4拍子で、金管楽器によるファンファーレにはじまる[6]。
- 主部(ホタ・アラゴネーサ)はアレグロ 3⁄4拍子で唐突に始まる。2つの旋律が交代に出現するが、最初は主旋律がヴァイオリン独奏とハープにより、ついで第2旋律が木管楽器によって演奏される。主旋律が3回めに登場した後に展開部にはいり、序奏のファンファーレが主旋律に組みこまれる[6]。第2旋律がくり返されてもり上がった後再現部にはいり、全奏によって華やかに終わる。
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全曲を試聴 (バラキレフ編曲のピアノ独奏版) |
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編曲・使用
バラキレフは1862年にグリンカの『ホタ・アラゴネーサ』をピアノ用に編曲している。独奏版と連弾版がある。
1916年1月29日にサンクト・ペテルブルグでミハイル・フォーキンの振付による『ホタ・アラゴネーサ』のバレエが上演された[7]:55-56。
脚注
- ^ a b c d e f 井上 1980, pp. 326–327.
- ^ a b c d マース 2006, pp. 46–47.
- ^ 井上 1980, pp. 329–330.
- ^ Испанская увертюра № 1. Арагонская охота, ロシア国立図書館(РНБ)バーチャル展覧会
- ^ 井上 1980, p. 327.
- ^ a b 井上 1980, pp. 327–329.
- ^ Sokolov-Kaminsky, Arkady (1992). “Mikhail Fokine in St. Petersburg 1912-18”. Dance Research: The Journal of the Society for Dance Research 10 (1): 53-58. JSTOR 1290698.
参考文献
- 井上和男「ホタ・アラゴネーサによる華麗な奇想曲」『最新名曲解説全集』 4巻、音楽之友社、1980年。ISBN 4276010047。
- フランシス・マース 著、森田稔・梅津紀雄・中田朱美 訳『ロシア音楽史―《カマーリンスカヤ》から《バービイ・ヤール》まで』春秋社、2006年。 ISBN 4393930193。
外部リンク
- ホタ・アラゴネーサによる華麗な奇想曲の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- Испания в рукописном наследии Михаила Ивановича Глинки, ロシア国立図書館(РНБ)バーチャル展覧会(グリンカ自筆遺稿におけるスペイン)
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