電力線搬送通信 課題と問題点

電力線搬送通信

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 18:25 UTC 版)

課題と問題点

日本国内における電力線搬送通信 (PLC/BPL) の実用化にあたり、推進派[誰?]と非推進派[誰?]間で下記の点についての主張がなされている(BPL 2002年 - 、PLC 2005年 - )[要出典]

漏洩電磁波の問題

  • 問題の技術的背景
    • 電力線は高周波を重畳することを想定してはいなかった。このため、電力線に高周波を重畳すると、電力線がダイポールアンテナとして作用し、漏洩電磁波が発生する(同軸ケーブルを使用したPLCは、この様な問題は発生しない)。またその周波数が短波帯の電波と重なるため、短波ラジオアマチュア無線、非常通信用無線など、無線通信混信電波天文学などに影響が出る。そして、どの距離で電力線搬送通信をするか分からず、そもそも電力線配線図の図面さえ各建築物の図面に残っていない。PLC反対派[誰?]は「無線LANWi-Fi)」で、LAN構築は充分対応可能であると断言している[要出典]
    • このような現状から、PLC推進派(PLC推進団体・企業)[誰?]と、既存の短波利用者を中心としたPLC非推進派(アマチュア無線家・電波天文学・日経ラジオ社・短波放送聴取者)[誰?]間で、論争が絶えない[要出典]
  • 漏洩電磁波の実証実験
    • 日本国内では、2004年1月に高速電力線搬送通信設備を用いた際の電灯線からの漏洩電界低減技術確認のための実証実験制度が導入された後、PLC推進派企業などによって実証実験が行われ、高速電力線搬送通信に関する研究会において、自主的な目標であった微弱無線の許容値 (54dBμV/m @ 3m) を満たすことが報告されたが[13]、同研究会構成員からも「微弱無線レベルを下回っているからいいとは言えないのではないか」との意見も出され[14]、さらに、「これらの実験環境は、建物が密集した都市内の住居等の利用環境とは異なっており、漏洩電界を低減するためモデムの改良や通信方式の工夫などが実際の利用では生かされないのではないか」との批判[要出典]が、一部のPLC非推進派[誰?]からなされている。
      • 審議を経て許容値が決められたものの、この許容値を満たしたPLCモデムを屋内電力線に接続した場合、想定通りに99%の家屋で漏洩電磁波強度が周囲雑音以下になることを確認する実験は行われなかった。
    • 市販されているPLCモデムを屋内の電力線に接続したところ、環境雑音を約30dB越える漏洩電界が測定されたとの報告もある[15]
    • 2003年に日本アマチュア無線連盟より、BPLの漏洩電磁波による無線通信への影響について懸念が表明されている[16][17]
    • 2007年に日本アマチュア無線連盟より、全てのPLC機器にノッチを設けることを義務づけるように活動を行う必要性がある旨の方針が示されている[18]
  • 非常通信用周波数[19]
    • 非推進派の一部は、影響を受ける帯域の中に非常通信用の周波数も含まれている点を特筆すべきと主張している。
    • 推進派は、非常用の周波数をPLCの影響から保護する技術(フレキシブルノッチなど)は存在している為、非常通信用の周波数を理由にPLC自体に反対することには無理があると主張している。
  • 電波天文観測への影響
  • 周波数利用に関する問題
    • アマチュア無線等、無線通信設備が近傍にある場合、電波の影響を受け、PLCの通信速度が低下するが、高周波利用設備であるPLC機器利用者には、電波法上、通信に対する優先権がない(無線局免許状を受けて運用される他の無線設備からの有害な混信を受忍しなければならない)。
  • 他の通信機器との相互干渉が発生する可能性
    • VDSLは通信線が異なるものの、3MHz以上の周波数帯も利用するため、PLC機器とVDSL機器を至近距離(概ね10cm以内)に設置すると、機器同士の相互干渉が発生する可能性がある[21]との意見があったが、その後の解析により通常の条件下においては影響がないことが分かっている[22]

