医師国家試験 医師国家試験の概要

医師国家試験

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/02 08:01 UTC 版)

医師免許証(白黒コピー)

日本の国家試験では最難関レベルのひとつとされる[1][2]

概要

医術開業試験が廃止された1916年(大正5年)以降、日本の医師養成制度は「医科大学医学専門学校の卒業者に無試験で医師免許を与える」と定む[3]

現行制度は、連合国軍最高司令官総司令部 (GHQ)の指導で1946年(昭和21年)に開始された[3]

医師国家試験は「医学の正規の課程(医学部医学科・6年制)を修めて卒業すること」が受験の必要条件で、合格率は例年90パーセント (%) 程度である[1]。医学部医学科は、運営母体の公私を問わず入学試験の難易度や競争率が高く[4]、医師国家試験(国試)の合格率が大学の評価に直結し、理学部工学部などに比べて進級および卒業の要件は厳格である[1]

医学部入学後、最終学年の第6学年まで進級して卒業試験に合格して医学部を卒業する全課程が、受験必要である。国試合格の学力を有する者でも、必修問題(以下項目「合格基準」参照)の絶対基準を満たせず不合格(「必修落ち」)となる事例が少なくない。また心理的な影響も指摘されている[1]

医師免許は、医師臨床研修の必須要件であるが医学科の卒業要件ではない。進学や就職など卒業後の進路選択や個々人の判断で国試不受験の者も散見される。本庶佑インターン修了後、大学院在学中に受験して合格した。

国試対策に特化した予備校やオンラインのサービスも多く、近年はカリキュラムの一部に国試予備校の授業や模擬試験を採用するなど、通常の講義とは別に国試対策を講じる医学部もあり[1]、このようなフォローが合格率に影響しているとされる[1]。医術開業試験時代も「前期3年、後期7年」と俗称されるなど難関の予備校が多かった。また予備校が正規の医学教育機関へ発展した東京慈恵会医科大学もある。

1980年代ごろに、医学部卒業者の能力を厚生省が再確認する必要性などからイギリスに倣い、卒業認定学外試験の導入を一時検討した[5]

医師国家試験は第一回から大学ごとの合格率など細かなデータが集計されているが[1]、他に難関とされる国家試験の合格率は何れも概数で、歯学部卒業が条件付く歯科医師国家試験65%[要出典]司法試験40%[注釈 1]一級建築士10%[注釈 2]技術士試験第二次試験10%[注釈 3]、受験資格不問の公認会計士試験[注釈 4]不動産鑑定士試験[注釈 5]第一種電気主任技術者試験[注釈 6]ITストラテジスト試験[注釈 7]などは10%とされ、受験者の出身校などを集計していない試験もある。

沿革

  • 1946年1月9日、医師実地修練制度に基づき、第一回医師国家試験が行われる[6]
    • この年は春に第二回、秋に第三回が行われ、唯一の年三回試験であった[6]
  • 1968年3月、新研修制度導入に反対する学生らが試験ボイコットを展開して受験者数は従前の試験の半分以下となり[7]、合格者数が減少する。
  • 1984年まで春・秋年二回行われていたが1985年から春の年一回となる。
  • 1993年より出題科目指定がなくなり、出題科目を全科とした総合問題形式となる。
  • 1997年から必修問題及び傾斜配点が採用される。禁忌肢導入[8]
  • 2001年より出題数が550問(のち530問)9ブロック(うち50問(のち30問)は試行問題)になり、試験日程が3日間となる。
  • 2003年、禁忌肢にもともとの「患者の死亡や不可逆的な臓器の機能廃絶に直結する事項」に加え「極めて非倫理的な事項」が追加され禁忌肢の出題可能性範囲が拡大された[8]
  • 2004年までは毎年3月に行っていたが、2005年より臨床研修義務化に伴い2月に行われる。
  • 2007年、試行問題がなくなり、出題数が500問、8ブロックの出題となる。
  • 2008年、必修の基本的事項、医学総論、医学各論のそれぞれの領域について、一般問題と臨床実地問題(長文形式含む)が同一ブロック内で出題されるようになり、3領域×3ブロック=9ブロックでの出題となる。
  • 2009年、事前に予告されていた新出題形式(多選択肢問題・計算問題・正解数を指定しない問題)のうち、多選択肢問題及び計算問題が採用される。一方、正解数を指定しない問題については出題されず、今後も採用されない[9]英語問題の出題開始。
  • 2010年芥川龍之介の小説「歯車」からの出題が104F17の問題で出題され、初めて病跡学的要素を含んだ出題となった[10]
  • 2012年、4年ぶりに改訂された新ガイドラインが厚生労働省から発表[11]。医師国試全体の目的として、新たに「臨床実習での学習成果を確認する」が追加[11]
  • 2015年、英語を取り入れた臨床問題が初出題[注釈 8]
  • 2018年、出題数が400問になり、試験日程が2日間に変更[12]

