空気マグネシウム電池 使用済みマグネシウムの再生

空気マグネシウム電池

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/08 06:27 UTC 版)

使用済みマグネシウムの再生

  • 石炭を燃やしてマグネシウムを製造するピジョン法、海水を電気分解する方法など、環境に優しくない再生法から脱却する方法として、太陽光、風力、地熱などの自然エネルギーとレーザーを組み合わせた、現在実用化に最も近いとされるマグネシウム循環社会は矢部東工大教授によって2006年、世界で初めて提案された。[9]このことが評価されて、矢部は米国タイム誌で、2009年環境のヒーローとして選ばれた。[10]
  • このようなシステムはマグネシウム文明、マグネシウム循環社会として書籍としてまとめられている。[11][12]
  • 電池の放電によって生成される水酸化マグネシウムは安定した物質であるため金属マグネシウムにリサイクルすることは容易ではない。触媒とともに真空中で約2200℃に加熱することにより還元できるため、小濱は太陽炉によるマグネシウムリサイクルを提案している[13]
  • このような太陽熱によるマグネシウムの再生は、ピジョン法に代わるマグネシウムの生産方法として、昔から研究されてきており、すでに1995年にMurrayらは[14]太陽熱と炭素還元剤を使用した実験を行っている。彼らは2234度の高温を30分間持続させて、マグネシウムの再生に成功しているが、生成マグネシウムの割合はわずか9%であった。このように、太陽だけを利用する場合には、あまりにもマグネシウム生産量が少なく、実用には無理であるとの試算もあり[15]、実用化に至っていない。大量に発生するマグネシウム蒸気の、光を導入する窓への付着や、炭素還元剤を使用した場合に発生する二酸化炭素等々の問題により、単純な太陽炉でのエネルギー循環は、まだ未解決の部分が多い。
  • これに対して、東京工業大学の矢部孝らは、太陽光から生成されたレーザーや、自然エネルギーから得られる可能性のある半導体レーザーを用いたマグネシウム再生を提案しており[16]、従来のピジョン法の約4倍の効率を実験により実現している[17][18]
  • ここで、このような巨大なエネルギーがどうして必要なのかを示す。1gの酸化マグネシウムを4000度にするために必要なエネルギーは4kJだ。これに対し、ピジョン法では、1gのマグネシウムを作るために10gのコークスを使っている。この熱量は300kJである。逆に、1gのマグネシウムが発するエネルギーは25kJなので、このエネルギーを与えないとマグネシウムができないことも当然である。これからも、ピジョン法がいかにエネルギー効率が悪いかわかるだろう。もっと大事なことは、マグネシウムを再生するためのエネルギーは酸化マグネシウムを4000度にする4kJよりもはるかに巨大なエネルギーが必要なことである。これは、酸化マグネシウムをマグネシウムに分解するエネルギー、マグネシウムを蒸発するエネルギーが余分に必要だからである。だから、4000度に加熱した後も、その5倍以上のエネルギーを与えないとマグネシウムが生成できないのである。

