日本海呼称問題 日本政府の対応

日本海呼称問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/18 20:50 UTC 版)

日本政府の対応

日本政府は、韓国・北朝鮮両国のこうした主張を「根拠の無い主張」であるとしており、「日本海」の呼称は地理学的・歴史的に広く定着し、国際的に確立された唯一の名称であるとの立場を採っている。2012年、野田佳彦首相は次のように答弁している。

政府としては、日本海の名称をめぐる問題に関し、韓国側の主張に対して断固反駁するとともに、日本海の名称が当該海域の国際的に確立した唯一の名称であることについて、国際社会において正しい理解を得るべく、引き続き努力していく考えである[21]

当事国以外の国・機関の動向

国連の立場

国際連合事務局2004年3月10日、日本政府からの照会に対し、「Sea of Japan」が標準的な地名であり、国連公式文書においては標準的な地名として「Sea of Japan」が使用されなければならないとの方針を公式に回答した。

「地名について争いがある場合には、それぞれが主張する地名を併記すべき」という韓国側の主張に関しても、「併記することは従来の国連の慣行を破ることであり、中立ではなくなる」とし、中立・公平であろうとするならば、従来の慣行を維持すべきであると回答している[22][23]

この国連の回答に対して韓国政府は、国連の公式文書上においては「地名について争いがある場合には合意に至るまで最も広く使用されている名称を使用する」という国連事務局の内部慣行に基づいて、便宜的に「Sea of Japan」単独表記が使用されているのであって、国連が「Sea of Japan」を標準的な地名として承認したわけではないとの見解を採っている。そのうえで韓国政府は、国連事務局のこうした慣行に対して異議を表明し、事務局に慣行の変更を要請している。韓国は、この要請に対して国連からは「単独表記の慣行はどちらか一方の立場を支持するためのものではなく、また、一方の当事国の立場の強化のために援用すべきものでもない」との回答があったとしている。

ロシアの立場

日本海を沿岸とし、日本海に領海EEZを保有する国は、日本・韓国・北朝鮮のほかロシアがあるが、歴史上「日本海」と最初に命名したのは、ロシア海軍のクルーゼンシュテルン提督(1770~1846年)であることから[24]、ロシアは韓国が主張している「東海」は支持しておらず「日本海のままで構わない」との立場であり、ロシア連邦政府の公式サイトにおいても日本海は「日本海」とのみ表記されている[25][26]

アメリカの立場

アメリカ地名委員会の方針

アメリカ合衆国連邦政府が使用する地名の統一・管理を行っているアメリカ地名委員会は、「Sea of Japan」が当該海域について同委員会が認める唯一の公式な名称であることを正式に決定し、その旨を公表している[27]

韓国側の主張する「East Sea」は、日本海の呼称としては別称としても登録されておらず、死海の別称として登録されている[28]。これにより、全ての連邦政府機関は「Sea of Japan」の使用を義務付けられているとともに、アメリカ国内の他の機関についても、同委員会の決定に基づいた表記を用いることが強く推奨されている。このことは2019年、国務省報道官室が大統領訪日中のコメントに関する質問を受ける中で「韓国が別の名称を使用していることを知っている」、「アメリカ政府はアメリカ地名委員会の決定した名称を使用しており、同委員会が該当水域に対して承認した名称は日本海だ」と回答していることからも裏付けられている[29]

これに対し、韓国側はたびたび反発しているものの、在韓米軍が日本海で韓国軍との合同軍事演習を行う際にも、米軍側では「日本海」の呼称が使用されている[30]。韓国側の要求で止むを得ず、演習期間中のみWebサイト上で「East Sea」の表記を使用したこともあるが、この時も演習終了の翌日には「East Sea」の表記を使用した箇所全てが「Sea of Japan」に修正された[31]

