ピアノ協奏曲第2番 (グラズノフ)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/26 13:34 UTC 版)
ピアノ協奏曲第2番 ロ長調 作品100 は、アレクサンドル・グラズノフが作曲したピアノ協奏曲。
概要
本作は着想から完成までに8年の歳月を費やしたとされる[1]。初演は1917年10月29日に、ペトログラード音楽院の小ホールでS.V. Bentserをソリストとして行われた[2][注 1]。楽譜は1922年に出版された[1]。
グラズノフは1928年にウィーンで開催されたシューベルトの記念式典出席のためにソビエト連邦を離れ[2]、その後は指揮者として忙しく活動しつつ西側に留まることになる[2]。やがて彼はリャプノフやメトネル同様にパリに居を構えた[3]。パリではエレーナ・ガヴリロヴァが1928年12月に本作を演奏した[2]。エレーナは翌年にグラズノフと結婚するオリガ・ガヴリロヴァの娘であり[2]、グラズノフの養子となってエレーナ・グラズノヴァと名乗るようになる[3]。1929年12月にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で行われたグラズノフの交響曲第6番と本作の演奏会でも彼女が独奏を受け持った[2]。また、エレーナはツアーの中でピアノ協奏曲第1番や本作を取り上げていくが[3]、以降は1970年代に初録音が行われるまで本作はレパートリーから抜け落ち忘れられることになる[1]。
楽曲形式の面から見た本作は前作以上に伝統からの逸脱をみせている[3]。単一楽章で書かれていることは、リストやリストの高弟であったダルベールの協奏曲を思わせる[3]。曲の持つ「物語」風の雰囲気、情感はメトネルのピアノ協奏曲第3番に近いものとなっている[3]。
楽器編成
ピアノ独奏、ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、弦五部。
楽曲構成
単一楽章で書かれている[2][3]。演奏時間は約19分半[4]。
冒頭、低弦から主題が立ち現れる(譜例1)。この主題が曲中の多くの素材を導いていくことになり[2]、曲のモットーもしくは基点として機能する[3]。楽曲全体の雰囲気はこの主題に支配される[4]。
譜例1
譜例1が木管、ピアノと歌い継がれていき、区切りをつけてト長調へと転じる。そこでは譜例1に基づく音型の合間に第2主題が顔をのぞかせる[3](譜例2)。ピアノが自由な音型を奏でる中、オーケストラにより明瞭な形で主題が現れる。
譜例2
譜例2の1、3小節目の音型をピアノがオクターブで奏する展開が始まり、素材の抒情的な発展もみられる[2]。譜例1が回想されたところでピアノのカデンツァが挿入される。アンダンテへと速度を落としてヘ長調に転じると譜例2に基づく旋律が奏される(譜例3)。この主題がグラズノフのピアノソナタ第1番の第2楽章の主題に、リズム、抒情性、ピアノ書法の点で類似しているという指摘がある[3]。
譜例3
緩徐部を終えると主題の展開へ戻っていく[3]。譜例1と譜例2から生成された譜例4が奏され[2]、ピアノへと引き継がれていく。
譜例4
譜例4を主軸に据えて転調と速度の変更を繰り返した後、6/8拍子のスケルツァンドに入る。主題が木管楽器により舞踏的に奏される[2][3](譜例5)。ピアノのグリッサンドを織り交ぜ、華やかに進行する。
譜例5
続く部分では落ち着きを取り戻して主題が抒情的に奏でられる(譜例6)。オーボエが引き継いて旋律を歌い、弦楽器も加わる。
譜例6
やがて速度を上げてアレグロ・モデラートに至る(譜例7)。これが曲の最終部分であり[3]、トゥッティがホ長調でモットー主題を高らかに奏する[2]。打楽器も加わってくる。
譜例7
この後もさらに主題を様々に変奏しながら進み[2]、モデラート・アッサイでピアノのアルペッジョと共に譜例1が管弦楽で堂々と奏されると、最後は譜例1の変形を重々しく響かせて幕切れとなる。
脚注
注釈
出典
参考文献
- Pott, Francis (1996). Glazunov: Piano Concertos; Goedicke: Concertstück (CD). Hyperion records. CDA66877. 2025年8月16日閲覧.
- Anderson, Keith (2000). GLAZUNOV, A.K.: Orchestral Works, Vol. 14 - Piano Concertos Nos. 1 and 2 (CD). Naxos. 8.553928. 2025年8月16日閲覧.
- 楽譜 Glazunov: Piano Concerto No.2, M.P. Belaieff, Leipzig
外部リンク
- ピアノ協奏曲第2番の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- Mahon, Tim. ピアノ協奏曲第2番 - オールミュージック
- ピアノ協奏曲第2番 - ピティナ・ピアノ曲事典
- ピアノ協奏曲第2番_(グラズノフ)のページへのリンク