生体認証
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/28 11:35 UTC 版)
概要
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生体認証では、通常「テンプレート」と呼ばれる情報を事前に採取登録し、認証時にセンサで取得した情報と比較することで認証を行う。単に画像の比較によって認証とする方式から、生体反応を検出する方式まで様々なレベルがある。
暗証番号、パスワードや物による認証では、忘却や紛失によって本人でも認証できなくなったり、漏洩や盗難、総当り等の攻撃によって他人が認証される虞れがある。生体情報の場合はそれらの危険性が低いと一般には考えられている事から、手軽な認証手段(キー入力や物の携帯が不要)、あるいは本人以外の第三者が(本人と共謀した場合でも)認証されることを防止できる手段として、建物などの入口、キャッシュカードやパスポート(入出国時)などの認証手段に採用されている。
しかし、広く一般に使用されるためには、怪我・病気・先天性欠損などによって生体認証ができない人々への対応も必要になる。また、経年変化によって認証ができなくなったり、複製によって破られたりする可能性がある。生体情報はパスワードのように任意に更新することができないため、一度複製により突破されてしまうと、同一の認証基盤ではもはや安全性を回復できなくなる、致命的な問題を持っている。現時点では実際に生体情報の複製や偽装に対する安全性が疑問視されている製品もある(後述のセキュリティの項を参照)。
実用例
現在、利用件数が多いものには指紋、瞳の中の虹彩が挙げられる。金融機関がATMに採用したことで、指、手のひら、手の甲などの血管の形を読み取る静脈認証も利用件数が増えつつある。また、携帯電話(スマートフォン)にも採用されている。他にも、声紋、顔形、筆跡などによる認証が実用化されている。
認証の際には専用の読み取り機を用いて生体情報を機械に読み取らせることで、本人確認を行う。生体認証単独で用いられるだけでなく、カードやパスワードや暗証番号と組み合わせることも多い。
- 電算機(コンピュータ)などの利用時、あるいは電子制御された出入口に、あらかじめ登録された本人を確認する目的でなされる。
- パーソナルコンピュータのログイン時に、専用デバイスを用いて指紋認証を行う。
- 携帯電話やスマートフォンを使用する際に、携帯電話の一部分に指を押し当てたり、虹彩認識を行って、ロック解除や決済の認証をするものがある。簡易な顔認証、音声認証は標準装備されているものがある。
- 銀行のATMで暗証番号と共に指ないし手のひらの静脈の形を読み取って本人確認を行う。
- 国や企業で、個人情報や極秘情報を取り扱う部屋に入るために網膜認証を利用している。
- 奈良市では、環境局において、勤務中の中抜けや勤務時間の不正申告などを防止するため、出退勤時のチェックに静脈認証を導入することを決めている。これに対し、職員の間からは「犯罪者扱いだ」などの反発の声もある[2]。
- 日本赤十字では、献血者の本人確認のため、指静脈認証を(2014年5月14日、北海道から順次)採用している[3]。
- 日本の法務省では、指紋と顔を用いた出入国管理システム「J-BIS」を日本の空港に導入している。
- 「インド固有識別番号庁」(UIDAI)は2010年、国民一人一人の指紋や虹彩による生体認証と組み合わせた12桁のアドハー(Aadhaar)番号の付与を開始した(国民総背番号制を参照)。全人口の9割以上をカバーしており、出生届など身分を証明する書類が不備な貧困層も社会保障など行政サービスを利用でき、不正防止や手続き効率化の効果を上げている[4]。
日本の銀行ATMの動向
日本の銀行では2000年代に生体認証機能を持つキャッシュカードとATMの導入が広がったが、2020年代に入り、それを廃止、さらには代替手段へ変更する動きがある。
- 三菱UFJ銀行
- ゆうちょ銀行
- イオン銀行
- 地方銀行等
- 池田泉州銀行 - 2018年9月28日、指静脈(生体認証)新規登録終了[14]。手のひら静脈認証は継続
- スルガ銀行 - 2020年5月24日、生体認証ICキャッシュカードの発行停止[15]
- 山陰合同銀行 - 2020年10月30日、生体情報登録サービスの取扱終了[16]
- 沖縄銀行 - 2021年1月20日、ICカードにおける生体認証機能の新規登録中止[17]
- 北都銀行 - 2021年2月28日、生体認証サービスの取り扱い終了[18][19]
- 秋田銀行 - 2021年3月31日、キャッシュカードの生体認証機能取扱終了[20]
- みちのく銀行 - 2021年7月30日、生体認証情報の新規登録・再登録取り扱い終了[21]
- 百五銀行 - 2021年9月30日、生体認証サービス終了[22]
- 伊予銀行 - 2022年1月20日、生体認証の新規登録・変更を終了[23][24]
- 大分銀行 - 2022年6月30日、キャッシュカードへの生体情報登録の取扱い終了[25]
- 佐賀銀行 - 2022年12月30日、生体認証情報登録終了[26]
- 荘内銀行 - 2022年12月31日、生体認証サービスを終了[27]
- 三十三銀行 - 2023年2月28日、指静脈認証機能の新規登録の受付を終了[28]。2024年1月31日サービス終了[29]
- 宮崎銀行 - 2023年4月28日、生体認証情報の新規・変更・解除の取り扱いを終了[30]
- 南都銀行 - 2023年5月31日、手のひら静脈認証の新規登録終了。12月31日、ATMや窓口での利用終了[31]
- 福岡銀行 - 2023年8月24日、指静脈認証を終了し、顔認証を導入することを発表[32]
- 熊本銀行 - 2023年8月24日、指静脈認証を終了し、顔認証を導入することを発表[33]