通信信号に関する問題

  • 通信速度低下の要因とその対策に関わる問題点
    • 各機器が同一帯域内を利用するバス型トポロジーであるため、無線LANと同様に、同一帯域内に沢山の機器を接続すると通信衝突(コリジョン)が起こる可能性が増加し、これを回避するための平均遅延時間、つまりデータ通信ができない時間が上昇する(CSMA/CA参照)。
    • また、電力線には様々な家電機器を接続するため、この稼働状況(ドライヤー、掃除機等のモーターを使用する機器や携帯機器の充電器等)によっては、PLC機器の通信に悪影響を及ぼし、通信速度低下の要因となる場合があり、仕様上の最大実効通信速度を得るのは難しい。メーカーでは、これらの機器をコンセントに接続する際は、ノイズフィルターを使用することを推奨している[23]
    • PLC機器は通信速度の低下を理由として、雷サージ対策・PLC非対応ノイズフィルター付テーブルタップ経由での接続、無停電電源装置 (UPS) 経由での接続を推奨しておらず、PLC機器を直接コンセントへ接続することを推奨している。このため、PLC機器にバッテリーが搭載されていない場合は瞬間停電時の通信維持対策が取れない場合があるほか、PLC機器への落雷対策が取れず、不都合が生じる場合がある。
    • また、家庭内電力線(単相3線式100V配線)はL1相・L2相からなるため、L1相に接続された電力線(コンセント)とL2相に接続された電力線(コンセント)間の(異相間)通信の場合は、同相間の通信に比べて信号が減衰し易い性質があり、この場合、仕様上の最大実効通信速度を得るのは困難であり、また、別系統の配電盤を利用している等のケースの場合、状況によっては通信が出来ない可能性がある。
  • 転送速度と使用環境
    • 転送速度を低下させる要因
      • 異なる規格のPLCを使用する
      • 交流配線の異相側につなぐ
      • ノイズ・フィルター付きテーブルタップにモデムを接続する
      • ノイズの発生する機器を同じ配線で使う
        • ドライヤー、調光機能付き照明、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ
      • インピーダンスが低いためにPLCの信号を吸い取る機器を同じ配線で使う
        • 携帯電話充電器
  • 精密機器・医療機器に対する誤動作への懸念
    • PLCのコモンモードノイズにより、医療器具や精密機械への致命的な誤作動を生じさせる可能性が懸念されており、特に医療機器(心臓ペースメーカーや、心肺維持装置)への悪影響が生じるリスクは皆無ではないことから、厚生労働省が安全性への通達を出している[24]
  • PLC同士の相互干渉
    • PLCの発生する信号は近距離ならば配電盤を越えて伝わるため、集合住宅内で使用した場合、配電状況によっては近隣の部屋に影響を及ぼす可能性がある[25]。この際、相互に影響を及ぼす範囲の部屋で複数系統(同方式、異方式を問わない)PLC機器を使用した場合、帯域を相互に食い合うために速度が低下する可能性が指摘されている。特に異なる方式のPLC機器を用いる場合、お互いにノイズ源となるため、通信速度が落ちる、あるいは、通信が不能になることが指摘されており、実際、製造メーカーの広告においても同種の注意がなされている場合がある。