  1. ^ Messina, John (2010年4月23日). “Magnesium: Alternative Power Source”. 2010年6月7日閲覧。
  2. ^ MagPower Systems
  3. ^ MAFC verses HFC (Hydrogen Fuel Cell)”. 2010年6月7日閲覧。
  4. ^ a b c WIRED VISION. “次世代電池レースで脚光を浴び始めた「マグネシウム電池」”. 2010年6月9日閲覧。
  5. ^ サイエンスZERO 2013年3月10日放送内容より
  6. ^ “無尽蔵な原料で次世代電池”. 毎日新聞. (2022年5月12日) 
  7. ^ "ホントに使える”マグネシウム電池が登場 次世代バッテリーの本命は循環社会への切り札”. 2022年7月23日閲覧。
  8. ^ 電気自動車”. 2022年7月23日閲覧。
  9. ^ T.Yabe et.al. (2006). “Demonstrated fossil-fuel-free energy cycle using magnesium and laser”. Applied Physics Letters 89: 261107. 
  10. ^ “Heroes of the Environment. (Scientists, Innovators)”. TIME. (2009年10月5日) 
  11. ^ 『マグネシウム文明論-石油に代わる新エネルギー資源』PHP新書、2010年1月5日。 
  12. ^ Magnesium - Key Material to Energy and Environment. LAMBERT Academic Publishing. (2016) 
  13. ^ a b 世界初「高性能マグネシウム燃料電池」を共同開発(東北大学) (PDF)
  14. ^ Murray,J.P., Steinfeld,A. and Fltcher,E.A., "Energy" 20, 1995, p.695
  15. ^ Abu-Hamed, Karni,J. and Epstein,M., "Sol. Energy" 81, 2007, p.93
  16. ^ a b c 矢部他、"太陽光レーザーが拓く新エネルギー"、日経サイエンス2007年11月号,p.30-40
  17. ^ Mohamed,M.S., et.al., Journal of Applied Physics, vol.104, (2008)113110
  18. ^ Liao,S.H., et.al.,Journal of Applied Physics,vol.109, (2011) 013103
  19. ^ 矢部他,"太陽エネルギーと蓄積", 学術月報 2006年2月号Vol.59-2 p.125-129
  20. ^ “マグネシウム循環社会構想”. https://www.youtube.com/watch?v=NCAd2LRoyfo 
  21. ^ 特開2012-15013号公報
  22. ^ "夢のマグネシウム電池ってなんだ!?"、プレイボーイ2013年3月11日号p.134-135
  23. ^ “マグネシウム電池搭載 3輪EV、100キロ走破”. 河北新報. (2012年12月12日). http://www.kahoku.co.jp/news/2012/12/20121212t72015.htm 2012年12月17日閲覧。 
  24. ^ タンデムstyle2013年5月春の特大号 ASIN: B00BPWK6RY 2013年3月23日発売
  25. ^ 軽金属通信 2013年1月18日 第4304号"共に世界初、日本はいわき・仙台市間百km"
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  27. ^ a b “インタビュー:マグネシウム電池の開発に本腰=藤倉ゴム常務”. ロイター. (2014年2月5日). https://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA1404O20140205?pageNumber=1&virtualBrandChannel=14173 2014年1月18日閲覧。 
  28. ^ a b c “スマホを30回充電できるマグネシウム電池、太陽炉の実証実験も始まる”. ITmedia. (2014年3月4日). https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1403/04/news032.html 2014年8月10日閲覧。 
  29. ^ a b “シート1枚でスマホ充電可能 マグネシウム電池製品化へ”. 47NEWS. (2014年6月10日). https://web.archive.org/web/20140611121830/http://www.47news.jp/CN/201406/CN2014061001002034.html 2014年8月10日閲覧。 
  30. ^ a b “矢部東工大教授が会長のベンチャー㈱エネルギー創成循環がマグネシウム電池開発 販売へ”. ジェイシーネット. (2014年6月10日). http://n-seikei.jp/2014/06/post-22472.html 2014年8月10日閲覧。 
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  34. ^ “古河電池が4日連続ストップ高 水で発電する電池に引き続き注目”. 産経新聞. (2014年9月3日). https://web.archive.org/web/20140903213821/http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140903/biz14090318560017-n1.htm 2014年9月4日閲覧。 
  35. ^ a b “古河電池、マグネシウム空気電池「マグボックス」を開発-非常時に水・海水で発電”. 日刊工業新聞. (2014年9月3日). http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0320140903bfau.html 2014年9月4日閲覧。 
  36. ^ “「水を注ぐ電池」の古河電池株、5日連続ストップ高ならず 一時あと30円”. 産経新聞. (2014年9月4日). https://web.archive.org/web/20140905022817/http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140904/biz14090415090009-n1.htm 2014年9月7日閲覧。 
  37. ^ “ブログ:マグネシウム電池は「死の谷」越えるか”. トムソン・ロイター. (2015年6月5日). https://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OL02Z20150605 2015年6月20日閲覧。 
  38. ^ マグボックス公式サイト
  39. ^ a b “マグネシウム電池量産へ 中国で工場建設計画”. 産経新聞. (2015年12月18日). https://www.sankei.com/photo/story/news/151218/sty1512180006-n1.html 2016年1月5日閲覧。 
  40. ^ 日経産業新聞 2017年1月27日「リチウム後継」実用段階へ
  41. ^ a b 京都大学公式サイト>研究>お知らせ>「高エネルギー密度・高安全性・低コスト二次電池の開発に成功 -リチウムからマグネシウム金属へ-」
  42. ^ a b c “京大、マグネシウムで2次電池 リチウム使わず”. 日本経済新聞. (2014年8月11日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG0900N_R10C14A8TJM000/ 2014年8月15日閲覧。 
  43. ^ a b c “リチウムイオン電池の代替、マグネシウムで実用化へ ホンダなど”. 日本経済新聞. (2016年10月9日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB08H12_Y6A001C1MM8000/ 2016年10月9日閲覧。 


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