労働安全衛生法による健康診断 法的義務

労働安全衛生法による健康診断

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 02:16 UTC 版)

法的義務

健康診断の実施は事業者の義務であり(第66条1項)、使用者による健康診断の不実施は法違反となり、50万円以下の罰金に処せられる(第120条)。また、事業者の講ずる上記の措置は、労働安全衛生法に定める危険有害要因除去のための各種の措置とは異なり、その性質上労働者の努力なくしては予期した効果が期待できない。それゆえ事業者の実施する健康診断の受診は原則として労働者の義務であり(第66条5項)、労働者による健康診断の受診拒否は、就業規則等によって定める懲戒処分の対象となりうる[8]。なおストレスチェックについては、労働者の受検義務は課せられていないが(第66条では、「健康診断」からストレスチェックを除外している)、メンタルヘルス不調で治療中のため受検の負担が大きいなどの特別な理由がない限り、全ての労働者がストレスチェックを受けることが望ましい。当該事業場でストレスチェックを実施する時点で休業している労働者については、事業者は当該労働者に対してストレスチェックを実施しなくても差し支えない[5]

健康診断の実施費用を労使いずれが負担すべきかについて法律の定めはないが、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであるとされる[9][5]。労働者へ費用負担を強いると、健康診断を受けない労働者が発生するおそれがあり、使用者の健康診断実施義務が果たせないからである。ただし、事業主が実施する健康診断を受けず、労働者本人の都合により各自で受ける場合などには、本人負担となる場合もあり、実際には就業規則等の定めによることになる。

受診時の賃金に際しては、特殊健康診断は、受診に要する時間が労働基準法上の労働時間と算定されるため[9]、健診が法定労働時間外に行われた場合、事業者は割増賃金を支払わなければならない。一般健康診断・二次健康診断・ストレスチェック及びその後の面接指導は、受診に要した時間に係る賃金の支払いについては当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議をして定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、一般健康診断・ストレスチェック及び面接指導を受けるのに要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいとされる[9][5]

事業主は、外国人労働者に対して健康診断を実施するに当たっては、健康診断の目的・内容を当該外国人労働者が理解できる方法により説明するよう努めること。また、外国人労働者に対し健康診断の結果に基づく事後措置を実施するときは、健康診断の結果並びに事後措置の必要性及び内容を当該外国人労働者が理解できる方法により説明するよう努めること。また、事業主は、産業医、衛生管理者等を活用して外国人労働者に対して健康指導及び健康相談を行うよう努めること、とされる(「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号))。

規模の大きい事業者では、通常の勤務時間内に事業者指定の病院(事業者自身が経営する病院のこともある)や健診センターで一般定期健康診断を受診させることが多く、その間の時間は有給であるのが一般的である。規模が小さい事業者では、勤務時間外に各労働者が選択した病院等で一般定期健康診断を受けさせ、後日、その費用を会社が支給していることもある。この場合は受診時間は無給となる。

なお、50人未満の労働者を使用する事業場の事業者は、特定の要件を満たせば、健康診断の費用として小規模事業場産業保健活動支援促進助成金を受けることができる(新規の申込みの受付は停止中)。


注釈

  1. ^ 健康診断項目の省略については、年齢等により機械的に決定するのではなく、個々の労働者について、医師が健康診断時点の健康状態、日常生活状況、作業態様、過去の健康診断の結果、労働者本人の希望等を十分考慮して総合的に判断すべきものであること(平成10年6月24日基発396号)。

出典

  1. ^ 東京海上火災保険・海上ビル診療所事件
  2. ^ 「採用時の健康診断について」平成5年5月10日付労働省事務連絡
  3. ^ 平成22年1月25日厚労告25号
  4. ^ a b c d 「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」
  5. ^ a b c d e f g h 平成27年5月1日基発0501第3号
  6. ^ 労働安全衛生規則の一部を改正する省令案概要厚生労働省
  7. ^ 「労働安全衛生法のはなし」p.305
  8. ^ 愛知県教委事件、最判平成13.4.26等
  9. ^ a b c 昭和47年9月18日、旧労働省労働基準局長名通達602号
  10. ^ 「労働安全衛生法のはなし」p.275〜278





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