大阪市交通局
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民営化に至った経緯
關淳一市長下
大阪市交通局は、地下鉄事業への投資の蓄積・市バス事業の業績悪化・公有地土地信託事業(フェスティバルゲート・住之江公園駅のオスカードリーム)の失敗で多額の負債を抱え(ただし、地下鉄事業に限れば2003年度より単年度黒字になり2010年度には累積欠損金を解消している)、業務効率化と収支状況の改善を図るため、大阪市の市政改革本部の打診を受けて大阪市交通局で2006年度中に公設民営化を前提とした経営形態のあり方を検討していた。
その間、2006年5月に独自に関西経済同友会が完全民営化の提言を行い、2006年6月9日には公設民営化ではなく将来的には「株式上場も視野に入れた完全民営化」を実施する方向で検討に入ると発表した[27][28]。
その後の協議の結果、2007年1月、大阪市交通局経営形態検討会により現状の経営のままでは、市バスは赤字額が大きいために民営化(株式会社化)は難しく、2,000人以上の職員のリストラを実施するなどの経営改善施策を採った場合には、地下鉄とバスの両方の民営化が可能との見解をホームページ上で公開した。
これを受けて市政改革室も公営交通事業の民営化の可能性を検討に入ったが、大阪市会の交通水道委員会の議員らが「福祉バス路線の縮小反対」や「大阪市交通局は市民の資産であって切り売りは許されない」などとして猛反発し、結局2007年3月に当時大阪市長の關淳一が「大阪市交通局の経営形態はあらゆる方向性を視野に入れて、もっと時間をかけて検討すべき」と従来の姿勢から一歩後退した姿勢を見せた。
平松邦夫市長下
この地下鉄民営化が争点の一つとなった、2007年11月18日投開票の大阪市長選挙では、民営化の検討を公約に掲げた關が落選した。他方、当選し大阪市長に就任した平松邦夫は、当面は公営のまま経営形態を維持して経営改善を図ることを主張していた。仮に民営化を検討するにしても、その是非は将来に制度化を目指す住民投票制度を通じて市民に問うものとしていた。
2010年8月になり、大阪市は再び民営化計画を見直し、市営地下鉄の運営部門を上下分離方式により民営化させる政策を打ち出した[29]。線路などの設備は従来どおり市が保有し、列車の運行に関する部門は新会社が担当する。これによって3400人ほどの職員を削減でき、経営の効率化が図れるという。
その後、市長は2011年11月の選挙で当時現職の平松が落選し、翌12月に橋下徹に交代した。
橋下徹市長下
2012年6月19日に開かれた大阪府市統合本部会議において、地下鉄事業は「上下一体での民営化」、バス事業は「地下鉄事業とは完全分離して運営、かつ民営化」という方針を打ち出し、この方針のもとに2012年12月に民営化基本方針(素案)、2013年2月に素案を改訂した民営化基本方針(案)を策定した[30]。
橋下は、大阪市会に、2013年2月15日に「大阪市高速鉄道事業及び中量軌道事業の廃止に関する条例案」、「大阪市自動車運送事業の廃止に関する条例案」をそれぞれ提出した。2014年9月9日には地下鉄運営の新会社設立のための出資金を計上した「平成26年度大阪市高速鉄道事業会計補正予算(第2回)」が提出された。
2014年11月21日に、大阪市会は「大阪市高速鉄道事業及び中量軌道事業の廃止に関する条例案」、「大阪市自動車運送事業の廃止に関する条例案」および「平成26年度大阪市高速鉄道事業会計補正予算(第2回)」を否決したが、その後2016年2月3日に、市バスの2016年度の営業成績が、31年ぶりの黒字となった2013年度以来3年ぶりの赤字になる見通しとなったため、大阪市が民営化案を提出した。
2017年に大阪市は市会に地下鉄事業の廃止議案を提出し、自由民主党など2/3以上の賛成が得られる見通しとなり、2017年3月28日の市会本会議で大阪維新の会・自由民主党・公明党などの賛成多数で地下鉄事業の廃止議案が可決された[31][3][10]。
これにより、2018年4月1日から市営地下鉄事業(新交通システムを含む)は大阪市が全額出資して設立される新会社・大阪市高速電気軌道株式会社が[32][4][7]、市営バス事業は大阪シティバス株式会社[10][7]がそれぞれ引き継ぐことになり、日本国内の地方自治体の公営地下鉄では初めてとなる民営化が実現することになった[注釈 2]。ただし、前述のとおり保有路線の大部分は法的には軌道扱いのため、大阪市高速電気軌道は「軌道経営者」かつ「鉄道事業者」となる。なお、地下鉄事業を継承する大阪市高速電気軌道株式会社は、民営化基本方針(案)では大阪地下鉄株式会社の仮称が使用されていた。
