水着 競泳水着

水着

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 05:00 UTC 版)

競泳水着

SPEEDO レーザー・レーサー
Jaked FINA認定水着

競泳水着は1970年代以降、素材の改良やデザインの見直しが常に行われ、記録の向上に寄与してきた。そんな中で水着の製造・販売に携わるスポーツ用品メーカーの競争が繰り広げられ、業界再編に繋がるケースも出てきた。

国際水泳連盟(Fina、現:世界水泳連盟〈WA〉)は2007年、「北京オリンピックから、水着表面に(高速化のための)特殊な加工を施すことを禁じる」決定を行った。これにより各メーカーでは、「鱗入り」「突起付き」「ストライプ入り」水着の製造中止に追い込まれた。このルールの周知を徹底させるため、国によっては新ルールを前倒しで実施して大会を行うケースもある。そうした中、SPEEDO社が開発した「レーザー・レーサー」をめぐり、2008年、全世界の水泳界で大きな騒ぎとなった。

2009年7月24日に、国際水泳連盟は総会で2010年1月1日からラバー皮膜やポリウレタン皮膜等の非透水性素材を使用した水着を全面禁止にする新規定案を固め、素材は布地製に限定されることになった。水着が覆っても良い範囲は、男子は臍から膝まで、女子は首を覆わない範囲から膝までに限定され、さらに素材の厚みや浮力についての規制も強化された[6]

バーコードシステム

さらにそれらを担保するため、新たに二次元コードを利用した水着管理システムを導入し、お尻にFina規格承認バーコードが無い水着を公式大会で着用することを全面的に禁じた。1年の猶予を経て、日本を含め2011年4月から全面実施に移行している[7][リンク切れ]

バーコードにはメーカー・型式・承認時期などのデータが記録され、更に個別の承認番号も記されている。大会では概ね次のように運用される。この検査は目視確認との併用を原則とする。目視確認は、商標等の大きさに関する規定が守られているかや、「同一種目の予選から決勝までは同一の水着を着用しなければならない」というFinaルールが守られているかを把握するために行われる。

  1. まず予選で招集時に尻のバーコードがあるかを確認すると同時にデータをスキャンし、運営本部等のサーバーに登録されている承認水着のデータと合致するかどうかを確認する。バーコードがあってもサーバーデータと合致しなかった場合、水着ルール違反ということで失格扱いになる。これは将来の水着ルール改正にも対応できるようにする狙いがある。スキャンしたデータは選手の個人情報と結びつけ、保存する[注釈 3]
  2. 準決勝以降もやり方は同様であるが、新たにそれまでに読み込んだデータとも合致するかの照合も行われる。これは、「同一種目同一水着着用」規定に違反していないかどうかを確認するためでもある。
  3. 当初はバーコードスキャンは規模の大きな大会を除いては実施が難しい場合があり、その場合は目視確認のみとなることもある。

劣化によって承認バーコードが剥がれることも十分に考えられる。その救済策も用意されてはいるが、バーコードが剥がれた水着については競技用として使い続けるのは望ましくなく、普段の練習用に下ろすしかないのが実情である。

2013年元日の時点では、バーコード導入後の大きな水着規則改正が行われていないこともあり、バーコードがありながら承認取り消しとなったケースは特に無い。

素材

20世紀後半においては、水着の素材としてはナイロンポリウレタン=4:1の比率で混紡された糸を使った織布が一般的であった。ポリウレタンを混ぜたのは、ナイロンが可塑性に乏しく[注釈 4]、これを補うためであったが、ウレタンの化学的性質により劣化しやすいという水着の欠点のもととなった。

1980年代後半になると、この問題を解決すると同時に糸を細くするためナイロンに替わってポリエステルをベースとする糸が布のもととなるケースが増え、後に競技用水着素材の主流となった。しかし2010年代実施のFinaの水着規則改正後、トップスイマー用の水着で敢えて締め付け効果を得るため再びナイロンベースの布が使用されるようになっている。

水着で用いられるポリウレタン糸は、デュポンが開発したスパンデックス(商品名「ライクラ」)が広く用いられており、デュポンが米国の同族経営企業「コーク・インダストリーズ」に売却した子会社である「インビスタ」が事業を担う。日本ではインビスタと東レの合弁企業が供給している。

主なブランド

競泳用水着のブランドは多様化しており、各陣営がオリンピックや世界選手権の場を利用して勢力拡大を図っている。以下に、Finaが競技用として承認した主なブランドを纏める。企業名横の英字はFinaにおける水着承認コードの企業名。