注釈

  1. ^ 法科大学院を修了せずに司法試験を受験できる司法試験予備試験の合格率は5%前後。記述式の論文試験がある。
  2. ^ 一定の学歴と実務経験が必要となる。試験は選択式の問題の他、製図の試験がある。
  3. ^ 受験資格不問の第一次試験(合格率40〜50%程度)合格後、一定年数以上の実務経験が必要となる。第二次試験では記述式の筆記試験合格後に口頭試験がある。
  4. ^ 記述式の論文試験がある。合格後に実務補習(標準課程は3年)を履修し修了試験に合格する必要がある。
  5. ^ 記述式の論文試験がある。また試験合格後に1~3年の実務修習が必要となる。
  6. ^ 二次試験は記述式の計算問題と論述問題である。
  7. ^ 論述試験がある。旧名称はシステムアナリスト試験
  8. ^ 2015年、第109回医師国家試験に初出題された英語を取り入れた臨床問題は以下のもの
    【109F25】
    44歳の男性.航空会社の職員に付き添われて空港内の診療所を受診した。持参した英文紹介状の一部を示す。
    This patient is a 44-year-old man with a complaint of right flank pain*.
    The pain suddenly occurred while he was on the airplane. It was colicky
    and radiated to the right inguinal region. Neither nausea nor diarrhea was
    associated. He had appendectomy when he was 8 years old.
    Urinalysis results:Protein(-),Sugar(-),Occult blood(2+),flank pain:lateral abdominal pain
    
    この患者にみられる可能性の高い身体診察所見はどれか
    
    a 腸雑音亢進
    b 陰嚢の透光性
    c 腹部血管雑音
    d Blumberg徴候
    e 肋骨脊柱角の叩打痛  答え e

    2001年-2005年までの問題、解答は非公表であったが、2005年11月11日に厚生労働省Web上にて公表となった。

  9. ^ アメリカのメディカルスクールなどが該当する。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 超難関「東大医学部」合格者でも落ちる…? 知られざる「医師国家試験」の凄まじい世界(原田 広幸) @moneygendai”. マネー現代. 2021年4月1日閲覧。
  2. ^ 東大医学部の「医師国家試験」合格率がふるわない5つの理由 歴代・合格率の高い大学ランキング”. AERA dot. (アエラドット) (2022年12月27日). 2024年4月21日閲覧。
  3. ^ a b 坂井建雄、澤井直、瀧澤利行、福島統、島田和幸 (2010). “我が国の医学教育・医師資格付与制度の歴史的変遷と医学校の発展過程”. 医学教育 41 (5): 337-346. 
  4. ^ 親に「医学部受験」を強要された多浪生たち…知られざるその「過酷な実態」(庄村 敦子) @gendai_biz”. 現代ビジネス. 2021年4月1日閲覧。
  5. ^ 医師国家試験 - 日本医学教育学会
  6. ^ a b c d e f g h 医師国家試験 - 日本医学教育学会
  7. ^ 受験生は半分以下 新研修制度に反対『朝日新聞』1968年(昭和43年)3月2日朝刊 12版 15面
  8. ^ a b 医師国家試験改善検討部会報告書”. 厚生労働省 (2020年11月). 2021年3月26日閲覧。
  9. ^ 医師国家試験改善検討部会 報告書 (PDF)
  10. ^ 日本頭痛学会”. www.jhsnet.net. 2021年4月1日閲覧。
  11. ^ a b 厚生労働省公式サイト - 平成25年版医師国家試験出題基準について
  12. ^ 医師国家試験の出題減少へ 18年から2日間で実施”. 日本経済新聞 電子版. 日本経済新聞社 (2017年4月13日). 2019年2月5日閲覧。
  13. ^ 医師国家試験の施行について|厚生労働省厚生労働省公式サイト。2011年11月28日参照。
  14. ^ 第117回医師国家試験の合格発表について - 厚生労働省
  15. ^ 第100回医師国家試験の合格発表について (PDF) (独立行政法人福祉医療機構)
  16. ^ 第117回 医師国家試験結果 2023年 医師国家試験の合格率は91.6%! (PDF) (旺文社 教育情報センター)
  17. ^ 「医師養成を厳しく 卒業後研修も5年 医師会会長が申入れ」『朝日新聞』昭和48年(1973年)2月16日朝刊、13版、3面


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