地下鉄は重要な交通インフラだとして地下鉄の新会社は民営化後も大阪市が全株を保有する株主となるため市に経営決定権がある。また、交通局保有の関西電力株(約1500万株)を譲渡する代わりとして安全対策・交通政策の維持のために交通政策基金を創設することが発表されている[33]。また大阪市は、大阪市交通局事業の廃止後も、「大阪市高速電気軌道株式会社および大阪シティバス株式会社の監理」、「大阪市域内における地域交通政策(BRT社会実験含む)」「交通政策基金の所管」を主な事務とする、大阪市長直轄の「都市交通局」を2017年7月1日付で新たに設置することも発表している[4][24][7]。
2018年1月25日、公式の愛称を英文表記で「Osaka Metro」とすることを決定した[34]。ただし大阪市は「大阪市高速電気軌道」のほか「大阪メトロ」「大阪地下鉄」を2017年に商標出願しており、いずれの表記も民営化後の活用を検討している[35]。また、大阪市高速電気軌道は運営開始と同日に、大阪市の第三セクターとなっている大阪地下街を純民間会社化した上で大阪シティバスとともに系列企業とすることとしている。
注釈
- ^ 大阪市高速電気軌道株式会社は2017年6月1日付で準備会社として設立されるが、事業開始後も社名は大阪市高速電気軌道のままとなる[4]。これについて吉村洋文大阪市長は「法律的にはこの社名にする必要がある」と会見で発言している[9]。
- ^ 東京都の場合、東京地下鉄の前身である「帝都高速度交通営団」が当初から東京都による公企業として日本民営鉄道協会に加盟している法人扱いであり、営団地下鉄が建設できなかった路線を東京都が運営している「都営地下鉄」が公営地下鉄にあたるという体系であるため、日本の市が運営する地下鉄が民営化としては初めてのケースとなる。
- ^ カレンダー上の土曜・休日。土曜・休日ダイヤ実施日でもカレンダー上で「平日」であれば適用外。(2011年12月30日が適用外第1号)
- ^ 定期券の場合は現物を購入後に券面をコピーしたものを提出するケースが多い。
出典
- ^ 大阪市交通事業の設置等に関する条例
- ^ a b 大阪市交通局|2018.4.1 大阪市営地下鉄・バスが変わります! - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2018年2月10日アーカイブ分)
- ^ a b c “大阪市営地下鉄が公営初の民営化、18年4月 市議会が可決”. 日本経済新聞. (2017年3月28日) 2017年3月28日閲覧。
- ^ a b c d e f g “6月に地下鉄新会社を設立 18年の民営化向けて”. 毎日新聞. (2017年5月18日) 2017年5月18日閲覧。
- ^ a b 大阪市営地下鉄、民営化に向け「市高速電気軌道」 6月設立へ - 産経WEST - ウェイバックマシン(2017年9月12日アーカイブ分)
- ^ a b 大阪市交通局|地下鉄事業株式会社化に向けて「準備会社」を設立します - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2018年2月10日アーカイブ分)
- ^ 大阪市交通局|地下鉄新会社の愛称・ロゴが決まりました - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2018年2月10日アーカイブ分)
- ^ a b “大阪・地下鉄民営化に向け準備会社を6月に設立”. THE PAGE 大阪. (2017年5月18日) 2017年5月18日閲覧。[リンク切れ]
- ^ a b c 地下鉄民営化 条例案を可決|NHK 関西のニュース - ウェイバックマシン(2017年3月29日アーカイブ分)
- ^ “「Osaka Metro」手探り発車 来月1日民営化 関西最大規模、当面は市が100%株主”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2018年3月27日) 2018年3月30日閲覧。
- ^ a b 大阪市交通局 (2015年8月). “大阪市営地下鉄のマーク” (PDF). SUBWAY 日本地下鉄協会報 第206号. 日本地下鉄協会. pp. 39-40. 2018年10月3日閲覧。
- ^ 大阪市:報道発表資料 地下鉄新会社の愛称・ロゴが決まりました - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2018年5月15日アーカイブ分)
- ^ “民営化で「マルコ」さよなら 大阪市営地下鉄、切り替え”. 朝日新聞 (2018年3月22日). 2018年4月30日閲覧。
- ^ “ご存知ですか? 5月20日は大阪市に地下鉄が開業した日です”. 文春オンライン. (2017年5月20日) 2017年5月20日閲覧。