法律上の問題点

  • 行政訴訟について(行政訴訟の結果整理〈2006年 - 2013年〉)
    • アマチュア無線家等115名は2007年1月15日に、他の無線通信機器や電気製品(家庭用の医療機器など)への影響の検証が不十分だとして、総務省によりPLC機器に対して交付された型式指定処分に対する異議申立てを行い、電波監理審議会で審理が進められた。
    • 東京地方裁判所(2007年〈平成19年〉5月25日)[26]
      請求概要:高速PLCの型式指定目録記載の型式指定を取り消すこと、型式指定をしないこと、設置許可をしないこと 判決概要:総務大臣の処分については、電波監理審議会の審理を経た後の決定に対する取消訴訟のみを救済手段として予定していると解するのが相当。よって,本件訴えはいずれも不適法であるから却下。
    • 東京高等裁判所(2008年〈平成19年〉12月5日)[27]
      控訴趣旨概要:原判決の取り消しと高速PLCの型式指定目録記載の型式指定を取り消すこと、型式指定をしないこと、設置許可をしないこと 判決概要:訴えはいずれも不適法であるから却下すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。
    • 電波監理審議会への異議申し立て(2009年〈平成21年〉年6月10日)[28]
      異議申し立て概要:高速PLC型式指定処分の取消し 審議結果概要:異議申立人には処分の取消しを求める法律上の利益がなく、異議申立ては不適法であることから却下する。
    • 電波監理審議会への異議申し立て(2012年〈平成24年〉11月28日)[29]
      異議申し立て概要:本件型式指定処分を取り消しと技術基準における許容値及び測定法を見直し 審議結果概要:総務大臣の型式指定処分が電波法によって与えられた裁量権を逸脱するものではない。異議申立適格がないことから却下。
  • 認可取り消しについて
    • 2007年10月4日付けの官報(第4681号)で総務省は複数の型式指定を取り消した。「広帯域電力線搬送通信設備の型式の指定を取り消した件」(総務省告示第558号)である。認可取り消しとなったのはロジテック社のLPL-TXをはじめ、三菱電機の5種、ネットギアインターナショナル日本支社の1種、ネッツエスアイ東洋の11種の、合計18種である。その後も型式指定取り消しの官報公示は増え、合計25種となった。いずれの告示でも型式指定取り消し理由は公表されていない。
    • 2008年 - 2020年:型式指定の取り消しはない。
  • 停止命令を受ける可能性について
    • PLC機器の信号電力は数十ミリワットであるが、無線LAN等(免許を要しない無線局)と同様にして、電波法第82条が準用され、短波放送、航空無線、海上無線、アマチュア無線、電波望遠鏡など機器の近傍でPLC機器を使用したことにより、これらの無線設備の業務に対して継続的かつ重大な妨害を起こしていると確認された場合には、電波法により使用停止命令を総務大臣名で総合通信局より命じられる可能性がある[30]
    • PLC機器は屋内で使用されるため、PLC機器を使用したことによりこれらの無線業務に妨害が起きたことを立証することは、測定器を活用しない場合は困難と考えられるが、漏洩電波は、漏洩源からの距離に応じで減衰すること、広帯域変調信号であり、アマチュア無線帯域やラジオ日経放送帯域にノッチが入っていることや許可帯域内と許可帯域外の送信レベルの差異が急峻に数十dB変化する特徴的なスペクトラムを有することから、短波帯受信アンテナとスペクトラムアナライザを用いた評価をすることができれば、漏洩源を探知することは可能である[31]

問題点の告知における課題

  • 法令により、PLC機器の使用は、分電盤(大規模施設の場合、各分電盤を集約した施設全体の分電盤)の屋内側に接続され、かつ、同一の者が占有する連続した敷地内の屋内電力線および屋外電力線での使用に限定されていること
  • 既存の電力線を利用して通信を行うため、他の家電製品に影響を与えたり、受けたりする可能性があること
  • 家電製品には電気ノイズを発生するものがあり、PLC機器の通信速度低下の要因になる可能性があること
  • 医療機関及び居宅等の環境下においてPLC機器と医療機器を併用する場合には安全対策上の措置を講ずるべきこと
  • 無線通信設備の近傍で使用した場合、業務の妨害となる可能性があり、電波法に基づき使用中止命令を発せられる可能性があること
  • 無線通信設備の近傍で使用した場合、それらの無線通信設備からの送信電波により、PLC機器に通信速度低下などの現象が発生する可能性があること
  • 上記のような不利益を被っても損害賠償の対象とならないこと
  • 集合住宅等においてPLC機器同士の相互干渉により通信速度低下の要因になる可能性があること