ブランド 展開企業 日本におけるパートナー 備考
adidas adidas社( ドイツAD アディダスジャパン(日本子会社)
  • 元は後述arena社を子会社として設立したが、経営再建過程で分離。 自社で水着の事業展開を本格化させた。
arena arena社( フランス イタリアAR デサントDE
  • デサントはarenaの元親会社・adidasの日本ライセンシーを失った見返りとして、アジア太平洋地域の一部国家における事業展開権を得た。
  • Finaでは別企業として扱われている。
asics アシックス( 日本AS
  • 後述・DIANAとの提携で競技用水着を展開していたが、 現在競技用は自社ブランドで展開。
DIANA ディアナ社( イタリアDI アシックス
  • アシックスは競技用を自社展開して以降、女性用フィットネス水着のみを販売している。
Jaked ジャケッド社( イタリアJA フットマーク
  • 2008年立ち上げの新興ブランド。
MIZUNO ミズノ 日本MI
  • 長くSPEEDO陣営の一員として数々の先端技術開発を担ってきたが、2006年末、創業100年を機に「全商品を自社ブランド化する」方針を明確にし、SPEEDOとのアジア地区パートナー契約を2007年5月で終了させた。以後、「MIZUNO SWIM」として自社展開を図る。
NIKE ナイキ社( アメリカ合衆国NI フットマーク
  • かつてはナイキジャパン(日本子会社)が直接販売を担当していたが、2011年よりフットマークがナイキジャパンを介する形でナイキ米本社とライセンス契約を結び、NIKEブランド水泳用品の日本国内における企画製造販売を行っている。ただし日本国内では児童・生徒向けのスクール水着やフィットネス向けがメインで、競技用水着はラインナップに含まれていない。
SPEEDO スピード・インターナショナル( イギリスSP 三井物産

(国内生産担当:ゴールドウイン

  • 三井物産・ゴールドウイン連合はミズノがSPEEDOとのアジア地区パートナー契約を2007年5月で終了・撤退後に後を引き継ぐ形でライセンス契約を締結。
TYR ティアスポーツ( アメリカ合衆国TY
  • 日本では、1990年代にライトアベイルが代理店となり販売を担当していた(水着も日本国内で製造)が、2022年7月以降、米本社がデザインに関する規制を強化したことを受け、ライトアベイルは代理店契約を事実上終了させ、自社ブランド「RA」の立ち上げに至った。
YINGFA 東莞市英発実業有限公司( 中国YI
ZOKE 洲克( 中国。ZK)

世界ではフランスの「arena(アリーナ)」と英国の「SPEEDO(スピード)」の両陣営がメジャーとなっており、これにイタリアの「ディアナ(DIANA)」、日本の「アシックス(ASICS)」が続く。アメリカの「ナイキ(NIKE)」、ドイツの「アディダス(adidas)」なども世界市場に食い込んでいる。

かつて日本国内ではarenaを展開するデサント、SPEEDOとの契約を解消したミズノ、アシックスの3社が日本水泳連盟から各競技代表選手への水着供給メーカーとして指定されてきたが、ミズノと袂を分かったSPEEDOが開発した「レーザー・レーサー」が競泳界を席巻したことで状況が一変。日本水連は2008年北京オリンピック代表選手が着用する競泳水着について、前述の国内3社に加え「レーザー・レーサー」の着用も認めることを決めた[8]。その後2010年には日本代表の水着とキャップのサプライヤー契約を国内3社以外のメーカーからも公募することを発表した[9]

レーザー・レーサーの登場を受けて競合各社も技術力をつけてきたことや上記海外勢が日本への展開を本格化させたこともあり、国内各社も独自の世界戦略をとっているが、その中で2022年4月、アシックスが日本水泳連盟との「オフィシャルサプライヤー契約」を2022年度限りで解除することが明らかになった[10]。アシックスの経営戦略の一環とみられ、同社の取扱商品からも水着が姿を消した[注釈 5]2024年2月現在、日本水連公式サイトのトップページにはオフィシャルサプライヤーとしてアリーナとミズノのロゴが表示されている。