アメリカインド太平洋軍の声明

アメリカインド太平洋軍は2020年6月25日、北朝鮮が日本海に向かってミサイル発射を実施[32]したことに対して、声明を発表し、その中で日本海の呼称を「東海」と記載した。これに対し日本政府が訂正を求め、これに応じ報道官のマイク・カフラ大佐は、今後「日本海」とするとした。その一方、同地域を「The waters off the east coast of the Korean Peninsula(朝鮮半島東海岸の海域)」として呼称する可能性も示している[33]

IHOへの意見書

2011年8月には、日本海を「日本海」と単独表記することが望ましいとする、アメリカ政府の公式な意見書がIHOの実務者会合に提出され、IHOのWebサイトに掲載された。国務省の定例記者会見でも副報道官が「我々は国際的に認知された用語である『日本海』を使う」と明言し、アメリカ政府として「日本海」単独表記を支持する従来からの立場に変更がないことを改めて明らかにした[34][35]

東海への変更の請願

2012年6月には、韓国系アメリカ人の団体から提出された、日本海の表記を「東海」に変更することを求める請願に対するアメリカ政府の公式回答が、ホワイトハウスのWebサイト上に掲載された。この中でアメリカ政府は、「各々の海洋を単一の名称で言及することは、米国の長年にわたる方針」であり、国境を接する複数の国々がそれぞれ独自の名称を付けている海域にもこの方針が適用されるとしたうえで、日本海については「"Sea of Japan"(日本語では「日本海」、ハングルでは、「일본해」(イルボンヘ:「日本海」の意))と呼ぶのが長年にわたる米国の方針」であるとの見解を示した。なお、韓国が日本海を "East Sea"(日本語では「東海」、ハングルでは「동해」)と呼称している点に関しては「韓国にその命名法を変更するよう求めてはいない」と回答している[36]

このアメリカ政府の方針は、2014年1月22日の国務省での記者会見でも確認された[37][38][39]

日本海と東海の併記の請願

2017年3月21日には、ホワイトハウスのオンライン請願ページである「We the People」(en:We the People (petitioning system))に「米国は、2017年4月24日のIHO会議における『東海』と『日本海』の両方の名称を認める修正案に賛成するよう、米国の方針を変更すべきである。」との請願が提出された。これに対して、ホワイトハウスは、地名を決定するアメリカ地名委員会(BGNen:United States Board on Geographic Names)がそれぞれの海に対して一つの名称を「伝統的名称」として使用することを長年慣例にしているため、請願に対しては、米政府にとっての伝統的名称である「日本海」を公式表記として使用し続けると回答した[40][41]

州における動き

上記のようにアメリカ政府は日本海単独呼称を支持しているが、州には独自の権限があるため、韓国系移民が州議会に東海を併記するよう組織的に働きかけている。2014年には、韓国系アメリカ人が多く居住しているバージニア州で、公立学校の教科書において日本海について記載する際に「東海」も併記するよう求める州法案が州上院と州下院の本会議で可決、バージニア州知事がこの法案に署名して成立し、バージニア州の公立学校で使用する教科書においては、東海が併記されることが決定した[42][43][44][45]

2019年にはニューヨーク州教育局が州内の公立学校に対し韓国が主張する"東海"を日本海と併記して教えることを勧める通達を出している。通達は同年8月6日で州議会議員2人が通達を要請していた。この通達について在NY日本総領事館は同月、州教育局に対して「我が国の主張と相容れない内容だ」などとする申し立てを行った。

国務省領事局

2014年10月には、米国国務省領事局 (U.S. Passports & International Travel) は、韓国旅行情報ページにある地図上の日本海について、韓国の主張する「東海」表記から「日本海」(Sea of Japan) と改めており、同時に竹島Liancourt Rocks と表記している[46][47]

なお、これは米国国務省本体のホームページにおける韓国、日本、北朝鮮のそれぞれの紹介ページの地図においても同様である[48][49][50]

イギリスの立場

イギリス政府もアメリカと同様に、日本海を「日本海」と単独表記することが望ましいとする意見書をIHOの実務者会合に提出している[35]

