親族 概説

親族

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/06 06:20 UTC 版)

概説

血族と姻族

  • 血族
    法において血縁の繋がっている者(血縁関係にある者)を血族という[1][2]。日本の旧民法では「血統ノ相連結スル者ノ関係」と定義されていた(旧民法人事編19条1項)。血族には自然血族と法定血族とがある。なお、「血族」の概念はあくまでも法的な観点から決定される点に注意を要する(自然の血縁関係がなくとも養子縁組は血族を擬制し、他方、生物学上の血縁関係があっても非嫡出子は父や父の血族との関係を生じるためには父の認知が必要となる〈民法第779条〉)[2][3]
    • 自然血族
      相互に自然の血縁関係(生物学上の血縁関係)にある者を自然血族という[4][1]。直系・傍系を問わない[2]。また、法律上の婚姻によるか否かを問わない(ただし、日本の現行民法では嫡出推定認知親権扶養相続などの点で法律上の差異がある)[2]
    • 法定血族
      法律の規定により血族とされる者。準血族あるいは人為血族ともいう[4][2]。日本の現行民法では養子縁組による血族関係のみが法定血族となっている。明治民法(旧728条)では養子関係のほか継親子関係(父の後妻と先妻の子との間)や嫡母庶子関係(父の家に入った父から認知された庶子と父の妻との間)も法定血族とされていたが、現行民法では姻族関係にとどまる[1]
  • 姻族
    配偶者の一方からみて他方配偶者の血縁関係にあたる者[5]。婚姻関係にある配偶者の一方が、単独で養子として縁組を行った場合、養親と他方配偶者との間に姻族関係が成立するかについては見解が分かれる。

親系の種別

血統の連絡の関係を親系という[6]。以下のような種別がある。

直系と傍系

血統が直上直下で連結する親族関係を直系あるいは直系親という[7][8]祖父母子供などがこれに含まれる。つまり、本人から見て、親の親の親…、あるいは、子の子の子…、で繋がる関係をいう。

血統が共同の始祖より直下する異なった親系に属する者相互の間の親族関係を傍系あるいは傍系親という[7][8]兄弟姉妹おじおばなどがこれに含まれる。わかりやすく言えば、本人及びある先祖の兄弟姉妹の子孫をいう。

誤用されがちであるが、直系・傍系を本家(嫡流)・分家(庶流)の意味で用いるのは誤りである。直系・傍系とは、あくまで、ある人物から見た相対的な生物学的血統上の関係をいうのであるから、分家の人物から見た本家の人物は傍系である。あくまで生物学的血統上の相対関係であるから、家筋や家系とは一切関係がない

父系と母系

父及びその血族親を父系(父系親、父方)、母及びその血族親を母系(母系親、母方)という[6]

男系と女系

男系とは、父の父の父…というように男親のみを辿る血統であり、女系とは、母の母の母…というように女親のみを辿る血統をいう。 血統がもっぱら男子で連絡する場合を男系あるいは男系親といい、それ以外の場合を女系あるいは女系親とする見解もある[6]

尊属と卑属

自分より前の世代に属する者を尊属という[7]。尊属には祖父母などが含まれる。

一方、自分より後の世代に属する者を卑属という[7]などがこれに含まれる。

尊属と卑属の区別は、現在では尊属を養子とすることを禁じた民法第793条くらいで法律効果はほとんどないに近いとされる[9]

自分と同世代の者には尊属・卑属の区別はない[10]。また、尊属と卑属の区別は血族に関するもので姻族にはこれらの区別はないとされる[10]

なお、「尊属」と「卑属」という語は、儒教が起源の古代中国の輩行制度に由来するとされるが[11]、親や祖父母の世代を「尊属」、子や孫の世代を「卑属」と呼ぶのは「子供を蔑む言い方だ」など法の下の平等から問題であるとする論[12]や、これらの語は現代においては適切でないとして改めるべきとの論[13]がある。しかし、他の語に変えようがないのが現状とされる[14]


注釈

  1. ^ a b 1日でも早く出生していれば年長者に該当する。

出典

  1. ^ a b c 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、5頁
  2. ^ a b c d e 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、91頁
  3. ^ 前田陽一・本山敦・浦野由紀子著 『民法Ⅵ 親族・相続』 有斐閣〈LEGAL QUEST〉、2010年10月
  4. ^ a b 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)46頁
  5. ^ a b c d 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)47頁
  6. ^ a b c 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、103頁
  7. ^ a b c d 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)40頁
  8. ^ a b 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)49頁
  9. ^ a b c d 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、7頁
  10. ^ a b c d e f 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)41頁
  11. ^ a b c d e f g h 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、106頁
  12. ^ a b c 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)50頁
  13. ^ 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)40-41頁
  14. ^ a b c 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、5頁
  15. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、84頁
  16. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、107頁
  17. ^ Schwimmer, Brian. “Systematic Kinship Terminologies”. 2016年12月24日閲覧。
  18. ^ Lounsbury, Floyd G. (1964), “A Formal Account of the Crow- and Omaha-Type Kinship Terminologies”, in Ward H. Goodenough (ed.), Explorations in Cultural Anthropology: Essays in Honor of George Peter Murdock, New York: McGraw-Hill, pp. 351–393 
  19. ^ 金泰虎 (2008). “日韓社会の人間関係における「兄」について ─ 呼称と名称を中心とした特徴の比較─”. 言語と文化 (甲南大学国際言語文化センター) 12: 123-150. https://doi.org/10.14990/00000469. 
  20. ^ 世界諸言語のキョウダイ名 —その多様性と普遍性—”. 2024年1月27日閲覧。
  21. ^ a b 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、7頁
  22. ^ a b 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、96頁
  23. ^ 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)37頁
  24. ^ a b 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、39頁
  25. ^ 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)42頁
  26. ^ a b 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)44頁
  27. ^ a b c 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、8頁
  28. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、85頁
  29. ^ 我妻榮編著 『判例コンメンタール〈Ⅶ〉親族法』 コンメンタール刊行会、1970年、45頁
  30. ^ 我妻榮・有泉亨・川井健『民法3 親族法・相続法 第2版』勁草書房、2005年10月、32頁
  31. ^ a b 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、40頁
  32. ^ 二宮周平著 『家族法 第2版』 新世社〈新法学ライブラリ〉、2005年1月
  33. ^ 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、43頁
  34. ^ a b 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、92頁
  35. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、93頁
  36. ^ 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、43-44頁
  37. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、95頁
  38. ^ a b c 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、44頁
  39. ^ 谷口知平編『新版 注釈民法〈21〉親族1』有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉1989年12月、99頁以下






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