  1. ^ kHz帯PLCの動向と需要地系通信への適用課題
  2. ^ 電力線搬送通信設備に関する研究会
  3. ^ 高速電力線搬送通信設備に関する実験制度速電力線搬送通信設備小委員会
  4. ^ a b 高速電力線搬送通信設備小委員会
  5. ^ 高速電力線搬送通信設備作業班
  6. ^ ECHONET Lite向けホームネットワーク通信インタフェース(広帯域 Wavelet OFDM PLC
  7. ^ 第3世代HD-PLCアダプター
  8. ^ 通信障害の例:コンクリート壁、金属で覆われた筐体、建物の上下階層間、地下と地上間、持ち込み外来ノイズや電波干渉による通信遮断など
  9. ^ 事例集|HD-PLCアライアンス
  10. ^ 【トピック】コンセントに挿すと通信できる「PLC」、再び注目の理由とは? 電波法改正で新たな用途- 家電 Watch
  11. ^ 総務省情報通信審議会
  12. ^ 総務省電波監理審議会
  13. ^ 総務省高速電力線搬送通信に関する研究会(第1回)資料1-4
  14. ^ 日経コミュニケーション 2005年1月31日
  15. ^ 住宅環境における屋内広帯域電力線搬送通信からの漏洩電界とコモンモード電流の測定 I(電子情報通信学会)
  16. ^ PLCについて(日本アマチュア無線連盟)
  17. ^ アメリカ無線中継連盟による警告ビデオ(18.2MiB MPEG-1 英語)
  18. ^ 日本アマチュア無線連盟による市販PLCモデムの評価実験について
  19. ^ 非常時の総務大臣の措置(総務省電波利用ホームページ)への影響
  20. ^ 電力線搬送通信が低周波電波天文観測にもたらす有害干渉への懸念 2002年7月8日 - 日本天文学会
  21. ^ ソフトバンクBBに聞く、PLCの課題と展望 - ITmedia +D LifeStyle
  22. ^ 信学論(B),vol.J89-B, no.4, pp.576–584, April 2006 電力線搬送通信信号が誘導によりVDSL 通信に与える影響の研究
  23. ^ PLC通信について~ - パナソニックよくあるご質問
  24. ^ 広帯域電力線搬送通信機器による医療機器への影響に関する医療関係者等からの照会に対する対応について
  25. ^ 槻ノ木隆のNEW PRODUCTS IMPRESSION 松下電器産業「BL-PA100KT」 - BroadBand Watch
  26. ^ 東京地方裁判所判決(2007年(平成19年)5月25日)
  27. ^ 東京高等裁判所(2008年(平成19年)12月5日)
  28. ^ 電波監理審議会への異議申し立て(2009年(平成21年)年6月10日)
  29. ^ 電波監理審議会への異議申し立て(2012年(平成24年)11月28日)
  30. ^ 電波法第八十二条 免許等を要しない無線局及び受信設備に対する監督
  31. ^ 脇坂俊幸, 松嶋徹, 古賀久雄, 奥村浩幸, 桑原伸夫, 福本幸弘「三相3線電力線を使用したPLC通信システムが建物外の電磁環境に与える影響の評価」『電気学会論文誌 A』第140巻第12号、電気学会、2020年、557-564頁、doi:10.1541/ieejfms.140.557ISSN 0385-4205NAID 130007948596 
  32. ^ 議論が再開された電力線搬送通信、既存通信と共存の道は未だ見えず - MYCOMジャーナル
  33. ^ ECC REPORT 24 - ECC REPORT 24”. 2007年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年5月16日閲覧。
  34. ^ HF Interference, Procedures and Tools”. 2007年10月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年10月26日閲覧。
  35. ^ FCC 11-160 APPENDIX D Measurement Guidelines for Broadband Over Power Line (BPL) Devices Or Carrier Current Systems (CCS) and Certification Requirements For Access BPL Devices
  36. ^ Power line communication apparatus - Radio disturbance characteristics -
  37. ^ 国際規格CISPR32第2.0版(2015-03)「マルチメディア機器の電磁両立性–エミッション要求事項」
  38. ^ COMMISSION RECOMMENDATION





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