中国の立場

中華人民共和国(中国)でも日本と同様に、日本海を「日本海」と呼んでいる。

韓国はたびたび抗議しているものの、中国では慣習的に東シナ海を「東海」と呼称することが定着しており、日本海を「東海」と呼称すると混乱が生じるため、実用的な観点から「日本海」の表記が使用されている[51]。このため、同国における公的な測量・地図制作機関である国土資源部傘下の国家測絵地理信息局などをはじめ、中国政府の公式サイトにおいても当該海域は「日本海」の単独表記となっている[52][53]

また、2008年8月24日に行われた北京オリンピックの閉幕式の際、会場の巨大スクリーンおよび世界中のテレビ画面に、英語表記の東アジアの地図が登場したが、地図の日本海には「Sea of Japan」とだけ表記されていた。この地図は韓国で波紋を呼び、韓国メディアにより批判的な報道がなされた[54]

日本海の歴史的名称に関する調査

日韓両国政府による日本海に関する欧米諸国の古地図調査[55]
地図製作時期 16世紀 17世紀 18世紀 19世紀 不明 合計
調査実施国 日本 韓国 日本 韓国 日本 韓国 日本 韓国 日本 日本 韓国
調査対象国 合計 合計 合計 合計 合計 合計 合計 合計 合計 合計
日本海 1 0 1 2 - 3 14 5 22 17 47 24 23 2 96 36 1059 206 487 27 50 1829 69 10 1110 254 516 29 50 1959 122
東海 0 0 3 3 - 0 0 0 0 39 5 0 7 1 13 341 1 0 3 0 0 4 60 0 6 0 13 1 0 20 440
朝鮮海 0 2 0 2 2 4 2 8 94 49 159 5 307 92 6 37 4 8 147 7 188 68 198 9 8 471
東洋海 0 0 3 3 4 20 14 38 14 4 57 - 75 2 0 3 - - 5 8 20 32 77 - - 129
中国海 3 5 12 25 16 11 36 18 86 28 8 6 8 1 56 10 0 5 1 0 - 32 - 4 22 56 39 1 - 203 54
その他の名称
(併記を含む)
0 5 13 3 18 41 17 16 - 80 22 4 - - 12 42 43 - - 146
記載無し・
判別不可
32 - 44 76 83 - 83 166 116 - 152 4 272 109 - 120 5 - 234 - 340 - 399 9 - 748
合計 36 7 68 111 29 106 74 140 320 125 301 83 422 13 819 467 1285 217 655 36 58 2251 141 29 1728 410 1285 49 58 3530 762
1723年にフランスで発行された地図。「朝鮮海」(Mer de Corée) と表記されている。
1815年にイギリスで発行された地図。「日本海」(Sea of Japan) と表記されている。
韓国側が「東海」(East Sea) と同一視し、自らの主張の根拠としている「東洋海」(Mer Orientale) 表記の地図(1700年にフランスで発行)。
1853年嘉永年間に描かれた「地球万国方図」では、現在の日本海を「朝鮮海」とし、太平洋側を「大日本海」としている。

フランス国立図書館における調査

韓国側は「『日本海』の名称が支配的になったのは、20世紀前半の日本の帝国主義植民地主義の結果である」「17世紀から19世紀まで西洋人はこの海域について様々な名称を使用したが、韓国に言及した名称を使用した地図が最も多い」などと主張し、その根拠として古地図調査の結果を挙げている。韓国によるフランス国立図書館調査では、16世紀から19世紀の間に発行された地図515枚のうち、日本海海域に海の名称の記載のあるものは115枚であり、このうち62%に当たる71枚が、「朝鮮海 (Mer de Corée)」又は「東海 (Mer Orientale)」と表記しており、「日本海 (Mer du Japon)」と表記した古地図は19%に当たる22枚であるということになっていたと主張した。なおMer OrientaleのOrientaleとは、「西洋」の対立概念としての「東洋」を意味する語であり、方角としての「東」を意味するものではないが、韓国側はこれを East Sea と同一視して「東海」として扱っている。