- ^ 「鉄道記録帳」『RAIL FAN』第51巻第10号、鉄道友の会、2004年10月号、27頁。
- ^ ~市営交通とOTS線の連絡乗車料金が安くなります~OTS線を交通局が一体的に運営し、通算料金とします、大阪市交通局、2005年6月7日。 (PDF) (インターネットアーカイブ)
- ^ 「大阪市営地下鉄・ニュートラム全101駅硬券セット」に同封されている解説より。
- ^ ~7月1日から交通局がOTS線を一元的に運営~市営交通エリア拡大記念乗車券の発売について、大阪市交通局、2005年6月13日。 (PDF) (インターネットアーカイブ)
- ^ 大阪市交通局|地下鉄・ニュートラムの2区運賃を値下げします - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2017年2月11日)アーカイブ分
- ^ 大阪市交通局|ICカード乗車券を活用した連携サービスの拡大について - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2015年5月1日アーカイブ分)
- ^ 大阪市交通局|大阪市交通局における今後のICカード戦略について - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2015年5月1日アーカイブ分)
- ^ a b 大阪市交通局|ICOCAおよびICOCA定期券を平成29年4月1日から発売開始します - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2017年2月11日アーカイブ分)
- ^ a b 大阪市交通局|市長直轄の新たな局「都市交通局」を設置します - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2017年8月9日アーカイブ分)
- ^ 大阪市交通局|地下鉄・バスIC連絡定期券等の発売開始について - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2018年2月10日アーカイブ分)
- ^ 大阪市交通局|ICカードによる連絡定期券の発売開始について - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2018年2月10日アーカイブ分)
- ^ 大阪市営地下鉄「完全民営化」も検討 公設民営から転換 - 朝日新聞、2006年6月9日。
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- ^ 大阪市交通局|地下鉄事業・バス事業民営化基本方針(案) - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2014年11月10日アーカイブ分)
- ^ “大阪市営地下鉄、民営化へ 公営で全国初”. 日本経済新聞. (2017年3月23日) 2017年3月25日閲覧。
- ^ 大阪市営地下鉄が民営化 公営で全国初、来春に移行 - 共同通信 47NEWS - ウェイバックマシン(2017年9月12日アーカイブ分)
- ^ <大阪地下鉄民営化>「公営」色強く残り メリット実感先に(毎日新聞) - goo ニュース - ウェイバックマシン(2017年3月29日アーカイブ分)
- ^ “「大阪・市営地下鉄新会社の愛称「Osaka Metro」に決定 外国人にもわかりやすく”. 産経WEST (産業経済新聞社). (2018年1月25日) 2018年4月2日閲覧。
- ^ “「大阪メトロ」などを商標出願 大阪市が来春の地下鉄民営化で活用検討”. 産経WEST (産業経済新聞社). (2017年6月15日) 2018年3月30日閲覧。
- ^ a b c 大阪市交通局|エンジョイエコカードの発売について - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2013年5月23日アーカイブ分)
- ^ 大阪市交通局|スルッとKANSAI対応カード「レインボーカード」の発売及び自動改札機等での取扱いを終了します - 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(2016年8月9日アーカイブ分)
- ^ 報道発表:偽造レインボーカード対策について (Internet Archive)
- ^ 敬老優待乗車証を交付します - 大阪市福祉局
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