- 愛知銀行 - 2023年8月31日、生体情報の登録、変更、削除の手続き終了。12月20日、ATMでの生体認証取引終了[34]
- 名古屋銀行 - 2023年9月12日、手のひら静脈認証のATM取引を終了[35]
- 山形銀行 - 2023年10月1日、生体情報受付停止。2024年3月31日サービス取り扱い終了[36]
- 肥後銀行 - 2023年10月13日、新規申込終了。2024年3月31日サービス終了[37]
- 神奈川銀行 - 2023年10日31日、生体認証情報の新規・変更・解除の取り扱いを終了[38]
- 鹿児島銀行 - 2024年3月29日、新規発行停止。2025年3月31日、ATMでの生体認証取引終了[39]
- 信用金庫、信用組合
- 農業協同組合
廃止理由
生体認証廃止の理由について、ゆうちょ銀行は「顧客の利用状況などを踏まえて判断した」と説明し[49]、三菱UFJ銀行は「インターネットバンキングの普及で、利用者が減っている」こと、キャッシュカードの偽造防止技術が高度化しており「手のひら静脈を使った高度な認証の必要性も薄れた」ことを挙げている[50]。
2000年代の生体認証機能付きキャッシュカードとATMは、
- キャッシュカード - ICチップ内に生体情報を書き込む。登録機は店舗にしかなく、登録のため顧客が来店する必要がある。また情報の複製はセキュリティ上不可としており、カード再発行時は再登録が必要
- ATM - 静脈認証等の読み取り装置が必要
- 登録機 - 各店舗窓口に登録機が必要
といった構成で、顧客側の利便性に欠け、銀行側も装置コスト負担の大きいものであった。
代替手段(スマホATM)
2020年代に入り、FIDO準拠の生体認証機能を備えたスマートフォンが普及し、スマートフォンの生体認証機能と組み合わせたATMの普及が始まっている。「スマホATM」と称し、上掲のゆうちょ銀行の他、セブン銀行[51]、auじぶん銀行[52]、きらぼし銀行[53]、GMOあおぞらネット銀行[54]、四国銀行[55]、島根銀行[56]、住信SBIネット銀行[57]、西日本シティ銀行[58]、PayPay銀行[59]、みんなの銀行、UI銀行[60]、ローソン銀行[61]、イオン銀行[62]などが導入している。
「スマホATM」は、顧客は来店を伴う生体情報登録の必要が無く、銀行側もアプリの開発負担はあるものの、店頭やATMへの生体情報登録/読取装置の設置が不要であり、コスト削減効果が高い。みんなの銀行はキャッシュカード自体も不発行である。当該顧客のスマホと連動するためATMにQRコードを表示する等の改修も必要だが、上掲の導入銀行の中には提携先のコンビニATM(セブン銀行またはローソン銀行)でのみ対応し、自行ATMは「スマホATM」非対応としているところもある。
注釈
- ^ アメリカミシガン州立大学のAnil Jainによる定義[要文献特定詳細情報]では、「バイオメトリクス」一語でも生体認証技術を現すとされる。この定義に従うと「バイオメトリクス認証」は二重表現ともとれるが、バイオメトリクスという単語には「指紋など生体特徴情報そのものを示す意味」と「それら生体特徴情報を用いた認証まで含む意味」との二通りが有り、前者の解釈を採用すればバイオメトリクス認証という言葉も間違いではない。実際に専門文献(『バイオメトリックセキュリティ・ハンドブック』[要ページ番号])などでも、生体認証をあらわす表現として、「バイオメトリクス」「バイオメトリクス認証」「バイオメトリック認証」の各表現が混在しており、特に区別されず同様の意味として用いられている。これは英語表現においても同様である[1][出典無効]。ただし、biometricsは名詞、biometricは形容詞であるので、名詞・形容詞を区別する必要が有る文脈では当然区別される[要出典]。なお、一般の書籍においては「バイオメトリックス」の表記が用いられることがしばしば有るが、専門書・技術文献ではこの表記はあまり使われない[要出典]。
- ^ あくまでも電子パスポートなどに使用されるドイツの個人識別装置用の生体認証データの使用について異議を申し立てるためと語っている[要出典]。
出典
- ^ 本稿英語版ページの冒頭を参照
- ^ “奈良市環境部:出退勤に静脈認証を導入へ 反発の声も”. 毎日新聞 2013年2月8日. 2013年2月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月12日閲覧。
- ^ “献血の受付方法が変わります!~5月、北海道からスタート”. 日本赤十字. 2017年1月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年1月13日閲覧。
- ^ 「第22回日経アジア賞 経済部門ナンダン・ニレカニ氏(インド固有識別番号庁初代総裁)11億人にID 貧困改善へ」『日本経済新聞』朝刊2017年5月1日
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- ^ “国内銀行初!キャッシュカードも暗証番号も不要!「指紋+静脈」の2要素生体認証による銀行取引の開始”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2023年5月15日閲覧。
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- ^ 「生体認証」破り入国、韓国人女がテープで指紋変造[リンク切れ] 読売新聞 2009年1月1日
- ^ 「指紋がネットで狙われている! 手の画像は悪用恐れ… 国立情報学研が新技術の実用化目指す」『産経新聞』、2017年1月9日、1-2面。2023年5月19日閲覧。
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