注釈

  1. ^ 競泳用を含め水着素材に多用されているスパンデックス(ポリウレタン)はプールや海中に含まれる塩素に特に弱く、着用後のメンテナンスを十分に行わなければ劣化の進行がより速くなる(大気中の水分だけでもポリウレタンの加水分解による劣化が進むため、回避できない)。
  2. ^ ブリーフ型の競泳水着については、ミズノでは「Vパンツ」、arenaデサント)では「リミック」、SPEEDOゴールドウイン)では「ショートブーン」とそれぞれ呼んでいる。
  3. ^ 日本では2006年以降、各都道府県等水泳連盟への選手登録・出場登録は全て「SWMSYS」と呼ばれる電算システムにより行われており、その登録データを利用する。後にインターネット経由に統一。
  4. ^ 一例がストッキングの伝線現象である。
  5. ^ アシックスの公式サイト上にあるASICS CATALOG JP(電子カタログ)でも22SS(2022年版)を最後に水着関連カテゴリが消えている。

出典

  1. ^ 青岛海底世界 - 旅游
  2. ^ 青岛海底世界 - 青岛海底世界门票60元/人
  3. ^ 青岛海底世界 - “美人鱼”表演艺术体操
  4. ^ 青岛海底世界 - 潜水员在水下表演
  5. ^ 「男女同形の水着 欲しかった/体形隠し 日焼け防ぎ 着替えは楽/100校が導入検討/学校現場の要望 きっかけに」朝日新聞』夕刊2022年8月16日1面(2022年8月28日閲覧)
  6. ^ a b 国際水連理事会広報58号”. 国際水泳連盟 (2009年7月28日). 2009年8月30日閲覧。
  7. ^ 水着ならびに記録の取り扱いについて』(PDF)(プレスリリース)日本水泳連盟、2011年6月5日http://www.swim.or.jp/11_committee/06_project/pdf/1106071.pdf2011年7月28日閲覧 
  8. ^ 日本水連、五輪代表選手にスピード製水着の着用認める”. AFPBB News (2008年6月11日). 2024年2月24日閲覧。
  9. ^ 競泳代表水着“自由化”3社外からも公募”. 日刊スポーツ (2010年5月7日). 2024年2月24日閲覧。
  10. ^ アシックス、日本水連とのサプライヤー契約解除へ 水着など提供”. 産経新聞 (2022年4月28日). 2024年2月27日閲覧。
  11. ^ 水着用のインナーって必要?インナーショーツの必要性とおすすめのインナーショーツをご紹介!”. エンドレスサマーライフ (2022年10月20日). 2023年12月31日閲覧。
  12. ^ 【コレで解決】水着のアンダーショーツ(インナー)って必要なの?” (2015年6月15日). 2023年12月31日閲覧。
  13. ^ スイムウェア(水着)のインナーショーツとは?必要性や男女別の種類などを紹介”. ULLR MAG. (2020年8月13日). 2023年12月31日閲覧。
  14. ^ ベビー用スイムウェア(水着)を選ぶときに注意したいポイントは?”. ULLR MAG. (2020年7月30日). 2023年12月31日閲覧。
  15. ^ a b c d 透けの有無は水着を着用して入浴するかシャワーを浴びてたっぷり水着に水分を吸収させた上でなどを使って確認する水着にインナーは必要?”. Life Adviser Queen (2017年6月17日). 2024年1月1日閲覧。
  16. ^ 男児用水着のインナー生地を確認しましょう -陰茎部の皮膚が挟まり、取れなくなることも-”. 独立行政法人国民生活センター (2021年7月15日). 2024年1月1日閲覧。
  17. ^ もう悩まない!小学生の女の子の水着を選ぶ3つのポイント【サイズ・デザイン・価格】”. JS-CUTE (2023年5月28日). 2023年12月31日閲覧。
  18. ^ 小学生女子の水着のパットはいつから?種類別の付け方と選び方”. 転妻ハック (2020年4月11日). 2023年12月31日閲覧。
  19. ^ 女子だけの秘密…水着を着る時の必須アイテム「ヌーブラ」「パッド」の違いは?バストメイク術もご紹介!”. PEAK&PINE (2023年6月15日). 2023年12月31日閲覧。
  20. ^ 小学生の水着おすすめ10選【男の子&女の子】セパレートや丈長めなど種類が豊富!”. マイナビおすすめナビ (2023年5月8日). 2024年1月1日閲覧。
  21. ^ 北京市、「非文明的」行為を禁止 公衆衛生の向上目指す AFPBB News(2020年4月27日)
  22. ^ 男性が腹を出す「北京ビキニ」、中国済南市で禁止に 「非文明的」CNN(2019年7月5日)2022年8月28日閲覧






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