これに対し、日本の外務省は2004年(平成16年)に、同フランス国立図書館所蔵の16世紀から19世紀の間に発行された古地図1495枚を対象に調査を実施した。その結果、日本海海域に海の名称の記載のある地図は407枚あり、そのうち「日本海 (Mer du Japon)」表記は249枚あり、「朝鮮海 (Mer de Corée)」は60枚だった。特に、19世紀前半に発行された地図では、全体の90%に当たる99枚が、19世紀後半に発行された地図では、100%に当たる105枚が「日本海」と表記していた。韓国側が「東海」としていた「東洋海 (Mer Orientale)」は32枚あったが、「東海」と記載された地図は1枚も発見されなかった。

アメリカ議会図書館における調査

また、韓国側は、アメリカ議会図書館所蔵の古地図も調査しており、その調査によれば、1800年以前に発行された同図書館所蔵の古地図228枚を調査した結果、103枚が日本海周辺を含むものであり、このうち66%に当たる68枚が、「朝鮮海」又は「東海」と表記しており、「日本海」と表記した古地図は14%に当たる14枚に過ぎないということになっていた。

これに対し、日本の外務省が1300年から1900年の間に発行された同アメリカ議会図書館の調査を実施したところ、韓国側が調査の対象とした1800年以前に発行された地図だけでも445枚が所蔵されており、韓国側が調査した228枚はそのうちの僅か51%にすぎないことが確認され、さらに、日本海海域を示している地図は総計1728枚発見された。それらの地図のうち、同海域に何らかの呼称を記載している地図は1435枚あり、これらの地図の77.4%に当たる1110枚の地図が「日本海」という表記を用いていた。一方、「朝鮮海」と記載した地図は188枚 (13.1%)、「東洋海」と記載された地図は20枚 (1.4%)、「東海」と記載された地図はわずか2枚 (0.1%) にすぎなかった。

大英図書館・ケンブリッジ大学図書館における調査

韓国政府は、大英図書館及びケンブリッジ大学所蔵の1801年から1861年の間に発行された古地図に関する調査でも、大英図書館には日本海周辺を含むものが1枚も所蔵されておらず、ケンブリッジ大学には、6枚のみ(うち5枚が「朝鮮海」、1枚が「日本海」)所蔵されていると主張した。

しかし、これについても、日本側が同じ調査を行ったところ、大英図書館には日本海周辺を含むものが37枚保存されており、そのうち「日本海」と表記されているものは32枚、「朝鮮海」と表記されているものは5枚であった。また、ケンブリッジ大学には日本海周辺を含むものが21枚保存されており、そのうち「日本海」と表記されているものは18枚、「朝鮮海」と表記されているものは3枚であった。

調査の評価

上記の通り、イギリスフランスでの韓国側の調査についても同様の問題点が指摘されており、調査の客観性に疑問があるこれらの調査結果を基にした韓国側の主張には根拠がないと結論付けられており、また日本政府の海外図書館所蔵資料の調査結果から、歴史的にも「日本海」という表記が最も一般的であったことがうかがえる。


  1. ^ 日本においても、古くは近畿地方を中心とした方位方角に由来する呼称で周辺の海域を呼んでおり、日本海を「北海」と呼ぶこともあった。ただし現在ではこの呼称は、日本周辺の海域の名称としては、非公式な文脈で漠然と北方の海や北海道周辺の海を指すのに用いられる程度である。
  2. ^ 韓国のメディアであるKBSワールドラジオ中国語放送や簡体字記事で、この問題以外の内容は、東シナ海との区別や中国人リスナーへの配慮のため、「韩国东海」(ピンイン:hánguódōnghǎi、ハングォードンハイ)を用いる。それ以外の漢字文化圏のKBSワールドラジオは、単に「東海」(日本語放送の読みは「とうかい」)である。
  3. ^ 北朝鮮政府の公式見解は、朝鮮中央通信や対南宣伝ウェブサイト「わが民族同士」などの国営報道機関と、北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」を通じて発表されている。





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「日本海呼称問題」の関連用語

日本海呼称問題のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



日本海呼称問題のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの日本海呼称問題 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS