国内総生産 計数の特徴

国内総生産

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/23 23:50 UTC 版)

計数の特徴

国民総生産と国内総生産の違い

国内総生産(GDP)にしても国民総生産(GNP)にしても、「国籍」は関係がない。[4]。「国民総生産」でいう「国民」とは当該国の居住者主体を対象とする経済的な概念であり国籍とは関係がない[4]。個人の場合、主として当該領土内に6か月以上の期間居住しているすべての人を含む一方、一般に国外に2年以上居住する人は非居住者として扱われる[4]

GDPとGNPの違いは端的に次の式であらわされる。 GNP=GDP+第一次所得収支 すなわちGDPに、海外から得た利子配当の類を加えたものである。例示すれば、トヨタが海外で付加価値を計上したとして、海外の雇用者に支払われた給与は日本のGDPにもGNPにも加算されることはないが、付加価値の内日本に利子配当などの形で日本に送金されたものは、日本のGDPには加算されないが、GNPには加算される。むろん逆のケースでは日本のGDPから差し引かれる場合もある。

「国の実体経済」を表す指標としては、国民総生産(GNP)よりも国内総生産(GDP)が重視されるようになった[12][13]。1980年代頃までは国の経済の規模・成長を測るものさしとして国民総生産(GNP)がよく用いられたが、時代が下るにつれて進展していった経済のグローバル化に伴い、国家を単位とする経済指標としては実態に即さなくなったと考えられるためである。

国連の1993SNA等ではGNPの概念そのものがなくなっており、それに代わる概念として国民総所得(Gross National Income = GNI)が導入されている[12]。国内総生産を推計する体系を国民経済計算(体系)と呼ぶように、国民概念がもともと利用されてきたが、国内の経済活動状況を判断する基準としては国内総生産を使用することが一般的となった。日本でも1993年から国民総生産に替わって国内総生産を使用するようになっている。

問題点

国内総生産は各国の経済力を示す重要な指標であるが、計算方法を公開していない推計値であると山内竜介[14]はしている。日本の国内総生産を公表する内閣府は非公開の理由を、「国家機密に当たる」としていると山内竜介は主張する。また、山内竜介によれば計算数式は毎年改良されるので、どれほど客観性、継続性があるか明らかではない[15]。しかし、どのように基礎統計を用いて国民経済計算を作成するかなどは内閣府によってある程度公開されている[16]

また、ロシアや中国をはじめとする権威主義的・独裁的国家は政治的目的のため自国のGDP成長率を過大に発表していることが指摘されており、それらの国ではGDPの数値と実際の経済との間に大きな乖離がある可能性がある[17][18]

ダイアン・コイルは「GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史[19]」の中で、問題点を指摘している。まず金融仲介の生産高は金利差を使っているのでリスクの高い投資をすればするほどGDPが増える。また公的部門の計算には費用を使うので、公的部門が肥大するとGDPも増加する。ソフトウェアはGDPが増えない中間原材料とも、GDPが増える投資として考えることもできる。ただし「GDPより良い指標はない」という。評者の脇田成首都大学教授は、日本の2013年度のGDP統計では、各項目の税収が増えているのにマイナス成長という不思議なことが起こっているという[20]

アンガス・ディートン[21]は、今までの経済成長は物質量ではかられてきたため電子メールなどによる生活水準の向上が過小評価されてきたとする[22]

今井賢一・一橋大名誉教授・米スタンフォード大学教授は「21世紀経済はGDPでは測れない」という。無料のサービスが普及したからだという。例えばスカイプ、ライン、メールなどの普及で郵便や電話によるGDPは減少する。今井は河川、森林、野生生物などの価値が「自然資本」として重要性を持つと述べる[23][24][25][26]

オスカー・モルゲンシュテルン[27]は、GDPの統計誤差は5%以上あったとしている。

2009年、国連は計算基準を見直し、企業の研究開発費、防衛装備費、不動産仲介手数料、特許使用料も加えることとした。そのため日本のGDPは3%程度(約15兆円)増加する見込みである。世界各国は早めに導入済みで、日本では2016年7-9月から導入され、2016年7-9月より前のGDPに対しても、再計算されることになる[28]

タックス・ヘイヴンオフショア金融センター)にある資金は世界GDPの1/3である推定21兆~32兆ドルといわれ、GDPの計算がどこまで意味があるか不明となっている。


注釈

  1. ^ 「ストック(物と知識)をつくるを含む」と「フロー(需要と供給)」がともに可能な産業職業は、主に製造業建設業(日本のGDPを試算・算出する際に製造業の内閣府機械受注統計調査と建設業の国土交通省建設工事受注動態統計調査を使用する)、知識産業医師歯科医師獣医師薬剤師プログラマシステムエンジニアなど)や、職能産業・エッセンシャルワーカー(航空旅客機パイロットトラック運転手バス運転手、タクシードライバー、旅客船海技士看護師愛玩動物看護師歯科衛生士歯科技工士登録販売者介護士保育士教員ブルーカラー建設作業員など)

出典

  1. ^ IMF (2019年10月). “World Economic Outlook, October 2019” (Excel). 2020年2月17日閲覧。
  2. ^ a b c GDPとGNI(GNP)の違いについて内閣府経済社会総合研究所
  3. ^ 【NHK】1からわかる!景気【下】オリンピック後は?就活への影響は?2020年2月13日
  4. ^ a b c d 用語の解説(国民経済計算)”. 内閣府経済社会総合研究所. 2020年2月18日閲覧。
  5. ^ 日本学術会議地球温暖化問題解決のために ―知見と施策の分析」2009年,p.17.
  6. ^ a b 大和総研 『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』 日本実業出版社・第4版、2002年、24頁。
  7. ^ “オランダの売春・麻薬の経済規模、チーズ消費額を上回る”. ロイター (ロイター通信社). (2014年6月26日). http://jp.reuters.com/article/wtOddlyEnoughNews/idJPKBN0F10XQ20140626?rpc=223 2014年7月27日閲覧。 
  8. ^ The Problem with GDP” (英語). Vision of Humanity (2022年5月6日). 2022年6月15日閲覧。
  9. ^ この節は、クルーグマン『マクロ経済学』東洋経済新報社、2009年、38 - 41ページおよび189 - 190ページを参考にした。
  10. ^ 飯田泰之・雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、32-33頁。
  11. ^ 飯田泰之・雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、83頁。
  12. ^ a b 用語の解説(国民経済計算)”. 内閣府経済社会総合研究所. 2020年2月18日閲覧。
  13. ^ 松原聡 『日本の経済 (図解雑学シリーズ)』 ナツメ社、2000年、30頁。
  14. ^ 読売新聞記者
  15. ^ 『GDP 秘密のレシピ」』山内竜介。読売新聞2015年2月12日朝刊「オン オフ」
  16. ^ 内閣府「国民経済計算の作成方法」2015年6月6日閲覧。
  17. ^ A study of lights at night suggests dictators lie about economic growth”. The Economist (2022年9月29日). 2022年12月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月31日閲覧。
  18. ^ Satellite data strongly suggests that China, Russia and other authoritarian countries are fudging their GDP reports”. Washington Post (2018年5月15日). 2018年5月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月31日閲覧。
  19. ^ 髙橋璃子訳、2015年、みすず書房
  20. ^ 「GDP」日本経済新聞2015年10月25日
  21. ^ プリンストン大学教授、2015年ノーベル賞。「経済学者、未来を語る」小坂恵理訳、NTT出版
  22. ^ 「GDPを問い直す」日本経済新聞2015年12月20日21面
  23. ^ 風知草:GDPでは すくえない=山田孝男毎日新聞 2015年10月19日 東京朝刊
  24. ^ 「ザ・セカンド・マシン・エイジ 」日経BP 2015年7月
  25. ^ 「戦後70年日本の強みは(下)自然資本と宗教に鍵」経済教室 2015年8月7日日本経済新聞 朝刊
  26. ^ 2012年6月17日、国連持続可能な開発会議(リオ+20サミット)で地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画(IHDP)は共同で「Inclusive Wealth Report 2012(IWR: 包括的な 豊かさに関する報告書)」
  27. ^ 「経済観測の科学」、法政大学出版会、1968
  28. ^ 日本のGDPが一気に3%底上げも 国連の計算方法見直し、600兆円挑戦に“朗報”産経新聞2016年5月6日(共同通信)
  29. ^ 米国をGDPで抜いた中国、すでに先進国家なのか?”. CNS (2020年5月28日). 2020年5月26日閲覧。
  30. ^ スティグリッツ『マクロ経済学』東洋経済新報社、第3版、2007年、90ページ
  31. ^ スティグリッツ『マクロ経済学』東洋経済新報社、第3版、2007年、93ページ
  32. ^ 2023年の名目GDP、日本はドイツに抜かれ世界4位に”. 読売新聞オンライン (2024年2月15日). 2024年2月15日閲覧。
  33. ^ 内閣府国民経済計算 1955年~1980年1980年~2010年[1]
  34. ^ a b 研究 : 安倍新政権の金融政策の経済学的根拠についてChuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2012年12月20日
  35. ^ A showdown's coming for Japan's economy if at first you don't succeed, lie, lie again CNN Money 1999年10月13日
  36. ^ 「ダイヤモンドZAi」5月号、2011年、170頁。
  37. ^ [2]
  38. ^ [3]
  39. ^ a b GDP(米国)”. 楽天証券. 2020年2月18日閲覧。






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